ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ウスバシロチョウ黒化型

2017-05-23 21:55:15 | チョウ/アゲハチョウ科

 ウスバシロチョウ Parnassius citrinarius Motschulsky, 1866 は、シロチョウと名前にあるが、モンシロチョウ等のシロチョウ科ではなく、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ウスバアゲハ属(Genus Parnassius)に属するチョウで、年1回5月頃だけに見られる。新緑に映える美しいチョウで飛び方も優雅である。幼虫の食草はムラサキケマンやヤマエンゴサクなどだが、成虫はムラサキケマンには産卵せず、近くの木の下枝などに産卵する。そして卵のまま越冬して、翌年孵化するという。
 ウスバアゲハ属は約150万年前の氷河期を生き延びて来たチョウで、胴体には細かい毛が沢山はえているのが特徴である。ちなみに、同じく毛深いギフチョウはウスバアゲハ亜科に属している。 ウスバアゲハ属は他に北海道にヒメウスバシロチョウとウスバキチョウが生息しており、ウスバキチョウは大雪山系固有で国の特別天然記念物に指定されている。世界では10の亜科に分類され多くは高山に生息しており、山や谷ごとに翅の模様が変わり、また、個体変異も多いと言われている。

 日本のウスバシロチョウは、もともと鱗粉が少ないことから「薄羽」という和名が付いているが、その鱗粉の量や色に個体変異が多く、一部では地域特性も見られ、青森県の一部には、白い鱗粉しかない「白化型」、長野県の一部には白い鱗粉が赤みを帯びる「赤化型」、福島県や新潟県等には白い鱗粉が黄色みを帯びる「黄色型」や白い鱗粉がない「黒化型」が存在している。見た目では、ノーマル・タイプが一番美しく、完全黒化型等は「油紙」のようであると言われているが、本記事は、「美」を追求するのではなく「変異」という生物学的興味から掲載するものである。
 昨年、富山県内において撮影した本種を「ウスバシロチョウ 半黒化型」として掲載しているが、今回は違う地域において撮影した個体紹介したい。羽化した後、時間と経過とともに鱗粉が取れた部分が透明化していく場合もあるようだが、この個体は、白い鱗粉がしっかりと模様を呈していることから、羽化時から変化はしていないと考えられ、「黒化型」の変異と言えるだろう。
 また、黒化型の形質はメスに出現するようで、オスにはほとんど見られない。しかしながら、オスにおいても他地域よりも黒い鱗粉が多いのが特徴で、更には日本海側に見られる特性である。
 参考までに、過去に撮影した典型的なウスバシロチョウの写真も掲載したので、比較いただきたい。尚、今後もウスバシロチョウの変異個体は撮影していきたいと思う。

参照:ウスバシロチョウ(不完全黒化型)

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ウスバシロチョウ(半黒化型)の写真

ウスバシロチョウ(黒化型のメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 200 +2/3EV(撮影日:2017.5.20)

ウスバシロチョウ(半黒化型)の写真

ウスバシロチョウ(黒化型のメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 250 +2/3EV(撮影日:2017.5.20)

ウスバシロチョウ(半黒化型)の写真

ウスバシロチョウ(黒化型のメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 250 +2/3EV(撮影日:2017.5.20)

ウスバシロチョウ(半黒化型)の写真

ウスバシロチョウ(黒化型のメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 1250 +2/3EV(撮影日:2017.5.20)

ウスバシロチョウ(半黒化型)の写真

ウスバシロチョウ(黒化型のメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 200 +2/3EV(撮影日:2017.5.20)

ウスバシロチョウ(半黒化型)の写真

ウスバシロチョウ(黒化型のメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 200 +2/3EV(撮影日:2017.5.20)

ウスバシロチョウ(黒化傾向のメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 400 +2/3EV(撮影日:2017.5.27)

ウスバシロチョウ(黒化傾向のメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/800秒 ISO 200 -2/3EV(撮影日:2017.5.27)

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過去に撮影したノーマル:タイプ

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.0 1/800秒 ISO 200(撮影日:2012.5.04 神奈川県内)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F3.5 1/250秒 ISO 200(撮影日:2011.5.05 東京都内)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 320(撮影日:2011.5.05 東京都内)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/2500秒 ISO 200(撮影日:2010.5.22 東京都内)

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ギフチョウ

2017-05-14 21:15:01 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類される里山に生息するチョウで、春先にだけ出現する「春の女神」(スプリング・エフェメラル)である。
 かつては東京都下の多摩丘陵・高尾山とその周辺にも生息していたが、里山の放棄・放置によって食草であるカンアオイやウスバサイシンが絶滅したことと、採集者によるギフチョウの乱獲により完全に絶滅している。全国的にも減少傾向にあり、環境省RDBでは絶滅危惧Ⅱ類に選定されており、26都府県のRDBで絶滅危惧Ⅱ類や準絶滅危惧種として記載している。東京近郊では、神奈川県の一部でしか見ることができない。この地区のギフチョウは、神奈川県の天然記念物され地元の保護団体により保全されているが、保全として他地域からの移入が行われた経緯があるようで、遺伝子攪乱が起こっている可能性が大きい。
 環境省RDBで絶滅危惧Ⅱ類に選定されてはいるが、法的な拘束力はなく、規制のない地域では採集も行われている。特に新潟県内においては、ギフチョウ多産地採集ツアーが開催され、参加者は採れるだけ採る。その日にいたギフチョウをすべて採りつくすのだから、環境の悪化や破壊よりもギフチョウを絶滅に追いやる一番の原因だ。

 さて、5月4日に引き続き長野県白馬村に行ってきた。桜は葉桜になり、山は新緑が美しく、例年の光景とは違っているが、今年は発生が遅いとの検証結果からの再訪問である。白馬村は採集禁止となっているので、網を持った輩は来ないが、4日に撮影したヒメギフチョウの卵が食草ごとなくなっていたのには驚いた。自宅で飼育し羽化させてそのまま標本箱に収めるために採取したのだろう。網を持っていなければ怪しまれない。まったく酷い話である。
 4日の様子は前回の記事「ヒメギフチョウ」をご覧いただきたいが、今回の目的もイエローバンドと言われる、後翅縁毛の全てが黄白色になったギフチョウ(白馬で固定化した遺伝子の異常タイプ)の撮影である。自宅を5時に出発し、現地に8時過ぎに到着。蝶道で待機していると、8時半からギフチョウが飛び始めた。4日よりも個体数が多く、ヒメギフチョウよりもギフチョウの方が多い。次々に現れるが、なかなか止まってくれない。特徴が分かる図鑑的写真を撮るには、止まったところを狙うのが一番だが、止まってくれない。10時頃になるとスミレに止まる個体が現れ、ようやく撮影可能となった。
 止まるであろうスミレの近くで待機していると、ギフチョウは突然現れる。どうやら頭上の高い梢から降りてくるようだ。とりあえず追いかける。そして地面や花に止まったところで撮影。 当然、どこにも止まらず森に消える個体も多い。飛翔を追いかけていくと、杉の高い梢に止まる個体を多く見た。
 正午過ぎまで数頭の個体を撮影したが、結局イエローバンドの個体に巡り合うことはできなかった。また来年にチャレンジである。イエローバンドという遺伝子の異常タイプも撮影したいが、とりあえずは、今年も絶滅危惧種である「春の女神」ギフチョウに出会えたことに感謝したい。

 以下の写真は、ギフチョウと比較するために同日に撮影したヒメギフチョウも掲載した。また、カタクリで吸蜜するギフチョウ(写真5.)は、2014年に撮影したものを再掲載した。

参照

  1. ギフチョウ(新潟)
  2. ギフチョウとヒメギフチョウ

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ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.14)

ギフチョウの写真

ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F10 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.14)

ギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F5.6 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.14)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F16 1/80秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.14)

ヒメギフチョウの写真

カタクリで吸蜜するギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2014.5.03)

ギフチョウの写真

カタクリで吸蜜するヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F7.1 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.14)

ヒメギフチョウの写真

ギフチョウの里(撮影地:長野県白馬村 2017.5.14)

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ヒメギフチョウ

2017-05-12 22:52:44 | チョウ/アゲハチョウ科

 ヒメギフチョウ Luehdorfia puziloi (Erschoff, 1872) は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類されるチョウで、北海道亜種と本州亜種がある。同属のギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 とは、前翅のいちばん前方外側の黄白色の斑紋がずれず、他の斑紋と曲線をなしている点や尾状突起が短く先がとがっている点が異なっており、大きさも少し小さい。また、ギフチョウとヒメギフチョウ本州亜種 Luehdorfia puziloi inexpecta Sheljuzhko, 1913 の分布は明確に分かれており、この2種の分布境界線はリュードルフィアライン(ギフチョウ線)と呼ばれているが、長野県白馬村と飯山市、山形県鮭川村は分布境界線上にあり、ギフチョウとヒメギフチョウ本州亜種の混生地となっている。
 この2種は、一年に一回、春先だけに発生するスプリング・エフェメラルだが、幼虫はカンアオイやウスバサイシン等の葉を食べて6月下旬にはサナギになる。そして夏・秋・冬をサナギのまま過ごすという一生である。その生態から、氷河期の頃から地球環境の変化に耐えて生き残ったと考えられており、地史的にも興味深いチョウである。ヒメギフチョウ本州亜種は準絶滅危惧(NT)として環境省RDBに掲載されており、白馬村では天然記念物に指定されている。

 ヒメギフチョウ本州亜種は、2012年に群馬県渋川市赤城町(写真:3)において、2014に長野県白馬村(写真:4)にて撮影し、ブログ 「ホタルの独り言」に掲載しているが、今回の訪問目的は、実はヒメギフチョウの撮影ではなく、日本ではここにしかいないイエローバンドと言われる、後翅縁毛の全てが黄白色になったギフチョウ(遺伝子の異常タイプ)の撮影が目的であった。しかしながら、全体的に発生数が少なく、聞けば数日前かたやっと見られたという状況らしい。今年は、他の昆虫も発生が遅い状況であるが、白馬のギフチョウも同様のようである。今回の訪問で見ることができた個体のほとんどは、ヒメギフチョウであった。
 本記事では、今回撮影したヒメギフチョウの他、赤城町、白馬村において撮影した写真も併せて掲載いた。どの個体も後翅のオレンジ色の斑紋が違うのが興味深い。

参照:ヒメギフチョウ
ギフチョウとヒメギフチョウ

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ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.0 1/800秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.04)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/640秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.04)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ(赤城姫)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 200(撮影地:群馬県赤城町 2012.5.13)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320 -1/3EV(撮影地:長野県白馬村 2014.5.03)

ヒメギフチョウの卵の写真

ヒメギフチョウの卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2017.5.04)

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ウスバシロチョウ 半黒化型

2016-05-30 22:38:01 | チョウ/アゲハチョウ科

 ウスバシロチョウ Parnassius citrinarius citrinarius Motschulsky, 1866 は、北海道から本州、四国にかけて分布するが、分布域のどこにでも見られるわけではなく、局所的に個体群が存在してる。そのため、それぞれの地域個体群の間で遺伝的な変異が存在すると考えられており、地理的変異・個体変異が多い種である。上翅中室の外縁側下方や中央に丸い黒紋が出現するような翅の斑紋の違いがあったり、全体的な色合いが黄色い個体や白い個体、そして黒っぽく見える個体等、様々である。地理的では、日本海側では、白い鱗粉が少ないために黒っぽく見える個体、いわゆる黒化型の個体が多く出現することが知られており、愛好家からは「ウスバクロチョウ」などと呼ばれている。
 今回、北陸において黒化型に近い個体を撮影したので掲載する。比較のために黒化していない個体も写真も掲載した。来年は、様々な地理的変異・個体変異を撮影することを目標にしたい。

参考:ウスバシロチョウ(2016.04.20投稿)

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ウスバシロチョウ(黒化個体)

ウスバシロチョウ(黒化個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320(2016.5.28)

ウスバシロチョウ(黒化個体)

ウスバシロチョウ(黒化個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320(2016.5.28)

ウスバシロチョウ

ウスバシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F2.8 1/2500秒 ISO 200 (2010.05.22)

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アオスジアゲハ属

2016-05-09 19:37:21 | チョウ/アゲハチョウ科

 日本国内におけるアゲハチョウ科(Papilionidae)アオスジアゲハ属(Graphium)は、下記の2種が生息しており、他のアゲハチョウ科と生態的に差異があり、幼虫は、茎や幹ではなく「葉」で蛹化し、食草(食樹)も異なる。

アオスジアゲハ属

  1. アオスジアゲハ Graphium sarpedon nipponum Fruhstorfer, 1903
  2. ミカドアゲハ Graphium doson (C. Felder et R. Felder, 1864)
    • ミカドアゲハ 日本本土亜種 Graphium doson albidum Wileman,1903
    • ミカドアゲハ 八重山亜種 Graphium doson perillus Fruhstorfer,1908

 アオスジアゲハは、黒地に一本の青緑色の帯が形態的な特徴で、英名では"Common Bluebottle"と呼ばれている。 この帯に鱗粉はなく、翅自体に色がついている。南方系のチョウなので本州、四国、九州、八重山諸島に分布し、現在、東北の秋田県、岩手県の南部が北限であり、年々北上傾向にある。 しかしながら、長野県では、ほとんど見られない。これは、幼虫の食樹であるクスノキ、タブノキ等のクスノキ科常緑樹の分布と関係している。
 アオスジアゲハは東京の都心でも普通に見られる。クスノキは大気汚染に強く街路樹として多く植えられていることが理由であろう。また、昨今のヒートアイランド現象と局地的豪雨により熱帯化している都市部は、南方系統の本種にとっては、棲みやすい環境なのかも知れない。
 ミカドアゲハは、国内では、和歌山県、三重県の紀伊半島沿岸部と中国地方(山口、広島、岡山の一部)、 四国の太平洋岸の低地、九州、沖縄にしか分布していない。これまで、三重県の玉城町にある田丸神社の杜が北限と言われてきたが、最近は温暖化により愛知県の知多半島まで分布を広げている。しかしながら、食樹であるオガタマノキを中心とする極めて狭い範囲に限って生息するため、食樹の分布上からも、これ以上は北上しないと考えられている。
 個体数も多くはなく、高知市の「ミカドアゲハ及びその生息地」は、国の特別天然記念物に指定され、また、室戸市では市指定の天然記念物にも指定されている。

 さて、ミカドアゲハを撮影するには、東京から一番近い生息地でも紀伊半島まで行かなければならない。そこで、食樹であるモクレン科のオガタマノキが神木として多く植えられており、昔からミカドアゲハの生息地として有名な伊勢神宮を訪れたわけだが、ミカドアゲハという和名は、このチョウの発見者であるL.H.リーチ氏が明治天皇に献名したことが由来と言われている。ミカド(帝、御門)は、御所の門の意味で天皇の尊称だ。このミカドアゲハを皇室の氏神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀る伊勢神宮の内宮で撮ることに大きな意味を感じた。
 一方、アオスジアゲハは、東京の渋谷駅近くでも飛んでおり、私にとっては普通種である。今月5日に埼玉県の里山で撮影したが、自身の過去の写真とデータを確認すると、これまでに2回しか撮影しておらず、その内1回は宮古島で、本土では1回でわずか3枚であった。前々回に紹介したスジグロシロチョウをはじめ、アゲハチョウ(ナミアゲハ)等のように、普通種であると、写真は「おざなり」 、生態の勉強は「なおざり」の傾向にある。アオスジアゲハもその類として扱っていたのである。
 絶滅危惧種等を追いかけることは有意義であり、絶滅危惧種でなくても撮影難易度の高い種を撮ることは、撮影者としては意欲を掻き立てられる。本年も、それらを中心に遠征続きの週末であるが、誰もが見て知っている普通種をきっちり撮っておくことも、昆虫を学び、また撮る者としては、基本であると改めて認識した昨今である。

注釈:本記事は、先日撮影した未掲載の写真と過去に様々な地域や場所において撮影した写真を再現像し編纂したものです。

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

アオスジアゲハ

アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / EF100-300mm f/4.5-5.6 USM
絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 1250(撮影地:沖縄県宮古島市 2012.09.09)

アオスジアゲハ

アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / EF100-300mm f/4.5-5.6 USM
絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 800(撮影地:沖縄県宮古島市 2012.09.09)

アオスジアゲハ

アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F11 1/2500秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:埼玉県小川町 2016.5.5)

アオスジアゲハ

アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F11 1/250秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:埼玉県小川町 2016.5.5)

アオスジアゲハ

アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F11 1/250秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:埼玉県小川町 2016.5.5)

ミカドアゲハ

ミカドアゲハ (日本本土亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:三重県伊勢市 2015.5.17)

ミカドアゲハ

ミカドアゲハ (日本本土亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:三重県伊勢市 2015.5.17)

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アキリデス

2016-04-27 22:31:47 | チョウ/アゲハチョウ科

 アキリデス(Achillides)。あまり聞き慣れない名前かも知れないが、アゲハチョウ属のカラスアゲハ亜属をそう呼んでいる。 これは分類学上の学名等ではなく、樹上性シジミチョウの一群であるミドリシジミ族をゼフィルス(Zephyrus)と呼ぶのと同じ呼称である。
 アキリデスは、日本国内には2つのグループ、カラスアゲハとミヤマカラスアゲハが生息しており、アゲハチョウ属の中でも、青緑色に輝く美しさを持っている。カラスアゲハは、亜種(地域的変異)で分けると6亜種生息しており、一方、ミヤマカラスアゲハは1亜種のみが生息している。

アゲハチョウ属(Papilio)/アキリデス・グループ

  1. グループⅠ
    • カラスアゲハ原名亜種(Papilio dehaanii dehaanii C. Felder et R. Felder, 1864 )
    • カラスアゲハ 八丈亜種(Papilio dehaanii hachijonis Matsumura, 1919 )
    • カラスアゲハ トカラ亜種(Papilio dehaanii tokaraensis Fujioka, 1975)
    • オキナワカラスアゲハ 原名亜種(Papilio ryukyuensis ryukyuensis Fujioka, 1975)
    • オキナワカラスアゲハ(Papilio ryukyuensis amamiensis Fujioka, 1981)
    • ヤエヤマカラスアゲハ(Papilio bianor okinawensis Fruhstorfer, 1898)
  2. グループⅡ
    • ミヤマカラスアゲハ(Papilio maackii Menetries, 1858)

注意:形態、交配実験、染色体調査、分子系統研究による結果により2010年に学名変更されている。
用語解説
亜種:種よりさらに細かい分類単位。同じ種でも生息地域が異なり(分布が重ならない)、形態的な差が顕著な場合に用いられる。
原名亜種:記載された種がいくつかの亜種に分けられたとき、学名は「属名+種小名+亜種名」となる。このうち、最初に記載されたものを亜種名=種小名とし、基準として原名亜種と呼ぶ。

 これまで、分類は成虫の形態、幼虫の形態と食草、蛹の形態、地理的分布などにより行われてきたが、昨今、活発に行われているDNA分析 (ミトコンドリアDNAの塩基配列(ND5遺伝子789塩基)の解析)では、ミヤマカラスアゲハ(Papilio maackii)と中国のシナカラスアゲハ(Papilio syfanius)が同一種であることが 分かっている。また、カラスアゲハ(Papilio dehaanii dehaanii)と中国大陸西部に分布するクジャクアゲハ(Papilio polyctor)も同一種であることが判明している。こうした分子的手法を用いたDNA分析やアロザイムレベルからの分子系統学的研究は、これまで別種とされてきた種が同種であったことが判明するなどしているが、進化や移動の過程も 分かる。ミヤマカラスアゲハは、100万年以内に多型をもつ変異集団が中国大陸に生じ、氷河時代に日本列島に進入したと考えられている。

 カラスアゲハとミヤマカラスアゲハの違いは、形態的には、後翅裏面に黄色い帯が現れるのがミヤマカラスアゲハでカラスアゲハでは帯がないので 区別できる。幼虫の食草は、カラスアゲハがコクサギ、キハダ、サンショウ、カラスザンショウなどで、ミヤマカラスアゲハはキハダ、カラスザンショウなど。生息域はどちらも山地が主であるが、食草の関係でカラスアゲハは市街地に近い所でも見ることができる。
 ミヤマカラスアゲハは1亜種であるが、地域変異や個体変異が多く、翅の色や模様が異なっている。トンボにおいては、カワトンボ属の地理的変異個体群、ミナミヤンマのメスの翅の模様の地域変異、チョウトンボの翅の模様に個体変異がある。一生を通じた生態写真の撮影も重要なテーマであるが、地域変異や個体変異をテーマにして撮影するのも有意義である。
 掲載の写真は、カラスアゲハとミヤマカラスアゲハの春型でオスである。オスの前翅の一部にはビロード状の長毛があるが、これは発香鱗という鱗粉が変化して香り(性フェロモン)を 分泌するものである。他のチョウでは、発香鱗は翅全体に万遍なく混在して肉眼では確認できない種が多いが、アキリデスなどは翅の一部に集中していてオスの性標紋ともなっている。

注釈:本記事は、過去に様々な地域や場所において撮影し個別に公開していた写真を、時節柄の話題として提供するために再現像し 編纂したものです。

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

カラスアゲハ(春型)

カラスアゲハ(春型オス)
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F22 0.8秒 ISO 100 +1/3EV(2012.5.20)

ミヤマカラスアゲハ(春型)

ミヤマカラスアゲハ(春型オス)
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640 +1EV(2012.5.27)

カラスアゲハ(春型)

カラスアゲハ(春型オス)
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 1000 +1/3EV(2011.5.8)

ミヤマカラスアゲハ(春型)

ミヤマカラスアゲハ(春型オス)
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(2012.5.27)

カラスアゲハ(夏型メス)

カラスアゲハ(夏型メス) / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F5.0 1/320秒 ISO 640 -1/3V(2012.8.11)

ヤエヤマカラスアゲハ(メス)

ヤエヤマカラスアゲハ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640(2022.3.31)

参考文献ほか

日本産蝶類和名学名便覧

松村 行栄 五十嵐 聖貴 松岡 教理
日本産アゲハチョウ科の分子系統学的研究
Bull. Fac. Agric. & Life Sci. Hirosaki Univ. No. 8 : 1 - 8, 2005

八木 孝司 佐々木 剛 尾本 惠市
ミトコンドリアDNA解析によって明らかになったカラスアゲハ亜属(アゲハチョウ科アゲハ千ョウ属)の系統,生物地理,斑紋の収斂現象
蝶と蛾 Trans. Iqpid .Soc. ,Japa n57 (2) 1:37-147 ,March 2006

八木孝司・佐々木剛
東アジア各地産カラスアゲハ亜属の系統関係
蝶類DNA研究会ニュースレター(3):7-9.

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ウスバシロチョウ

2016-04-20 21:25:28 | チョウ/アゲハチョウ科

 ウスバシロチョウParnassius citrinarius citrinarius Motschulsky, 1866)は、シロチョウという和名であるが、
  アゲハチョウ科(Papilionidae)
   ウスバアゲハ亜科(Parnassiinae)
    ウスバアゲハ族(Parnassiini)
     ウスバアゲハ属(Parnassius)
に属するチョウで、文字通り白く透けた翅(薄翅)が魅力のチョウである。学名のParnassiusは、ギリシャ神話のアポロが住む山、Panassos(パルナッソス)山からきている。以前、学名は(Parnassius glacialis)が使用されていた(海外では現在も使用されている)が、現在の日本では(Parnassius citrinarius)としている。尚、glacialisは「氷の」という意味である。花言葉のように蝶言葉があれば、「清楚、可憐・・・」などが当てはまるだろう。
 分類額上、アゲハチョウ科であるにも関わらず「ウスバシロチョウ」では紛らわしいことから「ウスバアゲハ」という別名も近年に付けられているが、私個人的には昔からの「ウスバシロチョウ」という名に馴染みがあり、また日本昆虫学会・日本昆虫目録編集委員会・鱗翅目分科会作成の「日本産蝶類和名学名便覧」においても「ウスバシロチョウ」と記載していることから、当ブログ本記事でも「ウスバシロチョウ」として記載し、今後も統一したいと思う。
 ウスバアゲハ属は、世界に約40種ほど知られており、そのほとんどが寒地か高山地帯にだけ分布しているが、日本のウスバシロチョウは最も南に分布し、平地にも生息している。日本には、ウスバアゲハ属が3種生息しており、本種の他2種(ウスバキチョウ、ヒメウスバシロチョウ)は北海道特産種で、ウスバキチョウは大雪山系固有で国の特別天然記念物に指定されている。

 ウスバシロチョウは、年1回、暖地では4月下旬~5月上旬、寒冷地では6月下旬~7月中旬に姿をみせるスプリング・エフェメラルであり、約150万年前の氷河期を生き延びて来たと言われており、北海道の一部、本州、四国にかけて分布し、樹林に隣接した草地等に生息している。
 本種は、様々な特異な生態をしていることで知られている。1つは、交尾を終えた雌の腹端に雄が分泌する「交尾付属物(sphragis)」と呼ばれる付属物がつけられる点である。交尾後のメスが付属物をつけられる理由は不明だが、メスが何回も交尾するのを防ぐためであると考えられている。2つ目は、成虫は、食草であるケシ科のムラサキケマンやヤマエンゴサクには産卵せず、近くの木の下枝などに産卵することである。卵のまま夏、秋、そして冬を越して、翌年の1月下旬~3月上旬頃に孵化するが、新芽が展開する前に孵化した幼虫は、食草の芽をかじりながらゆっくりと成長し、暖かい日は石の上等で日なたぼっこをするのも面白い。また、終齢になった幼虫は、地表や石の下などで枯葉をくるんで糸で繭を作って蛹になる。これらの生態は、ウスバシロチョウ特有であり、少なくとも他アゲハチョウ科ではみられない。
 また、ウスバシロチョウは分布域のどこにでも見られるわけではなく、局所的に個体群が存在してる。そのため、それぞれの地域個体群の間で遺伝的な変異が存在すると考えられており、翅が白いものから、かなり黒いもの、或いは黄色に近いものまで存在し、地理的変異・個体変異が多い種である。
 近年、数を減らすチョウが多い中、ウスバシロチョウは全国的に分布を拡大し、個体数も増えている。ただし、環境省RDBに記載はないが、茨城県RDBでは絶滅危惧Ⅰ類に選定されている。

参考:ウスバシロチョウ(不完全黒化型)

注釈:本記事は、過去に様々な地域や場所において撮影し個別に公開していた写真を、時節柄の話題として提供するために再現像し編纂したものです。

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ウスバシロチョウ

ウスバシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F3.2 1/2000秒 ISO 200(撮影地:群馬県桐生市 2012.5.13)

ウスバシロチョウ

ウスバシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F3.2 1/1600秒 ISO 200(撮影地:山梨県上野原市 2012.5.4)

ウスバシロチョウ

ウスバシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F2.8 1/2500秒 ISO 200 (撮影地:東京都あきる野市 2010.05.22)

ウスバシロチョウ

ウスバシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 320(撮影地:東京都あきる野市 2011.5.5)

ウスバシロチョウ

ウスバシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F3.5 1/250秒 ISO 200(撮影地:東京都あきる野市 2011.5.5)

ウスバシロチョウ

ウスバシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 640(撮影地:東京都あきる野市 2011.5.5)

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生態系被害防止外来種のチョウ

2015-10-06 22:10:23 | チョウ/アゲハチョウ科

 平成22年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議において、「2020年までに侵略的外来種とその定着経路を特定し、優先度の高い種を制御・根絶すること」等を掲げた愛知目標が採択された。この愛知目標の達成に資するとともに、外来種についての国民の関心と理解を高め、様々な主体に適切な行動を呼びかけることを目的とした、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」が、環境省と農林水産省によって作成された。
 リストには、計429種類(動物229種類、植物200種類)が掲載されており、昆虫類では22種がリストアップされており、中でも今回は、総合的に対策が必要な外来種(総合対策外来種)「緊急対策外来種」に選定されているのチョウ類2種、ホソオチョウ(Sericinus montela)とアカボシゴマダラ (Hestina assimilis assimilis)について記しておきたい。

 ホソオチョウとアカボシゴマダラは、人為的な放蝶行為によって、現在、日本国内に定着しているチョウである。この2種は、これまで、外来生物法の規制が課されるものではないが、生態系に悪影響を及ぼしうることから、適切な取扱いについて理解と協力をお願いするという「要注意外来生物」として扱われてきたが、先般の愛知目標によって作成された生態系被害防止外来種リスでは、「緊急対策外来種」に選定されている。
 珍しい、美しい等という人間の勝手な欲によって持ち込まれ、繁殖し拡大しようとしている昆虫。昆虫に罪はないが、排除されなければならない外来種である。とは言っても、ここまで拡大し定着してしまうと難しいのが現状だ。

ホソオチョウ(Sericinus montela)

ホソオチョウ/春型オス(撮影地:埼玉県所沢市 2011.4.24)

ホソオチョウ/春型オス(撮影地:岐阜県大野町 2012.4.28)所沢市の本種とは、翅の赤斑と青斑が異なっている

ホソオチョウ/夏型オス(撮影地:埼玉県所沢市 2011.7.17)

ホソオチョウ/夏型オス(撮影地:埼玉県所沢市 2011.7.17)

●原産地と分布
ロシア東部、中国、朝鮮半島
●定着実績
1978年に東京で確認されて以来、分布域は拡大し、これまでに関東、近畿の他、岐阜、岡山、山口、福岡で確認されている。
●評価の理由
在来種のジャコウアゲハとの食草をめぐる競合が懸念されている。植物防疫法で輸入が禁止されており、 これらの法令を遵守するとともに、放蝶に由来すると考えられる分布拡大を防ぐ普及啓発が必要。
●生態系に係る被害
幼虫期における在来種ジャコウアゲハとの競合のおそれがある。
●被害をもたらす要因
(1)生物学的要因
本種の幼虫はマルバウマノスズクサとウマノスズクサを基本的な食草として利用しており、在来種ジャコウアゲハとの競合が懸念される。 オオバウマノスズクサがある場合にはジャコウアゲハはオオバウマノスズクサを利用するが、ウマノスズクサしかない地域では、両者が同じ資源を利用することになり、 競合がおこると考えられる。
(2)社会的要因
日本への侵入、定着及び分布拡大の多くは人為的な放蝶行為によるものと考えられている。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
アゲハチョウ科ギフチョウ属の1属1種のチョウ。春型では全体に白い翅色を持ち、夏型は黒色と黄色を呈する、上記の特徴と長い尾状突起を持つ点で類似する種はない。
●その他の関連情報
本種はもともと飛翔力の乏しい種類で特にメスは食草ウマノスズクサの群落からあまり離れることがない。このような種が各地に分布を拡大している背景には意図的な放蝶行為が 繰り返されていることが示唆される。京都府の木津川堤防における調査では、本種の個体数がピーク時でジャコウアゲハの10~30倍にも達している。また、ジャコウアゲハのみしか 生息していない区域に比べ両者が生息している区域ではジャコウアゲハの生息密度が低いことが指摘されている。東京都内での繁殖は報告がないが、近隣の埼玉県所沢市では、 極狭い範囲において繁殖・定着が見られる。植物防疫法に基づく検疫有害動物として輸入が禁止されている。
●注意事項
植物防疫法に基づく検疫有害動物として輸入が禁止されている種であり、国内で意図的に放蝶して野外への定着を試みる行為は、被害の予防の観点からも、厳に慎むべきである。

アカボシゴマダラ(Hestina assimilis assimilis)

アカボシゴマダラ/春型メス(撮影地:東京都青梅市 2012.06.10)

アカボシゴマダラ/夏型オス(撮影地:東京都三鷹市 2010.08.28)

●原産地と分布
中国、朝鮮半島、済州島、台湾
●定着実績
1998年に神奈川県藤沢市で確認されて以来、発生は続き、分布域は拡大している。2004年には藤沢市、横浜市、鎌倉市、逗子市、葉山町、綾瀬市、大和市、茅ヶ崎市で確認されている。
●評価の理由
在来種のコマダラチョウとの食草をめぐる競合が懸念されている。植物防疫法で輸入が禁止されており、これらの法令を遵守するとともに、放蝶に由来すると考えられる分布拡大を防ぐ 普及啓発が必要。
●生態系に係る被害
幼虫期における在来種ゴマダラチョウとの食草をめぐる競合のおそれ。現在は未侵入であるが、環境省レッドリストで準絶滅危惧のオオムラサキの生息地に侵入した場合、 オオムラサキと食草をめぐって競合する可能性も考えられる。
●被害をもたらす要因
(1)生物学的要因
本種の幼虫は食樹エノキの枝の分岐、幹上でも越冬するため、落葉で越冬するゴマダラチョウ幼虫よりも早く新葉に到達し、到達した葉上で台座を作りその位置を占めることが できるため、アカボシゴマダラの方が優位ではないかと推察されている。アカボシゴマダラ同士の観察では、先に新葉に到達した個体がいる場合、後からやってきた個体が反転して 去ってしまう行動が観察されており、ゴマダラチョウとの間でもそのような行動が見られる可能性もあるが、実態は不明。
(2)社会的要因
現在定着している地域では1997年以前にはまったく確認されていなかったので、侵入、定着は人為的な放蝶行為によるものと考えられている。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
同属で在来種のゴマダラチョウとは後翅の亜外縁に赤色の紋を持つことで区別される。白化型では赤紋が消失するが、黒色部分が少なく、 ゴマダラチョウとの区別は容易。また、奄美大島、徳之島に産する亜種shirakiiとは春型など低温期に白化型がでることや、後翅の赤紋の色彩、形状が異なる。
●その他の関連情報
1998年に最初に確認されてから、着々と分布を拡大しているので今後の動向に注目が必要。東京都内でも、随所で普通に見られる程、定着・繁殖している。
●注意事項
植物防疫法に基づく検疫有害動物として輸入が禁止されている種であり、国内で意図的に放蝶して野外への定着を試みる行為は、被害の予防の観点からも、厳に慎むべきである。

参考文献

福田晴夫他 (1983) 原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ). 保育社. 325pp.
藤井恒 (2002) ホソオチョウ. 日本生態学会編「外来種ハンドブック」地人書館. P. 157.
桜谷保之・菅野格朗 (2003) 京都府木津川堤防におけるホソオアゲハの生態―特に在来種ジャコウアゲハとの比較―. 巣瀬司・枝恵太郎共編「日本産蝶類の衰亡と保護 第5集」 日本鱗翅学会, p. 181-184.
小路嘉明 (1997) 持ち込まれたホソオチョウ. 日本動物百科第9巻昆虫Ⅱ平凡社, p. 33.
岩野秀俊 (2005) 神奈川県におけるアカボシゴマダラの分布拡大の過程. 昆虫と自然, 40(4): 6-8.
福田晴夫他 (1983) 原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ). 保育社. 325pp.
中村進一 ・菅井忠雄・岸一弘 (2003) 神奈川県におけるアカボシゴマダラの発生. 月刊むし, (384): 38-41.
中村進一 ・菅井忠雄 (2005) 神奈川県におけるアカボシゴマダラの発生(2). 月刊むし, (409): 94-97.
環境省 自然環境局 野生生物課 外来生物対策室/ホームページ
国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 侵入生物研究チーム/ホームページ

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.

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