ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヒメボタルの写真について

2020-06-07 17:41:20 | ヒメボタル

 ヒメボタルの写真は、単にインスタ映えするという理由から昨今ではインターネット上に大変多くの写真が溢れ、またそれを撮ろうとヒメボタルの生息地には、大勢のカメラマンが群がっている。
 ちなみに、ここで言うヒメボタルの写真とは、マクロ撮影ではなく、乱舞している光景の写真についてである。

 私がホタルの写真を撮り始めたのは、今から40年以上も前からであるが、ほとんどが成虫等を接写した生態写真であった。勿論フィルムである。飛翔風景はネガでもポジでも難しく、何とか見せられる写真が撮れるようになったのは2000年頃であった。ヒメボタルの写真を撮り始めたのは2004年だったが、ゲンジボタルやヘイケボタルよりも難易度が高く、やっとフィルムで奇麗な写真が撮れたのは2009年で、ISO1600のネガフィルムで1時間近く露光したものである。
 フイルムで苦労していたところ、2006年あたりからデジタルカメラが広く普及し始め、私も2009年の秋からデジタル一眼レフ(現在も愛用の Canon EOS 5D Mark Ⅱ)を使い始めたが、デジタルで、フィルムと同じような長時間露光でホタルの飛翔風景を撮ろうとすると、数分が限度で、あまり長い時間露光するとノイズがひどくて良い結果は得られなかった。
 ところが、新しい撮影方法により、フィルムに勝るとも劣らない画像を得られるようになった。それが、パソコンソフトによる合成である。今では、デジタルカメラも進化し、撮影時にカメラ内で自動で背景と光を重ね合わせてくれる機種も登場しており、パソコンソフトでの作業とともに、ホタル撮影では一般的な方法となっている。フィルムにおいても、長時間露光ではなく、予め撮影した背景に多重露光によってホタルの光を重ねることもできたが、露出計算が難しく、結果は現像してからでなければ分からなかったが、デジタルは楽である。(参照:ホタル写真の変遷
 誰でも簡単にホタルの飛翔風景が撮れるようになった昨今、インスタ映えするヒメボタルの写真にカメラマンが群がっているのである。

 ヒメボタルの写真は、確かに幻想的で美しい。撮るのは自由である。私も各地で撮影しているが、私は撮影者であると同時に観察者として現場に立っている。ホタルの生態や生息環境について調べ始めて48年以上経ったが、未だに分からないことが多い。そのため、ホタルの飛翔風景写真を撮影する場合は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的としている。ヒメボタルでもゲンジボタルでも、他のホタルでも同様である。
 では、インターネット上に溢れる多くのヒメボタルの写真はどうだろうか。そんなに飛翔していなくてもパソコンソフトで何十枚、何百枚と重ねて、光あふれるように作ったり、実際は飛んでいない場所に合成している写真も目に付く。写真芸術という観点から逸脱するものも目立つが「創作」を前提にしたならば、これらに苦言を呈する気はない。問題なのは、写真という結果を求めるだけで、ヒメボタルの生態を理解せずに生息地に群がるカメラマンの姿勢と態度である。更には、乱舞の様子を軽々しく報道するメディアである。

 これは高知県のヒメボタルの生息地での出来事である。いつもは誰もいない夕方の散歩コースに自動車が何台も止まっていたという。ある人物が、ヒメボタルの写真を撮らせようと県外からも大勢を呼び寄せたのだと言う。写真が撮れれば良いだけで、生息場所を荒らすなどの行為も目立ち、更には、撮った写真を新聞社に売り込んだと言う。地元の方々は、「県外への移動自粛が今月末まであるのに呼ぶ方も来る方も許し難い。自然破壊、生息地荒らしなど何にも考えない人間に風景写真は撮らせたく無い!」と叫んでいる。新聞社は、何枚も合成された光溢れる写真とともに「儚い命・・・」として記事にしている。
 私が10年前に撮影していたヒメボタルの生息地数か所では、当時は誰もおらす私一人で撮影と観察をしていたが、今ではカメラマンで溢れている。撮るのは自由である。ただし、ヒメボタルの生態は、予め学んでくるべきである。写真を撮りたいから「光害」に関してはある程度気を使っているが、メスや幼虫がいるであろう生息地内に踏み込む行為も散見される。ネット上では、インスタ映えを狙ってか、ヒメボタルが飛翔する場所に番傘を置いて撮った写真も見受けられる。言語道断な行為であり、ヒメボタルを撮る資格はない。マナー云々の問題ではなく、自然保全の鉄則は守らなければならない。
 今年も、7月末まで各地でヒメボタルが舞う。是非ともヒメボタルの写真は、単にインスタ映えの自己満足に終わらせることなく、貴重なヒメボタルと自然環境を保全するための一枚になるようお撮り頂きたいと思う。またメディアも、何も考えず安易に報道するのではなく、その記事の裏側や影響を良く考えて書いて欲しい。

 以下には、過去にデジタル一眼レフで撮影したヒメボタルの写真を数点掲載した。過去の撮影であるにも関わらず、今回初めてRAW現像した写真と動画もある。飛翔写真6枚は、背景もヒメボタルの飛翔時刻に同時に撮影したもので、1と2枚目は、これでもかという位にヒメボタルの光を重ね合わせたものである。背景となる木立のカットがなくても、ヒメボタルの光だけで木立の様子が分かる。乱舞する生息地に違いないが、実際に一度にこれほどの数が飛翔しているわけではない。3枚目は、畑の上を飛ぶヒメボタルの光跡を撮影したものだが、写真を見る一般の方々に受けるのは、写真1、2であることが悲しい。
 人々の興味や感情はうつろいやすいものである。「インスタ映え」を目的としてパソコン上で作り出した偽りではなく、真に感動を表現した写真でなければ、その内、飽きられてしまうだろう。写真を見る方々も、騙されることなく冷静になって撮影者の心を見抜く力を養っていただきたいと思う。
 私は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的とし、感動の写心を撮れるよう努力していきたい。

昨年、最後に撮影したヒメボタルの写真は、こちら「ヒメボタル(東海)

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分相当の多重 ISO 6400(撮影地:静岡県 2017.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分相当の多重 ISO 6400(撮影地:静岡県 2017.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2016.6.05)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2016.6.05)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 800(撮影地:埼玉県 2010.6.06)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2012.6.08)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO MC AUTO-MACRO 50mm F3.5 / KODACHROME64 Professional(撮影地:東京都 2009.7.06)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 6秒 ISO 400(撮影地:埼玉県 2011.6.04)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 映像からの切り出し(撮影地:山梨県 2010.7.19)

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影地:埼玉県 2016.6.5)

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ヒメボタル(東海)

2019-07-22 22:57:13 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影で東海地方へ。ホタルの話題ばかりが続くが、これが、今期最後のホタル紀行になろう。
 ヒメボタルの生息地は、ミズナラやカラマツ原生林であり、2010年から訪れている。ここでの写真撮影は今回で4回目であるが、これまで一回も美しく撮れていなかった。 いずれもデジタルカメラでの撮影であったが、1回目は、飛翔が始まってからの長時間露光撮影のため写真的・生態学的には価値はあっても見栄えは寂しい写真。2回目は、山梨県の生息地で撮影した後に立ち寄ったため、背景となる自然環境が撮れていない。そして3回目は、200枚ほど撮影していながら、レンズキャップを外し忘れて撮ってしまったため、すべて真っ黒で何も撮れていなかった。今回は、そのリベンジである。
 自宅を14時半に出発し、現地には17時に到着。まずは念入りにロケハン。年によって飛翔の中心となる場所が異なるが、飛翔密度よりも「飛翔する自然環境を明確に残す」事に重点を置いてカメラをセットする。写真は「自然風景写真」でもあるから、結果を想像しながら構図にも気を配る。フレーム内をヒメボタルが飛んでくれなければ、全く絵にならないが、そこは知識と経験と勘が勝負。カメラは2台体制である。それぞれ正反対の向きに向け、趣の異なった環境下での飛翔風景を狙うことにした。後は、発光飛翔するまで待機である。

 ここのヒメボタルは、深夜型で23時頃から活発に発光飛翔するタイプであるが、今回、観察している中で当地特有の3つの発見があった。

  1. 深夜型であっても、20時頃から発光を始める個体が何頭か存在する。(ただし、飛翔はない。)
  2. 高さ5m以上の梢で発光を始めた個体がいる(下草に丈がないためか、日中は、下草ではなく高い梢で休んでいる。)
  3. 真っ暗な森の中の方よりも、林縁付近の明るい場所での発光飛翔が多い。

 たいへん興味深い事実であるが、やはり23時を過ぎた頃から発光飛翔が多くなった。

 今回、撮影に使用したカメラは、私のホタル撮影では定番のフルサイズ機にF値1.4のカールツァイス50mmの単焦点レンズと、APS-Cサイズ機にEF17-35mmの広角ズームレンズである。後者の組み合わせは、昨年、「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」で使用したが、あまり広角過ぎるとヒメボタルの光が小さくなるため、寂しい感じになってしまう。そこで、今回はひと工夫した。画角は構図優先。結果は、自己満足の範疇ではあるが、2点とも当地らしい「ヒメボタルの生息自然環境と発光飛翔」の絵になったと思う。尚、写真は、どのような環境下をヒメボタルがどのように発光飛翔しているのかを分かりやすくするために、背景を明るく撮っている。実際は、ヒメボタルが発光飛翔する時間帯の森の中は真っ暗で、背景は全く見えない。暗闇にヒメボタルの光だけが見えるだけである。(今回も、写真撮影に集中したため動画は撮らなかった。)
 掲載した2点の写真は、ヒメボタルの発光色が異なっている。撮影機材の違いからだと思うが、どちらの発光色も間違いではない。見た目でも、ヒメボタルの発光色は、黄色や白色に見えたり、黄金色にも見える。
 天気は曇りで無風。気温22℃(18時)19℃(1時)は、最良の条件でもあり、発生のピークと重なってくれれば、多くの発光飛翔が期待できるが、メスは未発生のようで、また、ピーク時に見られる森の外へ出て発光飛翔する様子もなかったので、おそらく数日後がピークであると思われる。

 さて、ここのヒメボタル生息地は、2011年当時は、誰一人と来ることがなかった。しかし、テレビでも紹介され、またネットでも情報が発信されたこともあってか、昨今では撮影者と観賞者が多くなってきた。人が多くなれば、目立つのはマナーの悪さである。
 深夜型のヒメボタルは、23時頃からが活動のピークを迎えるが、18時前から5時間も待つ人々は少ない。多くは、暗くなってからやってくる。そもそも、森のすぐ脇が広い駐車場になっていることが問題なのだが、暗くなってから来たのでは、駐車する向きは森に頭を向けるから、ヘッドライトが森の中を照らすことになる。車が来る度に、ヒメボタルは発光を止めてしまうのだ。灯りは、繁殖を阻害するのである。今回、気なったのは次の3つ。

  • いつまで経ってもライトを消さず、消して頂くようお願いすると「ここは、駐車場だ!」と逆切れするカメラマン
  • 発光飛翔がピークにも関わらず、森の中でライトを照らしてカメラの設定を変えるカメラマン
  • 懐中電灯を照らしながら「歩行者優先だからな」と言って森の中を歩く若いカップル

 誰も分かっていない。ここは、カメラマン優先でも、歩行者優先でもない。ホタルが最優先である!灯りを嫌うのは、誰でもない。ホタルだ。
 私は、明るい時間に現地入りするが、真っ暗な林道でも、5分も居れば目が慣れてくる。懐中電灯は要らない。帰る時は、活動時間が終わってから、森を照らさない方向に車を向けてからライトを点灯させる。どこへ行っても同じ。場所によっては数キロ歩いて生息場所に向かう。これは、ホタルの観察、観賞、撮影のマナー、と言うよりもルールだと思っている。

 ヒメボタルは、日本全国すべての生息地が自然発生である。岩手県の折爪岳のように自治体が通行規制を行って車での侵入をできないようにしているのは稀な例であり、多くは国有地や私有地でその場に管理者等はいない。観賞や撮影時のマナーやルールについては、インターネットは勿論、新聞やテレビでその都度訴えているが、なかなかな浸透していないのが現状だ。ここのヒメボタルも、今のままの状態で、これ以上人々が訪れれば、急激に減少してしまうかも知れない。
 「ホタルを撮る見る。」は良いことだと思う。特に、若いカップルが自然に触れようと思い、訪れることは素晴らしいと思う。ただし、もう一歩思いを巡らせ、ホタルと自然環境を保全するための知識を持ち、エコツーリズムの精神で接することが何より大切だ。

参照:ヒメボタル(静岡2021)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 22分相当多重 ISO 1600(撮影地:東海地方 2019.7.20-21)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 35分相当多重 ISO 1600 (40mm相当) / PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:東海地方 2019.7.20-21)

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ヒメボタル(山梨)

2019-07-21 13:07:05 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影で山梨県へ。先週は、東京都の貴重なヒメボタルを観察してきたが、今回は、2008年から頻繁に訪れている山梨県内の生息地へ行ってきた。
 車を止め、急な登山道を15分ほど登る。見上げても空が見えない森の中に一人であるが、先週のような恐怖感はない。かなり離れてはいるが、麓の人々の声や車の音が聞こえるからだろう。撮影者も 観賞者も誰も来ない標高約1,000mのポイントには18時半から待機。毎回、撮影位置や方向を変えて撮影しているが、今回は、2009年当時と同じ尾根から南斜面にカメラを向けた。気温22℃。ときどき小雨。風が幾分強い。
 19時20分に1頭が発光を開始。20時には発光数が増えるが、ほとんどがカメラを向けていない北斜面での飛翔。南斜面は、相変わらず麓から風が吹き上げており、また残照で少し明るい。一方、北斜面は暗く風が吹きこまないからであろう。15分ほどすると風も収まり、南斜面も暗くなると、ヒメボタルたちが斜面を往復するようになった。カメラを向けた斜面は、通り道なのである。残念ながら、再び風が強くなってきたため、20時半にはまったく発光飛翔する個体がいなくなってしまったので、こちらも撤収。
 例年、この時期の発生だが、今回の発光飛翔数は、多かった年の3分の一程度。今年は、4月の寒の戻り、長梅雨に梅雨寒といった状況であるから、この日が発生のどの段階なのかは分からないが、 メスが見られないことから、発生の初期であるように思われる。そうならば25日前後がピークであろう。

 先週の東京のヒメボタル同様に、今回も撮影時間が短く、更には乱舞状態ではなかったことで写真撮影に徹したため、動画は撮影しなかった。写真の丸い光跡は、ゆっくりと発光飛翔した個体で、細長い光跡は早いスピードで発光飛翔した個体である。また、参考として2009年にフィルムで撮影した写真も掲載した。

参照:ヒメボタル(山梨2021)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 8分相当多重 ISO 1600(撮影地:山梨県 2019.7.19)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 3 / EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.4 30分連続露光(撮影地:山梨県 2009.7.18)

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東京のヒメボタル

2019-07-15 17:08:27 | ヒメボタル

 東京のヒメボタルを観察し撮影するために、10年ぶりに生息地へ行ってきた。東京には、自身のこれまでの調査・観察で、かなり広範囲にヒメボタルが分布していることが分かっているが、今回訪れた所は、標高およそ730mの杉林で数少ない群生地である。今まで、岩手、埼玉、千葉、山梨、静岡の各県でヒメボタルを観察し 撮影してきたが、この東京のヒメボタルは、他の県にはない独特な雰囲気がある。それは、行って見たものしか味わうことができない。
 当地には、2004年から通っているが、なかなか良い写真を撮ることができなかった。2006年は、数え切れないほどのヒメボタルが乱舞していたが、撮影技術が確立しておらず、まったく写らなかった。2007年に訪れた時は、発生がゼロの状態。この場所でのヒメボタルの発生期間は、およそ10日ほど。私は週末の土曜日しか訪れることができない。つまり、ヒメボタルの発生ピークと私の都合が、まず合致しなければならない。そして次に天候状況がよくなければならない。その後も観察は出来ても写真は失敗の連続。結局、6年の月日が過ぎ、ようやく2009年7月に何とか満足できる東京のヒメボタルの飛翔風景を撮影することができた。
 今回は、観察の他、デジタルカメラで飛翔風景を奇麗に残すことが目的であるが、2010年からデジタルカメラを使い始めても、今回まで一度も行かなかったのには理由がある。当時(2009年)一人で撮影中にツキノワグマに遭遇し、恐怖と戦いながら撮影を続けたことがトラウマになっていたからである。今回、意を決して臨んだわけだが、不安材料が山積で、当日の朝から緊張状態が続いた。

  1. 土砂崩れ等なく、生息地まで行けるか?
  2. 車でどこまで行けるか?
  3. 生息環境は変わっていないか?
  4. 肝心のヒメボタルはいるか?
  5. クマに合わず、無事に帰れるか?

 東京のヒメボタル生息地へは、すれ違いのできない細い林道を7kmほど登る。途中からは、かなりダートなスーパー林道だ。 かつて乗用車で行った時は、床を擦り、尖った石でパンクもした。親友と二人で徒歩にて登ったこともあるが、さすがに一人での往復は怖い。軽トラなら、何とか上まで行けるだろうとレンタカーを事前に予約。しかし、軽トラのはずが5ナンバーのボンゴ。「軽トラが用意できなかったので、すみません。料金は軽トラと同じで良いです。」荷物を運ぶなら嬉しいだろうが、使う目的が違うのだ。
 天気は小雨。16時から林道に入る。不安が的中。林道途中でスリップして立往生。ハンドル操作を誤れば谷へ落ちる林道をバックし、何とかUターンして若干広い所へ寄せた。「このまま帰るか・・・いや、ここまで来て帰るわけにはいかない。」トンボやチョウの撮影なら諦めて帰るところだろうが、ホタルを研究する者としての意地がある。葛藤の末、残り1Kmを徒歩で向かうことにした。(仮に車で登ったとしても、最終的な群生場所までは、徒歩になる。)

 17時半。群生地に到着。生息環境はまったく変わっておらず一安心。ヒメボタルが光ることを期待しながら、10年前とは違った構図で撮るためにカメラをセット。ここのヒメボタルは薄暮型で、ゲンジやヘイケと同じ19時半頃から光り始める。23時頃から光り始める深夜型であれば、絶対来ないだろう。それにしても、ちょっと早く来すぎた。暗くなるまで2時間以上ある。カメラの傍で傘を差しながら待つ。辛い。山奥の山林に一人。漆黒の闇。梢から滴る雨音にも敏感に反応する。怒涛のように押し寄せる恐怖と緊張の連続。
 19時半。かなり暗くなってきた。前回は、この時間に光り始めたが、今回は光らない。絶滅してしまったのか?あるいは発生時期がずれたのか?20時まで待って光らなかったら帰ろうと決め、暗闇を見渡す。すると、19時40分。1頭のヒメボタルが発光を始めた。「いてくれた!」
 次第に発光数が増え、見渡す中では10頭ほどで、カメラのフレーム内には数頭が飛翔してくれたが、飛翔開始から30分もすると霧が濃くなり、ヒメボタルは発光も飛翔も止めてしまったので、こちらも撤収。インスタ映えする写真ではないが、とりあえず目的は達成できた。滑落しないように山側の林道を慎重に降り、クマに遭遇することもなく、無事に車まで到達。帰路に就いた。実は、麓近くの渓流にはゲンジボタルが生息しており、2013年を最後に訪れていなかったが、帰る途中に橋の上から渓流を見ると、3頭のゲンジボタルがゆっくりと光りながら飛んでいた。しかしながら、一番美しく見えた場所は開発が進み、かつての素晴らしい景観はなかった。

 東京のヒメボタル。かつて乱舞を目撃した年に比べれば、物足りなさはあるが、まずは、10年前と何ら変わることなく生き続けていてくれた事が何より嬉しい。昨今、他の地域では発生が年々早まっており、また今年は4月に寒の戻り、そしてこの梅雨寒といった気象であるから、当地でも発生時期が以前とは異なってきている可能性がある。また2004年、2006年・・・と2年毎に発生数が多いサイクル(ヒメボタルは成虫になるのに2年かかる)なので、今年は少ない年だったかも知れない。不安材料はクマだけになったので来年以降、毎年通いながら、観察と調査をしていきたいと思う。
 昔は、ヒメボタルを撮ることは難しかったが、今のデジタルカメラでは、誰でも簡単に写すことが出来る。しかもヒメボタルはインスタ映えするという理由から撮影者が急増。5~6年前は 誰一人いなかった埼玉と静岡の生息地は、今ではカメラマンで溢れている。中には、ヒメボタルの生態を知らない撮影者もいるからマナーの悪さも目立つ。単にヒメボタル観賞に来る人々は、もっとマナーが悪い。幸いこの東京のヒメボタルには、カメラマンも鑑賞者も来ない。ただし、杉の大規模な伐採があれば、林床が乾燥して絶滅してしまう恐れはある。今後、しっかりと見守っていきたい。

 今回は、飛翔時間が短かったため映像はなく写真のみの撮影。参考までに、2009年にフィルムで撮影した東京のヒメボタルの写真2点と2006年に麓の渓流で撮影したゲンジボタルの写真1点も掲載した。先にも述べたが、この光景は、もう見ることが出来ない。写真の左側の山林が削られて建物が立ち並び、渓流は灯りで照らされていた。

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ヒメボタルの生息環境の写真

ヒメボタルの生息環境
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F13 35秒 ISO 50 -1 1/3EV(撮影地:東京都 2019.7.13)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 8分相当の多重露光(撮影地:東京都 2019.7.13)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.8 60分の長時間露光(撮影地:東京都 2009.7.11)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
CANON EOS-3 / EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.4 60分の長時間露光(撮影地:東京都 2009.7.11)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional / バルブ撮影 F1.8 3分の長時間露光(撮影地:東京都 2006.7.02)

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ヒメボタルの交尾~孵化

2019-06-25 20:31:47 | ヒメボタル

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter 1874 は、幼虫が陸地で生活する陸生ホタルで、成虫はゲンジボタルとヘイケボタルのようによく発光するホタルである。フラッシュのように明滅する独特な発光が写真映えするため、昨今では多くのカメラマンが生息地を訪れ写真を撮っている。ネット上に溢れるヒメボタルの飛翔写真は、どれも美しい。しかし、見た目とは大きくかけ離れた創作写真が大半を占めている。撮影方法やそれら写真の批評については別の機会に述べるとして、この記事では、誰もが撮る飛翔写真ではないヒメボタルの姿を掲載したいと思う。(尚、写真はすべて飼育個体で、自宅室内での撮影である。)

 ヒメボタルの発生期間は短く、7~10日間ほどである。メスには羽ばたく下翅がなく、地面や草の茎、枝などに捕まりながら発光し、それに惹かれてやってきたオスと交尾し、翌日には卵を産み始める。産卵数は少なく、およそ30~90個ほどである。メスの体長はおよそ6mmしかないが、卵は直径約0.7mmで、ゲンジボタルの卵と比べてもかなり大きい。一度に全部の卵を一か所にかためて産卵する個体もいれば、数日間に渡って土の上に数個ずつバラバラに産む個体もいる。

 ヒメボタルの卵は、およそ20日(積算温度約435度日)で孵化する。ゲンジボタルの場合は、卵がだんだんと黒くなるので(卵の中の幼虫が見える)孵化が間近であるかどうかが分かるが、ヒメボタルの場合は、最初から最後まで卵はレモン色のままである。孵化した幼虫(およそ1.4mm)には模様がなく、レモン色であるためだ。孵化して2日ほどすると、少し茶色に色づいてくる。
 孵化で興味深いのは、かなり遅れて孵化する卵があるということである。クロマドボタルでは、産卵後一カ月で孵化するものと、秋になってから孵化するものが混在しているという。ヒメボタルの場合も、十分考えられる。今後の研究課題である。
 孵化した幼虫は、落ち葉や土の隙間等で過ごし、夜になるとオカチョウジガイやキセルガイ等の陸生巻貝、ミミズなどを食べ、1~数年かかって成虫になる。

 ヒメボタルの産卵数が少ないのは、環境が安定しており、生存率も高いからであるが、逆に言えば、環境が激変すれば一気に減少するということである。飛翔写真の撮影で生息域内に立ち入れば、土の上にいるメスや産んだ卵を踏んでしまうことにもなる。生態を学んだ上で、撮影を楽しんでほしい。

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F11 16秒 ISO 400

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/60秒 ISO 400 +2/3EV

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/60秒 ISO 400 +2/3EV

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/60秒 ISO 400

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F16 1/60秒 ISO 400

ヒメボタルの卵の写真

ヒメボタル(卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F20 1/8秒 ISO 3200

ヒメボタルの卵の写真

ヒメボタル(卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/60秒 ISO 400

ヒメボタルの卵の写真

ヒメボタル(発光する卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 114秒 ISO 6400

ヒメボタルの写真

ヒメボタルの雌雄背面(左:オス 右:メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F16 1/50秒 ISO 3200

ヒメボタルの写真

ヒメボタルの雌雄腹面(左:オス 右:メス) / オスの複眼の方が大きい。
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F20 1/100秒 ISO 3200

ヒメボタルの写真

ヒメボタルの雌雄腹面(左:オス 右:メス) / 死んでもしばらくは発光し続ける
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 10秒 ISO 400

ヒメボタルの孵化写真

ヒメボタルの孵化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F14 1/15秒 ISO 3200 -1/3EV

ヒメボタルの孵化写真

ヒメボタルの孵化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F14 1/15秒 ISO 3200 -1/3EV

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ヒメボタルの映像(動画)

2018-07-24 20:03:13 | ヒメボタル

 ヒメボタルの映像(動画)を作成したので紹介したい。ヒメボタルは、今年、岩手県二戸市の折爪岳において撮影してきた。写真は、「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」をご覧頂きたいが、この記事では、その時に撮影した映像(動画)と2012年に某所にて撮影した映像(動画)も一緒に公開した。

 ヒメボタルの写真は、インスタ映えするフォトジェニックな点で、昨今、大勢のカメラマンに人気があり、多くの写真が投稿されている。筆者の最近の写真もそうであるが、これらはヒメボタルの生態学的価値よりも写真の見栄えを重視したもので、数十分間の露光に相当するカットを合成したものである。写真は、作り上げた創作作品であり、実際の見え方とは全く違う。こうした写真は、ヒメボタルの魅力を現したものではなく、単に「いいね!」や「コメント」を増やす目的としか思えない。中には、ヒメボタルが飛翔する場所に和傘を置いて撮影した写真すら存在する。和傘を置くために立ち入り、地面にいるメスを踏みつぶしているかも知れない。世に溢れるヒメボタルの創作写真を見ていると、悲しささえ感じてくる。
 SNSに投稿される多くのヒメボタルの写真はインパクトがあるが、合成枚数を増やした撮影者による「創作作品」である。海外を含め多くの人々を魅了する写真であっても、それは撮影者の立場だけで撮ったもので、写真の美しさを感じるだけでしかない。
 我々ホタル研究者は、ホタルの生態とその生息環境を研究しているが、その保全についても啓蒙していかなければならない。その一端としての「ホタル写真」は、写真芸術的にも、ホタルの生態学的にも認められる写実でなければならない。この光景を作る「ホタルと自然環境」を守ろうと思いを馳せて頂くものでなければならないと思っている。

 ヒメボタルの生息環境は様々で、原生林の他、雑木林、竹林、河川敷の林などに生息している。かつては「森のホタル」と言われ、林や森の中だけで発光すると思われていたが、発光時間になると森や林から出てきて、開けた畑の上や道路まで出てきて乱舞する様子を観察している。活動時間も地域性があり、ゲンジボタルと同じ時間帯、19:30~21:00頃(動画2)や深夜22:00~02:00頃(動画3)に活発に発光しながら飛翔する。
 これまでヒメボタルの映像(動画)は、Youtube等でもあまり投稿されておらず、背景も一緒に映しこんだ映像(動画)はほとんどないように思う。また、ヒメボタルの発光の様子を見たことがない方々の中には、これを「ホタル」とは思わない方もいるかも知れないが、これが「ヒメボタル」である。
 ヒメボタルの映像(動画)は、写真のようなインパクトはないが、見た目にほぼ近い光景で、ヒメボタルの発光の仕方や飛翔の様子も分かる。今後は、写真とともに動画を撮影し、ヒメボタルやゲンジボタルの真の魅力を伝えていこうと思う。映像(動画)を通じて、自然の豊かさや大切さに思いを馳せて頂ければ幸甚である。

お願い:HD設定にしますとクオリティの高い映像(動画)を、また全画面でも綺麗にご覧頂けます。画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタルの映像(動画1)

ヒメボタルの映像(動画2)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.7.14)

ヒメボタルの映像(動画3)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影日: 2012.6.08)

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ヒメボタル生息地

2018-07-22 15:37:55 | ヒメボタル

 ヒメボタルの写真は、本年は二か所の生息地で撮影を予定し、一ケ所は「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」で紹介した。そしてこの週末、次の目的の場所で撮影を行ったが、ブログタイトルを「ヒメボタル生息地」とした。現地に17時に到着し、18時半に生息環境を撮影。濃霧と雨のためにカメラにカバーを被せて、深夜型ヒメボタルが発光を開始するまで車内で待機。天候も良くなり、22時半から翌午前0時まで撮影したのだが、レンズキャップを付けたまま撮影し、結局、撮影した数百枚は真っ黒で何も写っていないと言う痛恨のミスを犯してしまった。三日連続で深夜まで撮影する気力がなく、仕方なく今年は生息環境の写真のみの掲載で終了。この原生林に舞う様子を想像して欲しいと思う。
 2枚目は、同生息地において2011年に撮影したものである。昨今、過度な合成でヒメボタルの光が溢れる写真が多いが、こちらは合成なしの長時間露光である。今回の失敗は反省しなければならないが、この失敗のお陰で「ホタル研究者が写すホタルの写真」のあるべき表現に気が付いた。ホタルの光跡を溢れるばかりに合成枚数を増やせば、インパクトのある「創作作品」にはなるが、 あくまでも撮影者による「創作作品」だ。海外を含め多くの人々を魅了する写真であっても、それは撮影者の立場だけで撮ったもので、写真の美しさを感じるだけである。
 我々ホタル研究者は、ホタルの生態とその生息環境を研究しているが、その保全についても啓蒙していかなければならない。その一端としての「ホタル写真」は、写真芸術的にも、ホタルの生態学的にも認められる写実でなければならない。この光景を作る「ホタルと自然環境」を守ろうと思いを馳せて頂くものでなければならない。今回は、痛恨のミスにより光景を目の前にして撮影することができなかったが、重要な生態学的な様々な観察ができたので、知識は残すことができた。

 このヒメボタル生息地は、2010年から通っているが、当時は誰一人と来ることのない生息地であった。しかしながら、年々、撮影者や観賞者が増え始め、そのマナーが気になるところである。車のライト、懐中電灯といった光害である。(懐中電灯は、赤いセロファンを巻いてもホタルに影響を与えるのでダメである。)撮影者や観賞者の増加に半比例するかのように、毎年、ヒメボタルの数が少なくなっているように思う。

 3~5枚目の写真は、本記事と関係はないが、同日の深夜に長野県の乗鞍高原で撮影した天の川である。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタル生息地の写真

ヒメボタル生息地
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F18 15秒 ISO 100 -2EV(撮影日:2018.07.21 18:21)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 300秒 ISO 1600(撮影日:2011.07.23 23:00)

天の川の写真

天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 32秒 ISO 1600(撮影地:長野県松本市/乗鞍高原 2018.07.21 1:10)

天の川の写真

天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 43秒 ISO 1600/ PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:長野県松本市/乗鞍高原 2018.07.21 1:16)

天の川の写真

天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 37秒 ISO 2000/ PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:長野県松本市/乗鞍高原 2018.07.21 1:39)

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ヒメボタル(岩手県折爪岳)

2018-07-17 19:58:31 | ヒメボタル

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874 は、ホタル科(Family Lampyridae)ホタル属(Genus Luciola Laporte, 1833)でゲンジボタルやヘイケボタルと同属であるが、幼虫が陸地で生活する陸生ホタルである。青森県から九州まで分布し、平地から高い山地の雑木林、竹林、ブナ林、畑、河川敷など様々な環境に生息している。体長は6mm~9mmほどで、メスは下翅がなく飛ぶことができない。そのため分布地の移動性は小さく、地域により遺伝的特性や体長の差などが著しい。発光は、黄金色のフラッシュ光の点滅が特徴である。

 ヒメボタルの観察と撮影に、岩手県二戸市にある折爪岳に行ってきた。折爪岳のヒメボタル生息地(山頂の3.5ヘクタール)は、2013年に二戸市、そして今年4月には岩手県の天然記念物に指定され、生息数100万匹とも言われる。いつも観察は十分にできたが、過去に大乱舞を目の前にしながら、フィルムでは上手く撮れていなかったり、天候不順で飛翔数が少なかったりと、これまで私的に満足できる撮影結果は得られていない。昨年は、ブナやミズナラの原生林で光る「折爪岳のヒメボタル」らしい写真は撮影したが、「これぞ!」という光景を残しておきたい。そこで、5度目の訪問となる今回は、二泊三日で二晩のチャンス。過去の経験から、ヒメボタルが多く飛ぶ場所は分かっているので、明るい時間に構図を決めて、それぞれの晩に違う場所で1カットずつ撮ることにした。
 初日は、気温が高く無風。前日に雨が降ったとのことで、たいへん蒸し暑く、まさにホタル日和。19時30分頃から光り始め、多くのヒメボタルが乱舞した。二日目は、気温が少し低めで風が強く、前日に比べて飛翔数は半分ほどであったが、それでも同期明滅も見られるほどの数は飛んでいた。ただし、いつも観察できる場所ではメスがほとんど見られなかった。発生のピークは数日後かも知れない。
 二日間ともに「ヒメボタル観察会」が催され、多くの観光客も訪れていたが、懐中電灯やスマホの明りによって、ヒメボタルが一斉に発光を止めることが多々あった。誰が言ったか知らないが、懐中電灯に赤いセロファンを巻いてもダメである。また、スマホで撮ろうとしても写らない。撮影者の立場では、写真は数秒露光のデジタル画像を何枚も重ね合わせる手法で創作するから、フレーム中に人工光が当たれば、そのカットは削除すれば良い。しかしながら、ヒメボタルは灯りに非常に敏感で、すぐに発光を止めてしまう。メスを探そうと飛び回るオスたちの行動を阻害するのである。懐中電灯やスマホは、ヒメボタルのために是非とも止めて頂きたい。足元だけを照らすこともダメである。

 当ブログでは、写真撮影地は基本的に都道府県名までの記載としているが、折爪岳のヒメボタルは岩手県と二戸市の天然記念物に指定されたため地名を公表した。尚、掲載写真は、ヒメボタルの生態学的価値よりも写真の見栄えを重視したもので、10分~20分の露光に相当するカットをPCで比較明合成したものである。肉眼でも相当数のヒメボタルが発光する様子が見られるが、掲載写真のように見えるわけではないことを付け加えておきたい。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真1及び2はクリックしますと拡大表示されます。

ヒメボタル(折爪岳)の写真

ヒメボタル(折爪岳)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 10分相当多重(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.07.14)

ヒメボタル(折爪岳)の写真

ヒメボタル(折爪岳)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 10分相当多重(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.07.14)

ヒメボタル(折爪岳)の写真

ヒメボタル(折爪岳)
Canon EOS 7D / EF17-35mm f/2.8L USM(32mm相当) / バルブ撮影 F2.8 ISO 1600 20分相当多重(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.07.15)

天の川(折爪岳)の写真

天の川(折爪岳より)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 1600(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.07.14)

岩手県折爪岳のヒメボタル

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ヒメボタル(山梨/静岡)

2017-07-23 20:46:35 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影を山梨県と静岡県で行ってきた。山梨県の生息地は、2008年から毎年のように訪れており、今回はこれまで撮影していなかった方向を撮ることが目的。静岡県の生息地は、2010年と2011年に訪れているが、長時間一発露光の写真しか撮影していなかったため、今回は多重露光の写真を撮ることを目的とした。

 ヒメボタルは、地域によって発生時期や生息環境、発光活動時間が異なる。今回訪れた両県の生息地は、発生時期がほぼ同じで、関東周辺では一番遅いという特徴がある。またどちらも森の中に生息するが、山梨の生息地の本種は19時半から21時頃まで活動し、静岡の生息地の本種は22時半から深夜にかけて活動するといった違いがある。それゆえに、一度に両方のヒメボタルを観察し撮影することができるが、静岡の生息地には遅い時間に到着するので、生息環境の調査や、写真撮影上で背景を綺麗に写したい場合は、単独で早い時間に訪問する必要がある。
 今回、山梨ではヒメボタルの発光飛翔の場所とルートを再確認し、カメラとレンズは微かな光も捉えてくれたので、その光跡を写すことができた。参考までに、2011年にほぼ同じ位置から違う方向(斜面下部方向)撮影した写真も掲載した。静岡においては、到着時に豪雨であったため、発光飛翔は勿論、ヒメボタルも流されてしまうのではないかと危惧したが、23時に雨が止むと、多くのヒメボタルが発光を始め、深夜の真っ暗な原生林が光の明滅で埋め尽くされる様子が見られた。掲載写真は、あまりに過度な表現で品を欠くものではあるが、多重合成を行うことによって、肉眼ではまったく見ることができなかった発光飛翔の範囲と場所を写すことができた。

 無事、両方の生息地において目的を達成し、これにて本年最後の「ホタル」の観察と撮影を終了したが、今回驚いたことは、6年前には誰一人としていなかった静岡の生息地に、カメラマンが5~6人いたことである。皆、撮影が目的であるからヒメボタルに害を及ぼすことはないが、SNS等で生息地の情報が拡散されれば、多くの鑑賞者も訪れることになり、繁殖が脅かされる心配もある。生態学的にも貴重な生息地であるから、注意していただきたいと思う。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、すべて1024*683 Pixelsで掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(山梨)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 30分多重 ISO 1600(2017.7.22)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(山梨)
Canon 7D / SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM / バルブ撮影 F1.4 10分多重 ISO 200(2011.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(静岡)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分多重 ISO 6400(2017.7.22)

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折爪岳のヒメボタル

2017-07-17 22:38:07 | ヒメボタル

 折爪岳のヒメボタルを紹介したい。本ブログでは、昆虫の記事に関しては撮影地の表記をしていないが、今回は、広く知られた場所であり、また、ヒメボタルと自然環境の保全・保護のために、あえて場所を表記して紹介することにした。
 折爪岳は、岩手県二戸市、九戸郡軽米町、同郡九戸村を山域に持つ標高852.2mの山であり、東北でも有数のヒメボタル生息地となっている。7月上旬から中旬頃には、山頂から中腹にかけて、総数100万匹とも言われるヒメボタルが飛び交うことで知られている。

 折爪岳のヒメボタルには、2006年、2008年、2010年と訪れているが、いずれも良い写真がが撮れていなかったため、今回、7年ぶりに行くことにした。
 16日、朝4時半に自宅を出発し、途中で親友を乗せて650km先の岩手へ向かった。東京は晴れであったが、岩手県に入ると猛烈な雨。十和田方面は、雨で通行止めになるほどである。九戸ICを降りて折爪岳に到着すると、雨は小降りになったが、今度は台風であるかのような強風。そして濃霧。宿泊する山の家で、とりあえず待機である。
 雨が止み霧も薄くなった18時半。撮影ポイントでスタンバイする。風は時折強く吹くが、ヒメボタルは光ってくれることを願うしかない。森の中が暗くなった19時44分。ようやくヒメボタルが光り始めた。前日は、大乱舞であったようだが、この日は風が吹いていることと気温が低めであることから、多くの数が飛翔することはなかった。それよりも、車のヘッドライトが発光と飛翔の妨げになっていた。本来は通行止めになるのだが、この日は悪天候であったため通行止めにしていなかったのだ。車のライトが当たると一斉に発光を止めてしまい、しばらく発光しない。こんな状況が続けば、大きな影響がある。私も車で来たが、通ったのは14時半。帰るのは翌朝である。車で来る場合は、ホタルが光り出す時間より前に来ること、そして光り終わってから帰ることが必要だ。これは、どの場所でも同じで、ゲンジボタル、ヘイケボタルでも同様である。これは、マナーではなく鉄則である。鑑賞者には厳守頂きたい。勿論、手に懐中電灯を持ってもいけない。明るい時間から、ホタルが舞う場所で待機していれば、懐中電灯はいらない。

 天候と車のライトという悪条件が重なったが、十分な観察はできた。また、他地域を含めたヒメボタルの写真において、昨今多く見かける「光の絨毯」のような作り上げたものではなく、品位のある「折爪岳のヒメボタル」の風景を描くことができたと思う。(ほとんどのヒメボタルは飛翔することなく、同じ葉上で発光しているだけであることが写真からも分かる。)

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、すべて1024*683 Pixelsで掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

折爪岳のヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 14分多重 ISO 1600(撮影地:折爪岳/2017.7.16)

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ヒメボタル(山梨)

2016-07-17 17:01:36 | ヒメボタル

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874 の発生もそろそろ全国的に終盤。5年ぶりに山梨県内の生息地を訪れた。例年よりも一週間ほど早い訪問だが、予想通りにヒメボタルの飛翔が観察できた。
 ヒメボタルは、活動時間の違う2タイプに分けられる。1つは、ゲンジボタルと同じ時間帯に発光飛翔する宵の口型と、もう1つは23時頃から発光飛翔する深夜型である。今回の生息地のヒメボタルは宵の口型である。過去の観察では、19時半から発光を開始したが、今回は曇天のため空が明るく、発光は19時45分からであった。まだ、メスが確認できないため発生初期なのだろう、飛翔数も少なく、10数頭が周囲を行き交うといった様子であった。

 ヒメボタルの写真は、リバーサル・フィルムでは相反則不軌の影響で感度の低下と色再現性の低下があり、またラチチュードが狭いため、なかなか綺麗に撮ることが難しく、ISO1600のネガ・フィルムで30~60分の長時間露光でようやく撮影できるといったものであった。(参照:ホタル写真の変遷)しかしながら、デジタル・カメラの技術進歩によって、昨今では簡単に撮影することができるようになった。そのため、独特の発光から写しだされる写真の人気が急上昇し、各地の生息地で多くのカメラマンが撮影をし、パソコンでの作品づくりを楽しんでいる。
 ネット上で公開されているヒメボタルの写真を拝見すると、そのほとんどが、ヒメボタルの光をより多く重ねることに主眼が置かれているように思う。地面を光の絨毯で覆うばかりである。 昔のフィルムでも、発生数の多い生息地において適正露出になるまで30分も露光すれば、やはり同じように光の絨毯になるし、デジタルでも、1つの作品ならばそれも良いと思う。中には、昼間に飛んでいるのか?と思うような背景の明るい写真もあるが、それらの写真を見て、嘆くこともなければ言いたい文句もない。(勿論、見た目でそんな感じには見えない。)
 私の場合は、撮影を開始した昭和50年(1975年)当初から一貫して、ホタルの生態と生息環境の調査研究の一部として、1つは「生態写真」、そして、こうした飛翔風景に関しては、ホタルがどのような自然環境で、どのように飛翔するのか、そしてどのような発光なのかを写す「記録写真」という考えで撮影を行ってきている。デジタル・カメラを使用するようになってからは、その利点を活かして、それぞれのホタルの発光色と同じになるように現像している。ヒメボタルに関しては、他の多くの写真をみると、黄緑色やとても明るいレモン・イエローに写っているものがほとんどであるが、測光微光度計A型でヒメボタルの発光スペクトルを分析すると、530~660nmの波長の光を含んでおり(神田左京)、ピークは橙色に近い黄色である。ヒメボタルをかごに入れて観察すれば分かるが、見た目では黄金の発光色に見える。 しかし、飛翔しているときは、違う色合いに見えることもあり、人によっても見える色が違う。白っぽかったり、黄緑色にみえたり・・・これは、湿度の違いや人の色覚の違いによるものだ。

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタル

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark2 / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE
バルブ撮影 F1.4 240秒多重 ISO 1600(2016.7.16)

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ヒメボタル(埼玉)

2016-06-06 20:33:36 | ヒメボタル

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874 は、ホタル科ホタル属(Genus Luciola Laporte, 1833)でゲンジボタルやヘイケボタルと同属であるが、幼虫が陸地で生活する陸生ホタルである。青森県から九州まで分布し、平地から高い山地の雑木林、竹林、ブナ林、畑、河川敷など様々な環境に生息している。体長は6mm~9mmほどで、メスは下翅がなく飛ぶことができない。そのため、分布地の移動性は小さく地域により遺伝的特性や体長の差などが著しい。発光は、黄金色のフラッシュ光の点滅が特徴で、活動時間にも地域差がある。日没30分後くらいから発光を始め、21時~22時頃まで活動するタイプと22時頃から発光を始め、深夜2時頃まで活動するタイプに分かれる。

 4年ぶりに埼玉県の生息地を訪れた。この場所は2010年に発見し、その当時は、地元の方は勿論、撮影者は誰一人といなかった。しかしながら、 5年ほど前に近隣の生息地に生息を案内する看板が設置され、インターネットやSNS等の情報で当該生息地も知られるようになり、一晩に20人~30人ほどの撮影者が訪れるようになったようである。
 ここのヒメボタルは、深夜型で21時を過ぎた頃から徐々に発光をはじめ、午前0時過ぎをピークに午前2時頃まで活動が続く。かなり広範囲に生息しており、地域全体では数千という単位であると思われる。また、他地域に比べ、メスの体長や前胸背板の赤斑に大きな違いが見られる。更には、オスは林の中から出てきて開けた畑の上を飛ぶという特徴がある。また、関東のヒメボタル生息地では、一番発生が早い場所である。

 4日、21時半に現地に到着すると、暗がりでちらほらとヒメボタルが発光を始めていた。4年前にはなかった家が建ち、少し様変わりしていたが、全体的には当時のまま。いくつかのポイントを廻って観察すると、発生場所に若干の違いが見られたものの、一番乱舞する場所は、2010年の初訪の時と変わっていない。22時を過ぎると、かなりの数のヒメボタルが乱舞を始めた。撮影者も多く20人以上はいただろう。人の多さにヒメボタルが可哀想に思えたことと、名古屋での講演の疲れもあり、ピーク前の23時で引き上げることにした。
 森の中で発光するヒメボタルの写真は、7月に東京都内でも山梨県でも撮影できる。この場所の一番の生態的特徴は、開けた畑の上を飛ぶことなので、今回もその様子を撮影した。また、ヒメボタルの発光色である黄金色が出るようにした。
 フィルム時代には、ヒメボタルの飛翔風景撮影を成功させるのに6年もかかったが、今のデジタルカメラでは、初心者でも簡単に撮れる。ソフトで合成すれば、光の数は無限大に増やせる。「風景、光景としての写真」という1つの作品ではあるが、生態学的な観点から過度な表現はすべきではないとも思う。

参照:ヒメボタル(秩父2012年)

注釈:ヒメボタルのマクロ写真(写真2~6)は、同じ生息地の個体ですが、2011年に研究用として雌雄1頭ずつを採集し自宅で撮影したものです。

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタル

ヒメボタルの乱舞
Canon 5D Mark2 / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE
バルブ撮影 F1.4 5秒×50 ISO 1600(2016.06.04 22:30)

ヒメボタル

ヒメボタル

ヒメボタル

ヒメボタル

ヒメボタル

ヒメボタル

ヒメボタル

ヒメボタル(交尾)

ヒメボタル

ヒメボタル(メス)

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ホタル写真の変遷

2016-02-17 20:18:28 | ヒメボタル

 シリーズ「ホタルの写真を撮る」その1

 まだ、ホタルの季節にはかなり早いが、決して季節はずれの話題ではない。今から準備することが望ましいのである。今回は、「ホタル写真における撮影方法の変遷について」。後に、実際の季節になったら、生態写真も含めた実践的な話を記していきたいと思う。

 私は、今年でホタルの研究を始めて44年になる。写真は、ホタルの生態を記録に残しておく必要性を感じてから撮り始め、40年ほど前からありとあらゆる「図鑑写真」と「生態写真」を撮影してきた。ホタルの生態撮影では、ホタルの生態に関する詳細な知識と撮影機材及び特殊な技術も必要になる。しかしながら、成虫が飛びまわる光景においては、フィルム時代では難しかったものの、昨今のデジタルカメラの性能とPCソフトの向上は、特に知識や技術がなくても比較的簡単に撮影でき「写真」としての結果を出せるようになり、プロ・アマを問わず多くの方々が撮影している。
 ホタルが乱舞する光景は、生態写真であり、風景写真でもあり、自然の芸術作品とも言えよう。本記事では、作例として「ヒメボタルが乱舞する光景」の写真10点を掲載し、ホタル写真における撮影方法の変遷について記したいと思う。

 ヒメボタル(Luciola parvula Kiesenwetter 1874)は、ホタル科ホタル属で、ゲンジボタルやヘイケボタルと同じ仲間であるが、一生を陸地で生活しており、水辺ではなく、森の中などに生息しているホタルである。メスは後翅がないために飛ぶことができない。発光しながら飛ぶのはオスだけで、その発光は、ゲンジボタルやヘイケボタルと違って、黄金色のフラッシュ明滅が大きな特徴となっている。岡山県の哲多町では「金ボタル」といも呼ばれているほどである。写真に撮ると光が点として写り幻想的なことから被写体として人気がある。

1.フィルムで撮る

 ヒメボタルが乱舞する光景を撮るには、かつてはフィルムで撮影しなければならなかった。フィルムは大きく分けて2種類ある。リバーサル・フィルムとネガ・フィルムである。当時、私はすべての写真をリバーサル・フィルムで撮影しており、ゲンジボタルにおいては美しく撮ることができていたが、ヒメボタルの撮影は容易ではなかった。プロビア400で30分の長時間露光、そして増感現像しても写るのは光だけで、背景は全く写らなかったのである。更には、ヒメボタルの発光色が金色ではない。(写真1)
 明るい時間帯に背景を撮影しておき、ホタルが飛び始めたら、同じコマに多重露光する方法もあったが、1枚の写真の中に大きな時間の空白が存在すれば生態写真にはならないと考え、それは行わなかった。
 ヒメボタルの生息環境は、ゲンジボタルと違って全く明りのない山林の中で、目の前のカメラさえ見えないほどの暗闇である。その暗闇において、体長9mmほどのホタルが放つ光と背景を綺麗に写すことは、不可能と思われた。そこで一週間後に、同じ場所においてフィルムをネガに変え、露光時間を60分にして撮影したところ、ホタルの光と背景を捉えることができた。(写真2)
 ようやく、ヒメボタルの撮影方法が分かったところで、翌年、どうしても撮影しておかなければならない場所へ向かった。東京都奥多摩町の山奥である。国道から沢沿いの道を5Kmほど進み、さらにデコボコの林道を3Km弱登った峠近くである。2004年から通っているが、なかなか良い写真を撮ることができなかった。2004年は、雨が降っておりヒメボタルも数匹しか飛んでいなかった。2005年は、数え切れないほどのヒメボタルが乱舞していたが、撮影技術が確立しておらず、まったく写らなかった。2006年に訪れた時は、発生がゼロの状態。この場所でのヒメボタルの発生期間は、およそ10日ほど。私は週末の土曜日しか訪れることができない。つまり、ヒメボタルの発生ピークと私の都合が合致しなければならない。そして次に天候状況がよくなければならない。結局、6年の月日が過ぎ、ようやく2009年7月に何とか満足できるヒメボタルの飛翔風景を撮影することができたのである。(写真3および4)
 実は、この2枚の写真を撮影中に、すぐ背後を野生のツキノワグマが歩き回っていた。このチャンスを逃すまいと逃げるより撮影を優先した。もし襲われて死んだとしても、生態学的にもたいへん貴重な東京都奥多摩町のヒメボタルの写真が残れば良いと思った。幸い、襲われることはなかった。余談だが、山梨県内の山林で、晴れた午前中にチョウの撮影をしている時にもツキノワグマに遭遇したことがある。距離30m。逃げるかどうしようか迷った末、クマにカメラを向けたが、その時には、クマの方が遠ざかっていった。ちなみに大きなイノシシには3回遭遇している。
 さて、一週間後に山梨県のヒメボタル生息地で再び撮影を試みた。(写真5) 写真2と数メートルと違わない位置で撮影しているが、ヒメボタルの飛び方に大きな違いが見られた。2008年(写真2)では地上から1mくらいの高さを発光しながら飛んでいたが、2009年は地上から50cmくらいの高さを飛んでいたのである。その理由は分かっていないが、これも、生態学的に貴重な記録である。

注釈:写真は、フィルムスキャナー(Nikon COOLSCAN V ED)でスキャンしたものを掲載しています。
お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真1)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / バルブ撮影 F1.8 30分
FUJICHROME Provia400X Professional (撮影日:2008.07.19)

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真2)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / バルブ撮影 F1.8 60分
ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600 (撮影日:2008.07.26)

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真3)
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / バルブ撮影 F1.8 60分
ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600 (撮影日:2009.07.11)

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真4)
CANON EOS-3 / EF 50mm F1.4 USM / バルブ撮影 F1.4 60分
FUJICOLOR NATURA 1600 (撮影日:2009.07.11)

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真5)
CANON EOS-3 / EF 50mm F1.4 USM / バルブ撮影 F1.4 60分
FUJICOLOR NATURA 1600 (撮影日:2009.07.18)

2.デジタルで撮る

 現在でも富士フィルムでは、ネガ・フィルムの FUJICOLOR NATURA 1600 は販売されているが、リバーサル・フィルムに至っては、Velvia50、Velvia100、PROVIA100F(35mmおよびブローニー)しか入手できず、コダックでは、リバーサル・フィルム全てが2012年から製造されていない。その理由は、デジタル・カメラの普及に他ならないが、デジタル・カメラの性能が向上し、画素数も大きくなり、フィルムに限りなく近づいた昨今では、デジタルならではの撮影方法により、フィルムでは表せなかったものが容易に写せるようになってきている。
 写真6と7は、フィルムと同じ長時間露光で撮影した写真であるが、露光時間が短いがゆえにホタルの光が少なく、写真という結果に物足りなさを感じる方もいるかもしれない。デジタル・カメラでは、3~4分も露光するとデジタル特有のノイズが出てしまい、それ以上の露光時間ではノイズ・キャンセリングも効かなくなってしまうので、長時間露光は、これくらいが限界だろう。
 しかしながら、背景を適正露出で撮影した後に、感度を上げてホタルの光だけを数秒ずつ何枚も撮影し、PCの画像処理ソフトのレイヤー機能を使って合成する方法を行うと写真8~10のように見栄えの良い見応えのある写真に仕上がる。この「合成」という方法は、昨今の「ホタルの成虫が飛びまわる光景」においては、一般的に行われており、美しい写真にすることができるが、撮影する時にカメラの特性上1枚1枚の間に少なくとも1秒という空白が入ってしまう。写真は、「空間芸術であると同時に時間芸術である。」故に「不連続の時間を一枚にまとめて見せるのは浅慮、浅薄にすぎない」とも言われているので、その観点からは「創作」であり、「生態写真ではない」とも言えるが、これまで難しかったことが、美しく表現できるようになったことにより、ホタルの生息環境や生態の研究に役立つこともある。例えば、写真9と10は、これまで「森のホタル」と言われていたヒメボタルが、開けた畑の上を乱舞しているところをハッキリと捉えており、ヒメボタルの生息環境や飛翔行動を知る上では、貴重な画像となっている。参考までに、同場所の同日時に撮影した動画も掲載しておきたい思う。ヒメボタルの発光の様子しか映っていないが、実際にどのように発光しているのかは分かっていただけるだろう。

 本記事掲載時期は、ホタルの季節にはかなり早い。しかし、決して季節はずれの話題ではない。今から準備することが望ましいのである。ホタルの撮影は簡単だがスマートフォンでは撮ることができない。それなりの機材が必要なので準備しなければならない。またホタルは、その年の気候にとって発生時期が若干異なるので、一番多い発生月日に合わせて出かけるために、様々な情報収集のみならず自身で積算温度の計算も必要になる。更には、選定した生息地の環境状況を把握するための事前ロケハンも必要であろう。
 そして、実際に撮影に出向かれたら、ホタル鑑賞にも言えることだが、ホタルの生態を事前に良く学んだうえで、次の項目を守っていただきたい。

  • ホタルに向けて懐中電灯を照らさない。
  • 絶対にストロボを焚かない。
  • 歩道以外に、踏み入れない。
  • 採集はしない。

 これは単なるマナーの押し付けではなく、ホタル観賞、撮影上での鉄則である。なぜならば 現在、多くのホタル生息地において問題となっており、ホタルが減少している実態があるからである。特に人口光による光害は重大な影響を与えているである、これは、科学的にも証明されている。(参考:ゲンジボタル・ヘイケボタル幼虫に対するLED照明の影響 宮下 衛 独立行政法人国立環境研究所 生物圏環境研究領域)ホタルの生息地全体の発生期間は2~3週間でも、羽化した個体の寿命は3~4日ほどしかない。気温が低かったり、月が出ていたり、風が強く吹いている夜は、繁殖活動が抑制されるから、雌雄が交尾できる日は、ほんの数日しかないのである。そのチャンスを鑑賞者や写真家が、自分に都合のよい考え方と自分勝手な行動で奪ってよいのだろうか?

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ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真6)
Canon 5D Mark2 / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE
バルブ撮影 F1.4 256秒 ISO 1600(撮影日:2011.07.23)

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真7)
Canon 7D / SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM
バルブ撮影 F1.4 30秒 ISO 200(撮影日:2011.7.23)

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真8)
Canon 7D / SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM
バルブ撮影 F1.4 15秒×42カット合成 ISO 200(撮影日:2011.7.23)

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真9)
Canon 5D Mark2 / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE
バルブ撮影 F1.4 2秒×62カット合成 ISO 1600(撮影日:2012.06.09)

ヒメボタルが乱舞する写真

ヒメボタル(写真10)
Canon 5D Mark2 / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE
バルブ撮影 F1.4 3秒×69カット合成 ISO 1600(撮影日:2012.06.08)

ヒメボタルの乱舞映像/Fireflies experience (Hime Fireflies)
Canon 5D Mark2 / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.

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東京に生息するヒメボタル

2009-07-22 19:50:12 | ヒメボタル


 東京奥多摩には、ヒメボタルが生息している。この5年ほど毎年観察に訪れているが、ようやく満足できる写真が撮影できた。(画像は、クリックすると大きなサイズで見ることが出来る。)

 これは、オリンパスOM-2とキャノンEOS-3、それぞれ3カットずつ撮ったものの1枚。フィルムは、ISO1600のネガカラーを用いた。合成や多重露光ではなく、長時間露光で撮影。この時は、暗闇の峠に一人でツキノワグマにも遭遇。恐怖と戦いながらも、じっくりと腰を据えたことで、杉林の斜面を明滅しながら飛び交うヒメボタルを捉えることができた。

 群生地に比べれば数は少ないが、東京都にもヒメボタルが生息しているということ、その光景を紹介することには大きな意味があると思う。



 こちらのヒメボタルの写真は、先日、山梨県で撮影したものである。ここはまさに乱舞で、「光のナイアガラ」ともいうべき光景が、雑木林の斜面に広がっている。

東京にそだつホタル>東京ゲンジボタル研究所/古河義仁

恐怖のヒメボタル観察

2009-07-12 01:31:42 | ヒメボタル
 11日~12日は岩手県までヒメボタル観察に行く予定を立てていたが、まだ発生の初期段階で数が少ないことから、今年は見送ることにした。少々残念な気もするが、代わりに先週訪れた東京奥多摩のヒメボタル生息地に再び行って来た。

 ホタルの観察は、ほとんど親友と一緒のことが多いのだが、今日は別行動。つまり一人である。自殺の名所でもある渓谷沿いの道を進んだ後、細い砂利道の林道を2kmほど登ると峠だ。そこから急勾配の登山道を数十メートル上がったところがポイントになる。

 もちろん明るい時間(18時)に到着。懐中電灯は持たずに、ポイントでひたすら待つ。気温18℃、無風、天候は曇り。19時半。時折、星も見える。先週よりも暗いなと思うと、1匹のヒメボタルが登山道脇の茂みで光る。また1匹。次第に発光するヒメボタルの数が増え、20時には、およそ50匹のヒメボタルが谷を登り始めた。

 ヒメボタルの発光色は、黄金色に見えるときもあれば、黄緑色に見える時もある。湿度による光の屈折の影響やヒメボタルとの距離も関係ない。ヒメボタル自身が発光色を変化させているとしか思えないのであるが、確かではない。急斜面の杉林を登ったり降りたり、或いは登山道を行き来するものもいる。かなりのスピードで斜面を降りていくものを追いかけるように後に続くもの、時には垂直に飛ぶものもいる。規則正しいリズムで発光していたかと思えば、光り続けながら下草めがけて下降したり、何匹もがバラバラに発光していたかと思うと、同期明滅する場合もある。15分ほどたつと、まったくいなくなる時もある。またしばらくたつと1匹の光が見え始め、またあちらこちらで発光する。何とも興味深い。

 観察途中、不思議な体験があった。山側の斜面の数メートル先でサ~と音がする。一箇所ではなく、音に奥行きがある。昨年、山梨にヒメボタル観察に行った時に、やはり数メートル先でサ~と音がした。この時は雨の音だったが、今日は違う。風の音でもない。1~2分でその音はパタリと止んだ。この音は、その20分後に再び聞こえたが、その後は聞くことはなかった。一体、何だったんだろうか?
 こんな山奥に一人というのは、何とも心細い。今日は、フクロウも鵺も鳴かない、とても静まりかえった夜だ。

 21時半。発光するヒメボタルの数が減ってきた。また、しばらくすれば光るだろう、せめて22時までし居ようと思った瞬間、背後の山側の茂みからガサ、ガサ、ガサと大きな音が聞こえてきた。
最初、人が歩いてきたのかと思ったが、そんな訳がない。イノシシか?いや、それにしては、下草を踏みしめる音が大きい。音の長さから、足のでかい奴だ。一体、何だ・・・?
「ツキノワグマの出没が確認されていますので、十分ご注意ください。」峠に建てられた看板を思い出した。やばい。その足音は、次第に近づいてくる。今度は向きを変え、左方向にノシノシと動いている。
「こっちには来るな!」心で叫びながら、身動き出来ないでいた。「まじで、やばい。」とりあえず、逃げるしかない。セットしていたカメラ2台を三脚ごと担いで、登山道を降りた。
 結局、暗闇なのでその姿を見ることはなかったが、過去の経験から鹿やイノシシとは違う。やはり熊か?ホタル観察どころではない恐怖の一時であった。


東京にそだつホタル>東京ゲンジボタル研究所/古河義仁