ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ジョウザンミドリシジミ(折爪岳)

2017-07-18 21:25:18 | チョウ/ゼフィルス

 ジョウザンミドリシジミ Favonius taxila taxila (Bremer, 1861) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ミドリシジミ族(Tribe Theclini)オオミドリシジミ属(Genus Favonius)の山地性ゼフィルスで、北海道北東部・本州の東北地方~中国地方の日本海側に分布し、ブナ科のミズナラやコナラ林に生息している。和名のジョウザン(定山)は、北海道の名勝地定山渓で最初に発見されたことにちなむ。
 前の記事で述べたとおり、16日の折爪岳は悪天候でヒメボタルの飛翔数は少なく、少々残念であったが、翌朝は、良い天気であった。朝4時半から周辺のブナやミズナラが混生する森を散策。すると、森のギャップの下草に多くのゼフィルスが見られた。ジョウザンミドリシジミである。
 ジョウザンミドリシジミは、過去に南会津と信州で撮影しているが、地域特性なのだろうか、折爪岳の個体は一回り小さい。しばらくして森に朝日が当たるようになると、オスたちはそれぞれのテリトリーを見張るために、ミズナラの葉先に止まって翅を開き始めた。他のオスが飛んで来れば、激しい卍飛翔を繰り返し行っていた。そのうち1頭が下草に止まって開翅したので、ベストな角度で撮影。ジョウザンミドリシジミは、下草でもテリトリーを見張るので、とても撮影しやすい種でもある。

 ジョウザンミドリシジミは、環境省カテゴリにはないが、東京都・埼玉県のRDBで絶滅危惧Ⅰ類、茨城県RDBでは絶滅危惧Ⅱ類に選定している。

参照

  1. ジョウザンミドリシジミ
  2. ジョウザンミドリシジミ(南会津)
  3. ジョウザンミドリシジミ(乗鞍)

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、すべて1024*683 Pixelsで掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ジョウザンミドリシジミ(オス)の写真

ジョウザンミドリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 400(撮影地:岩手県二戸市/2017.7.17)

ジョウザンミドリシジミ(オス)の写真

ジョウザンミドリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 320(撮影地:岩手県二戸市/2017.7.17)

ジョウザンミドリシジミ(オス)の写真

ジョウザンミドリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/1608秒 ISO 250(撮影地:岩手県二戸市/2017.7.17)

ジョウザンミドリシジミ(メス)の写真

ジョウザンミドリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:岩手県二戸市/2017.7.17)

ジョウザンミドリシジミ(オス)の写真

ジョウザンミドリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 800 -1EV(撮影地:岩手県二戸市/2017.7.17)

ジョウザンミドリシジミ(オス)の写真

ジョウザンミドリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 1000 -1EV(撮影地:岩手県二戸市/2017.7.17)

ジョウザンミドリシジミ(メス)の写真

ジョウザンミドリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 1000 -1EV(撮影地:岩手県二戸市/2017.7.17)

ジョウザンミドリシジミ(メス)の写真

ジョウザンミドリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 3200(撮影地:岩手県二戸市/2017.7.17)

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ウラクロシジミ

2017-06-18 18:18:57 | チョウ/ゼフィルス

 ウラクロシジミ Iratsume orsedice orsedice (Butler, [1882]) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)/ミドリシジミ族(Tribe Theclini)/ウラクロシジミ属(Genus Iratsume)のゼフィルス。北海道の南部の一部、本州、四国、九州に分布し、食樹であるマンサク科のマンサク、マルバマンサクの生える山間部の渓谷等に、局所的に生息している。
 環境省RDBに記載はないが、12の府県におけるRDBで準絶滅危惧種に選定されている。

 ウラクロシジミのメスの翅表は、基半部が光沢のない青白色で幅広く黒色で縁取られるが、オスの翅表は、光沢のある銀白色で真珠のような輝きを持っており、その開翅写真を撮影するべく、毎年、生息地を訪れて撮影してきたが、オスの開翅は10m先の葉上であり、証拠程度の写真ばかりであった。ゼフィルスの撮影を行っておられる方々はお分かりだと思うが、翅表が美しいのになかなか撮影できない種は、キリシマミドリシジミと本種である。それは、葉上に止まって開翅はするのだが、その距離があまりに遠すぎることが理由として挙げられる。今年は、画質の高いオスの開翅写真を撮ることを大きな目標とし、生息地における基本的な生態と行動パターンを観察し、羽化して間もない翅の痛んでいない時期を見定めて挑戦した。その結果、過去よりも画質の高い図鑑写真を撮影することができ、目標を達成することができた。(参照:今年の撮影目標
 参考までに本種の行動パターンを記しておくと、地域によって多少の差はあるものの、活動時間は夕方のみで、概ね15時頃から飛翔を開始する。それまでは、食樹や下草等で休んでいるようである。飛翔するのはほとんどがオスで、活動開始後は、しばらく飛翔した後、食樹に限らず開けた場所の葉上に止まり、西日が当たっていると開翅する。テリトリーを見張る行動はない。16時を過ぎ、西日が陰ると活動が活性化し、盛んに飛び回る。その頃になると葉に止まることは少なくなり、止まっても開翅はしない。飛翔しながらオス同士が近づくと卍飛翔をするが、それは僅かな時間だけで、すぐに分かれて様々な方向へと飛び回るのである。
 一方、メスはオスが時期的にほとんど見られなくなてからも見ることができる。その頃は、日中から食樹であるマンサクの周囲を飛び回り、止まると翅を開くという行動をとり、盛んに産卵を行う。参考までに、昨年、撮影したメスの半開翅写真も掲載しておきたいと思う。

 ウラクロシジミは、翅表が真珠のような美しさであるがゆえに、採集者による乱獲が絶えない。本記事においても撮影地域・場所は一切公表をしないのでご了承願いたい。

参照

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ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 2000(2017.6.17)

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 3200(2017.6.17)

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F9.0 1/500秒 ISO 3200(2017.6.17)

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F9.0 1/1000秒 ISO 2000(2017.6.17)

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F9.0 1/1000秒 ISO 2500(2017.6.17)

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE FF9.0 1/1000秒 ISO 2000 +1/3EV(2016.6.26)

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平地性ゼフィルス

2017-06-12 20:07:22 | チョウ/ゼフィルス

 平地性ゼフィルスとは、樹上性のシジミチョウの一群(ミドリシジミ族)25種に内、平地や丘陵地等に生息する以下の6種を言う。一方、山地に生息する19種は「山地性ゼフィルス」と呼んでいる。

 いずれの種も過去に図鑑写真は撮影済であるが、先日訪れた谷戸において、平地性ゼフィルス6種すべてが狭い範囲内で発生していたので紹介したい。尚、開翅などの図鑑写真は、上記リストのリンク先を参照いただきたい。

 6月4日に飛翔と静止を撮影したサラサヤンマ。今度は、産卵のシーンを撮影するべく、同じ生息地を訪れた。しかしながら、たった一週間で、あれぼどいたサラサヤンマがオスメス共に1頭も姿を見ない状況に変わっていた。その代わりに、平地性ゼフィルスの楽園と化していた。
 10時半に谷戸の湿地に到着すると、下草でミドリシジミのオスが開翅しており、次々に樹上へと飛び立つ。どうやら2日ほど前から羽化し出したらしい。ミドリシジミの発生が分かっていたら、もっと早くに来たのだが、この日は、サラサヤンマの産卵しか頭になかったため遅い出動。ミドリシジミの開翅は撮れなかった。(過去には撮影済)
 一週間には、大発生していたアカシジミとウラナミアカシジミだが、数は減ったものの至るところにその存在は確認できるし、新たにオオミドリシジミとミズイロオナガシジミ、そしてウラゴマダラシジミも同じ谷戸で確認できた。この谷戸には、かつて何度も訪れていたが、平地性ゼフィルス6種が30mも移動しない範囲で観察できるとは驚きであった。
 サラサヤンマの産卵撮影は、本年の主目的ではなかったので、来年この多産地でリベンジしようと思う。

 今年は、様々な昆虫の発生が遅いように思う。と言うより、ここ数年が早すぎたのであり、今年は平年通りの時期に発生のようである。
 9日は、朝4時半に起床して会社に出勤し、夜は千葉県でゲンジボタルの観察と撮影。一週間に訪れていたが発生初期のため、この日が2度目。撮影後、そのまま寝ずに東名高速で関西まで行き、 早朝から西日本に生息するゼフィルスを狙ったが、なんと未発生。行きは10tトラックとの攻防で帰りは睡魔との闘い。往復1,300km走っただけ。その翌日に、この谷戸を訪れた訳であるが、平地性ゼフィルスを撮影後、山地性のゼフィルスの発生を確認しに山間部へ行ったが、やはり未発生。「写真」という成果はないが、未発生という観察結果だけは得られた。
 「今年の撮影目標」は、前倒し気味で計画していたので、すべて一週間ほど遅く修正して練り直す必要がある。天候とのタイミングもあるので、計画通りに進まないかも知れないし、訪れても撮れないかも知れない。しかしながら、これは趣味であり、自己満足を満たす範疇であるから、その都度心が折れても、くよくよせずに自然から多くの事を学ぼうと思う。

ミドリシジミの写真

ミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1000(撮影日:2017.6.11)

オオミドリシジミの写真

オオミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 800(撮影日:2017.6.11)

ミズイロオナガシジミの写真

ミズイロオナガシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 2500(撮影日:2017.6.11)

アカシジミの写真

アカシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 2000(撮影日:2017.6.11)

ウラナミアカシジミの写真

ウラナミアカシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 2500(撮影日:2017.6.11)

ウラゴマダラシジミの写真

ウラゴマダラシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1250(撮影日:2017.6.11)

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ゼフィルス(2016)

2016-09-01 23:10:11 | チョウ/ゼフィルス

 ゼフィルス(Zephyrus)とは、ギリシャ神話の西風の神ゼフィロス(Zephyros)が語源で、同義語にゼファー、セフィーロ等があるように 「そよ風の精」の意を持っているが、昆虫のシジミチョウ科(Family Lycaenidae)ミドリシジミ族(Tribe Theclini)の呼称であり、日本国内には、以下に記す25種7亜種が生息している。(水色は未撮影種)

ミドリシジミ族(Tribe Theclini

  1. ウラキンシジミ属(Genus Ussuriana
    • ウラキンシジミ Ussuriana stygiana (Butler,1881)
  2. ウラゴマダラシジミ属(Genus Artopoetes
    • ウラゴマダラシジミ Artopoetes pryeri (Murray, 1873)
  3. チョウセンアカシジミ属(Genus Coreana
    • チョウセンアカシジミ Coreana raphaelis(Oberthur, 1880)
  4. ムモンアカシジミ属(Genus Shirozua
    • ムモンアカシジミ Shirozua jonasi (Janson,1877)
  5. オナガシジミ属(Genus Araragi
    • オナガシジミ Araragi enthea enthea (Janson, 1877)
  6. ミズイロオナガシジミ属(Genus Antigius)
    • ミズイロオナガシジミ Antigius attilia attilia (Bremer, 1861)
    • ミズイロオナガシジミ対馬亜種 Antigius attilia attilia yamanakashoji Fujioka, 1993
    • ウスイロオナガシジミ Antigius butleri butleri (Fenton, [1882])
    • ウスイロオナガシジミ鹿児島県栗野岳亜種 Antigius butleri kurinodakensis Fujioka, 1975
  7. ウラナミアカシジミ属(Genus Japonica
    • アカシジミ Japonica lutea lutea(Hewitson, [1865])
    • キタアカシジミ Japonica onoi Murayama, 1953
    • キタアカシジミ北海道・東北地方亜種 Japonica onoi onoi Murayama, 1953
    • キタアカシジミ冠高原亜種 Japonica onoi mizobei Saigusa, 1993
    • ウラナミアカシジミ Japonica saepestriata (Hewitson, [1865])
    • ウラナミアカシジミ周日本海亜種 Japonica saepestriata saepestriata (Hewitson, [1865])
    • ウラナミアカシジミ紀伊半島南部亜種 Japonica saepestriata gotohi Saigusa, 1993
  8. ウラミスジシジミ属(Genus Wagimo
    • ウラミスジシジミ Wagimo signatis (Butler, [1882])
  9. ウラクロシジミ属(Genus Iratsume
    • ウラクロシジミ Iratsume orsedice (Butler, [1882])
  10. ミドリシジミ属(Genus Neozephyrus)
    • ミドリシジミ Neozephyrus japonicus japonicus (Murray,1875)
  11. メスアカミドリシジミ属(Genus Chrysozephyrus
    • メスアカミドリシジミ Chrisozephyrus smaragdinus smaragdinus (Bremer, 1861)
    • アイノミドリシジミ Chrysozephyrus brillantinus brillantinus (Staudinger, 1887)
    • ヒサマツミドリシジミ Chrysozephyrus hisamatsusanus (Nagami et Ishiga, 1935)
  12. キリシマミドリシジミ属(Genus Thermozephyrus
    • キリシマミドリシジミ Thermozephyrus ataxus kirishimaensis(Okajima, 1922)
    • キリシマミドリシジミ 屋久島亜種 Thermozephyrus ataxus yakushimaensis(Yazaki, [1924])
  13. オオミドリシジミ属(Genus Favonius
    • ウラジロミドリシジミ Favonius saphirinus(Staudinger, 1887)
    • クロミドリシジミ Favonius yuasai Shirozu, 1947
    • オオミドリシジミ Favonius orientalis orientalis (Murray, 1875)
    • ジョウザンミドリシジミ Favonius taxila taxila(Bremer, 1861)
    • エゾミドリシジミ Favonius jezoensis jezoensis(Matsumura, 1915)
    • ハヤシミドリシジミ Favonius ultramarinus ultramarinus (Fixsen, 1887)
    • ヒロオビミドリシジミ Favonius cognatus latifasciatus Shirozu et Hayashi, 1959
  14. フジミドリシジミ属(Genus Sibataniozephyrus
    • フジミドリシジミ Sibataniozephyrus fujisanus fujisanus (Matsumura, 1910)

 ゼフィルスにおいては、上記25種7亜種の内、北海道と北東北等に生息する「キタアカシジミ」を除く24種を撮影し、 ブログに掲載し紹介しているが、「ヒサマツミドリシジミ」はオスが未撮影であり、その他においても美しい翅表が美しく撮影できていない種が多い。毎年この時期になると、 私自信の反省の意味で「ゼフィルス」についてまとめているので、今年も掲載したいと思う。
 本年も目標を掲げ、綿密な計画を立てて望んだが、ハードルが高い種では簡単に結果が出せないのが現状で、特に「ヒサマツミドリシジミ」のオスには、今年も出会うことができなかった。 その他の種についても生息地が遠方であったり、週末の天候の関係もあって、今年、まともに撮影できたのは「ウラジロミドリシジミ」だけであり、しかも不満足な結果として終わっている。 従って、本記事に掲載した写真は、すべて過去に撮影したもので、残念ながらこれ以上のものは今年撮影できなかったのである。
 ゼフィルスの撮影では、翅表が金緑色に輝くクリソゼフィルス属、青色が美しいファボニウス属では、翅表を撮らなければ意味がない。そのためには生態の知識がなければ ならないが、それに撮影に適した生息地の選定も重要になる。後は、その年の発生状況とスケジュール、そして天候と運である。来年は、まず未撮影である「キタアカシジミ」の撮影、そして、不満足な写真の種については、これまでの知見を活かして、誰が見ても「これは美しい」というような「最大限の美しさ」を残せるよう頑張りたいと思う。

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ウラキンシジミ

ウラキンシジミ

ウラゴマダラシジミ

ウラゴマダラシジミ

チョウセンアカシジミ

チョウセンアカシジミ

ムモンアカシジミ

ムモンアカシジミ

オナガシジミ

オナガシジミ

ミズイロオナガシジミ

ミズイロオナガシジミ

ウスイロオナガシジミ

ウスイロオナガシジミ

アカシジミ

アカシジミ

ウラナミアカシジミ

ウラナミアカシジミ

ウラミスジシジミ<

ウラミスジシジミ

ウラクロシジミ

ウラクロシジミ

ミドリシジミ

ミドリシジミ

メスアカミドリシジミ

メスアカミドリシジミ

アイノミドリシジミ

アイノミドリシジミ

ヒサマツミドリシジミ(メス)

ヒサマツミドリシジミ(メス)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ

クロミドリシジミ

クロミドリシジミ

オオミドリシジミ

オオミドリシジミ

ジョウザンミドリシジミ

ジョウザンミドリシジミ

エゾミドリシジミ

エゾミドリシジミ

ハヤシミドリシジミ

ハヤシミドリシジミ

ヒロオビミドリシジミ

ヒロオビミドリシジミ

フジミドリシジミ

フジミドリシジミ

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キリシマミドリシジミ

2016-07-25 23:14:41 | チョウ/ゼフィルス

 キリシマミドリシジミ Thermozephyrus ataxus (Westwood, [1851]) は、シジミチョウ科ミドリシジミ族キリシマミドリシジミ属(Thermozephyrus属)で以下に分類されるゼフィルスである。

  1. キリシマミドリシジミ 日本・朝鮮半島亜種
    Thermozephyrus ataxus kirishimaensis (Okajima, 1922)
  2. キリシマミドリシジミ 屋久島亜種
    Thermozephyrus ataxus yakushimaensis (Yazaki, [1924])

 キリシマミドリシジミは、1921年(大正10年)7月に鹿児島県霧島山で発見された個体が新種と認定されたため「霧島」の地名が和名に付けられた。(このチョウは霧島山での発見以前に、既に四日市の山内甚太郎氏によって菰野町の湯の山で採集されていた。)関東では神奈川県、東海では静岡県に、近畿地方では鈴鹿山脈、そして四国・九州・屋久島に分布し、標高300m~800mの照葉樹林帯に生息し、常緑広葉樹のブナ科の仲間であるアカガシを主な食樹としている。
 オスの翅表はエメラルドグリーンで、アイノミドリシジミやメスアカミドリシジミ等のクリソゼフィルスを凌ぐ輝きをもっている。その輝きの強さ、美しさは、日本のミドリシジミの仲間のなかでは一番であろう。また、雌雄で翅裏の斑紋が異なるのも、日本産ミドリシジミの仲間では本種のみである。

 キリシマミドリシジミを撮り続けて4年目。今回の記事は、今年撮影した写真とこれまでに撮影した写真を掲載し、実際に観察した結果をまとめた。

 2016年7月24日。早朝の5時から、いつものポイントで待機する。朝日が、谷の上部を照らしはじめ、それがゆっくりと降りてくる。谷底付近から生えるアカガシの大木の樹冠に朝日が当たると、谷の西側上部の木々からキリシマミドリシジミがアカガシに降りてきた。(7時半頃)ねぐらは、食樹とは違う場所のようである。次第に数が増え、この日は全部で6頭のオスを確認。かなりの高速でアカガシの梢を飛びまわる。ただし、日が当たらないと飛び出すことはない。また他のゼフィルスと違って、早朝に長竿で梢を叩いても、一切、下に降りてくることはない。
 この生息地における撮影ポイントは何ケ所かあり、一ケ所だけは、4~5mほど先の梢に止まるので、翅裏の写真は比較的高画質で撮影できるが、生憎、光線が逆光気味のトップライトであるため、開翅してもキリシマミドリシジミ特有の輝きが見られない。(写真1~3)この場所以外は、キリシマミドリシジミとの距離が20m以上もあるため、600mm(35mm換算で960mm)のレンズで狙うことになる。20m先で高速で飛び回るキリシマミドリシジミを目で追い、止まった所にレンズを向ける。超望遠は画角が狭いのでフレーム・インさせるまでに時間がかかる。その後、モニターを拡大表示させてマニュアルでのピント合わせ、ブレないようにレリーズでシャッターを切る。それでも、画面の一部に小さくしか写らない。仕方なくトリミングするが、画質は悪い。(写真4~9)

 この生息地では、オスが飛び回りテリトリーを見張る行動を見せるのは、7月中旬から8月上旬頃である。ゼフィルスでは、かなり遅い。羽化が遅いのであろうか?
 調べてみると、飼育では孵化から羽化までは一ヵ月半ほどである。孵化は、アカガシの冬芽が展開する少し前で、幼虫の生育は、アカガシの新芽の伸び具合と比例するから、どんなに遅くとも生息地において5月上旬までには孵化していると考えられる。それならば、6月中旬頃までには成虫が羽化していることになる。キリシマミドリシジミは、ヒサマツミドリシジミ同様に、成虫が飛び回る時期よりもかなり前に羽化し、羽化後は、一ヵ月以上も不活性な時期を過ごすのではないだろうか。
 この仮説が正しければ、撮影に新たな道が開ける。つまり、不活性時期において吸水現場を狙えば良いのである。朝日の当たる西側の湿った岩の斜面で吸水後に翅を開くというイメージが浮かぶ。この生息地における今の時期の撮影は、掲載した写真が限界であるため、来年は、仮説を信じて6月の梅雨の晴れ間にこの地を訪れ、北陸のヒサマツミドリシジミとの連戦に勝利したい。

追記:この生息地は採集者も多く、皆、竿の長い網を振り回しているが、10m以上もあるアカガシの大木の樹冠付近を高速で飛び回るため、捕獲率はかなり低い。(網を持った輩は、早々に諦めて帰って頂きたい。)

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/500秒 ISO 3200 -2/3V(2013.8.3 10:01)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/640秒 ISO 3200 -2/3V(2013.8.3 10:02)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/640秒 ISO 3200(2013.8.3 9:50)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 3200V(2016.7.24 7:46)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F12 1/250秒 ISO 3200 -1/3V(2013.7.27 7:16)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/40秒 ISO 3200 -2/3V(2013.7.27 10:24)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/640秒 ISO 200(2013.8.3 7:51)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/400秒 ISO 3200(2013.8.3 7:54)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/800秒 ISO 2000(2016.8.3 7:49)

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ウラジロミドリシジミ

2016-07-19 22:24:12 | チョウ/ゼフィルス

 ウラジロミドリシジミ Favonius saphirinus saphirinus (Staudinger, 1887) は、シジミチョウ科オオミドリシジミ属(Favonius属)のゼフィルスで、北海道、本州、四国、九州に分布し、東日本ではカシワを主に、西日本ではナラガシワを食樹としている。生息地は極めて局所的で、更には開発等によるカシワ林の消失や乱獲により各地で絶滅が危惧されており、多くの自治体のRDBに絶滅危惧Ⅰ類として記載されている。
 オスの翅表は光沢ある緑色で、見る方向によっては学名(saphirinus)にあるように濃青色(サファイア・ブルー)を呈する。一方、メスの翅表は暗い褐色で地味である。翅裏の地色は、雌雄ともに銀白色で数本の暗色条があるが、オスでは弱いか消失する個体もいる。翅裏の銀白色と翅形が丸みを帯びてることが、他のミドリシジミ類と異なり、本種の特徴となっている。また、前翅長は14~20mmとミドリシジミ類としては小型で、特にオスは小さく、春型のルリシジミほどの大きさの個体もいる。
 活動時間は夕方で、オスはメスを探すために食樹の樹冠付近を飛ぶが、テリトリーを見張る行動や卍飛翔を繰り広げることはほとんどない。

 ウラジロミドリシジミは、長野県にて自力で生息場所を見つけて撮影してきたが、「サファイア・ブルーの全開翅」を撮るという課題が残っている。今年も長野県を訪れたが、1回のみであり、しかも早朝から気温が高くてカシワの樹冠から降りず、全く撮影することができなかった。そこで知人にお願いをして群馬県内の生息地を案内していただいた。
 群馬県内では、かつて榛名山に多産していたが、現在では開発と乱獲により絶滅したと言われている。案内いただいた場所は、そのような心配はないと思われる環境条件である。また、 今回の群馬の生息地の標高は、長野県の生息地よりも、およそ400mほど高いため発生時期が2~3週間ほど遅いこともあり、転戦が可能となった。

 7月16日の初訪。前日は雨、当日も朝から霧雨が降る生憎の天候。気温は18℃だが蒸し暑く感じる。カシワの枝を刺激して飛び出しても、下草には降りてこない。元気よく飛び回って逆に高い所の葉に止まってしまう。この日は、翅裏を撮影するのが精一杯であった。
 18日、2回目の訪問。朝4時半からカシワの枝を刺激する。天候は曇りだが、やはり蒸し暑い。ウラジロミドリシジミは降りてこない。1時間半粘って、ようやく1頭のオスが地上2mの所に止まった。「もっと下に」と欲を出して刺激を与えると、上にいってしまい取り返しのつかない事態になると思い、このまま待機。チョウの方は、落ち着いた様子で、徐々に向きを変えた。空を見上げると、雲が切れ始め、朝日が見え始めていた。1時間が過ぎたころ、止まっているカシワの葉に木漏れ日が差し始めた。すると、予想通りに翅を開いた。
 目的は達成できたが、点数を付けるなら50点。翅の輝きは素晴らしいが、夏の太陽が強すぎて「サファイア・ブルー」とは違った色合いになってしまった。「サファイア・ブルーの全開翅」を求めて、また来年挑戦である。(写真は、長野と群馬の個体を掲載した。)

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1250 +1/3EV(撮影地:群馬県 2016.7.16)

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 3200 +1EV(撮影地:長野県 2015.7.5)

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 3200 +1/3EV(撮影地:群馬県 2016.7.16)

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F2.8 1/320秒 ISO 2000 -1EV(撮影地:長野県 2014.7.13)

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1250 -1/3EV(撮影地:群馬県 2016.7.18)

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200 -1/3V(撮影地:群馬県 2016.7.18)

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200 -1/3V(撮影地:群馬県 2016.7.18)

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:群馬県 2016.7.18)

ウラジロミドリシジミ

ウラジロミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +2/3EV(撮影地:長野県 2015.7.5)

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幻の蝶

2016-07-05 22:35:23 | チョウ/ゼフィルス

 これまで、そこそこの種数の昆虫を撮影してきたが、絶滅危惧種であっても生息地に行けば撮影ができた。知人から生息地をご教示いただいて楽に撮影に至った種もあるが、多くは自力で生息地を探してきた。一番苦労したのは、オオキトンボである。
 自宅から比較的近距離である栃木県の生息地に4年間で6回通ったが、どうやら絶滅した模様。ならば多産地である兵庫県に行くしかない。とは言っても、どこに行けばよいか分からない。 まずは、生息環境を学び、兵庫県内にある数千という池を1つ1つ航空写真で調べる。ターゲットにした池に行ってみるが見つからない。今度は、生態と活動時間等を調べ、再度行ってみる。 この繰り返しで、2年の間に往復1,100kmを4回通ってようやく撮れた。(参照:オオキトンボ

 現在、オオキトンボよりも撮影に苦労している昆虫がいる。ヒサマツミドリシジミである。確実な生息場所なのに撮ることができないのである。 目的は、図鑑写真、そして生態写真を撮ること。兵庫県北部の有名な多産地に行けば高確率で撮影可能だが、距離もある上に採集者も多いので、北陸の生息場所に何度となく訪れた。メスは、吸水している様子と開翅の写真を昨年の9月に3泊4日の4日目にようやく撮影できたが、(参照:ヒサマツミドリシジミ(メスの吸水行動))、オスは、未だに撮影どころかその姿さえ確認できていないのである。
 今年の6月18日には、私は生息地Bにおいて成果ゼロであったにも関わらず、同日、知人は生息地Aにおいてオスの吸水と開翅の観察をしている。それならばと、生息地Aに7月2日に行ってみたのだが、6時間以上も張り込んで1頭も確認できなかった。15時半からゼフィルスがテリトリーを見張りはじめ、2頭が卍飛翔を行った。種の同定ができなかったのが少々心残りである(エゾミドリシジミも可能性が大である)が、いずれにせよ、私にとってヒサマツミドリシジミは、依然として幻の蝶なのである。

  • 2015年6月27日~28日 生息地A地区 成果なし
  • 2015年7月04日 生息地A地区 成果なし
  • 2015年7月10日 生息地A地区及びB地区 成果なし
  • 2015年9月20日~23日 生息地A地区 メスの吸水行動の撮影
  • 2016年5月28日 生息地A地区及びB地区 成果なし
  • 2016年6月18日 生息地B地区 成果なし
  • 2016年7月02日 生息地A地区 成果なし

 ヒサマツミドリシジミの生息場所は分かっている。そして生態に関する知識も得た。ヒサマツミドリシジミは、5月の下旬には羽化するが、その後一ヵ月ほどは、オスはテリトリーを見張る行動を一切せず、天候のよい日は雌雄ともに吸水するが、それ以外はほとんど飛ぶことなくじっとしている。7月になってから、オスはテリトリーを見張る行動を行い、メスとの交尾に至る。オスは、交尾後に死んでしまうが、メスは夏眠をし、9月に再び活動を開始して産卵をするのである。また、他地域のヒサマツミドリシジミは、羽化後は、生育した場所を離れて山頂付近に移動するが、生息地B地区では、生育場所に留まって一生を終えるのである。(参照:ヒサマツミドリシジミの発生時期に関する考察
 しかしながら、北陸においても地域特性があろう。活動時刻にも差があるかもしれない。生息地A地区における生態は、知人ともに自ら調べるしかない。ただし、時期的に梅雨と重なり、 特に北陸は雨の日が多いから、週末しか動けない私には難儀である。

 日本国内のゼフィルスは25種で、未撮影種は、キタアカシジミとヒサマツミドリシジミであり、まずはヒサマツミドリシジミを収めたい。 証拠程度の写真ではダメで、誰もが、「これぞヒサマツミドリシジミ!」というオスが開翅した美しい図鑑写真とテリトリーを見張る生態写真を撮りたい。北陸の生息地において撮影するには、ポイントにて羽化後の不活性時期に吸水にくるタイミングを狙うのが一番良いという結論に至った。来年は、これまでの経験と知識を活かして、何としても美しい姿を収めたいと思う。その後に、行動を観察してテリトリーを見張る生態写真という順である。
以下に、北陸における生息環境の写真のみを掲載する。渓谷の断崖に群生するウラジロガシを食樹としている。

 (その後、5年経過した2021年6月に北陸の生息地にてオスの撮影に成功した。投稿記事はこちら→ヒサマツミドリシジミ

 今期、ヒロオビミドリシジミのリベンジを逃したが、まだウラジロミドリシジミとアイノミドリシジミ、そしてキリシマミドリシジミのリベンジが残っているので、天候が良いことを祈りながら気合を入れて望んでいきたいと思う。

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒサマツミドリシジミの生息地

ヒサマツミドリシジミの生息地A

ヒサマツミドリシジミの生息地

ヒサマツミドリシジミの生息地B

ヒサマツミドリシジミの生息地

ヒサマツミドリシジミの吸水ポイント(生息地A)

ヒサマツミドリシジミの生息地

ヒサマツミドリシジミの生息地A

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ウラクロシジミ(メス開翅)

2016-07-03 20:06:46 | チョウ/ゼフィルス

 ウラクロシジミのメスの開翅を撮ることができた。ウラクロシジミ Iratsume orsedice orsedice (Butler, [1882]) のオスは、先般の記事で紹介したように、今年は6月12日に撮影しているが、その2週間後に生息場所に訪れてみると、日中からウラクロシジミのメスが食樹であるマンサクの周囲を飛び回り、止まると翅を開くという行動をとっていた。また、撮影はできなかったが、産卵もしていた。オスの活動時刻は、早くても14時半以降で、16時頃から日没前が一番活動するが、メスはほとんど飛ぶことはない。しかしながら、産卵期には、メスは日中から飛び回って産卵をするようである。この日、夕方まで観察したが、オスは1頭も見られず、発生は終了したようであった。
 ウラクロシジミのオスの翅表は、真珠の輝きであるが、メスは濃灰色の地に薄い青が少しだけ乗っている。ルリシジミのメスに似ているが、翅裏の違いですぐに分かる。来年は、オスの 開翅をもっと美しく完璧に撮れるよう努力したい思う。

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ウラクロシジミ(メス開翅)

ウラクロシジミ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F8.0 1/800秒 ISO 3200 +1/3EV(2016.6.26 11:25)

ウラクロシジミ(メス開翅)

ウラクロシジミ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/1000秒 ISO 2000 +1/3EV(2016.6.26 11:27)

ウラクロシジミ(メス)

ウラクロシジミ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/640秒 ISO 3200 +1/3EV(2016.6.26 12:06)

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.

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ジョウザンミドリシジミ

2016-06-21 21:56:16 | チョウ/ゼフィルス

 ジョウザンミドリシジミ Favonius taxila (Bremer,1861) は、オオミドリシジミ属(Favonius属)の山地性ゼフィルスで、和名のジョウザン(定山)は、北海道の名勝地定山渓で最初に発見されたことにちなむ。北海道と本州に分布し、北海道では低地の、本州では山地のブナ科のミズナラやコナラの林に生息している。環境省RDBに記載はないが、東京都および埼玉県のRDBでは絶滅危惧Ⅰ類に選定され、茨城県のRDBでは、準絶滅危惧種として選定している。
 全国的に見れば、ジョウザンミドリシジミが多産する地域は多く、何だジョウザンか、と見飽きるほどである。地域によっては、早朝6時半頃から活動を始め、かなり低い位置(下草)に止まってテリトリーを見張り翅を開く。また、小雨程度でも同様の活動をするので、山地性ゼフィルスの中では撮影が容易だ。これから山地性ゼフィルスを撮ろうとする方には、良い被写体になるだろう。
 オオミドリシジミ属の翅色は青色が特徴で、このジョウザンミドリシジミは、典型的な「青色」と言っていいだろう。ただし、光線や見る角度によっては、鱗粉の微細構造による構造色で金緑色に輝いて見えることもある。この記事では。過去に撮影したジョウザンミドリシジミの翅色の違いを集めてみた。

注釈:本記事は、過去にて撮影し個別に公開していた写真を、時節柄の話題として提供するために再現像し編纂したものです。

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ジョウザンミドリシジミ

ジョウザンミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F10 1/250秒 ISO 2500(2012.07.15)

ジョウザンミドリシジミ

ジョウザンミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F4.5 1/250秒 ISO 200(2013.07.13)

ジョウザンミドリシジミ

ジョウザンミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F10 1/250秒 ISO 500 -1EV(2013.07.14)

ジョウザンミドリシジミ

ジョウザンミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F8.0 1/1000秒 ISO 1000 -2EV(2014.7.6)

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ウラクロシジミ(2016)

2016-06-13 20:58:13 | チョウ/ゼフィルス

 ウラクロシジミ Iratsume orsedice orsedice (Butler, [1882]) は、シジミチョウ科ミドリシジミ族ウラクロシジミ属のゼフィルス。北海道の南部の一部、本州、四国、九州に分布し、食樹であるマンサク科のマンサク、マルバマンサクの生える山間部の渓流沿いに主に生息している。オスの翅表は、真珠のような輝きを持っている。
 環境省RDBに記載はないが、大阪府のRDBでは絶滅危惧Ⅱ類に、宮崎県、大分県、高知県、山口県、埼玉県のRDBで準絶滅危惧種に選定されている。

 ウラクロシジミの真珠のような翅表を撮るために、毎年、東京都檜原村の生息地を訪れているが、なかなか綺麗に撮れない。 理由は1つ。生息場所は渓谷であり、食樹は渓谷沿いに生えているため、ウラクロシジミに近づくことができないからである。
 早朝ならば、下草に降りていて朝日を浴びて開翅をするかもしれないと思い、6月11日は、夜明け前から午前9時まで待機したが、下草にはおらず、また近辺を飛ぶ姿もなかった。以前、同地区において9時~夕方まで待機した時に15時頃まで飛ぶ姿を確認できなかったことから、翌12日は14時から待機し、この生息地域で唯一、目線の高さ、もしくはそれ以下で撮ることができる場所で撮影に臨んだ。
 天候はうす曇りで時々日が差す程度であったため、15時前から活動が見られるかと思ったが、この日は15時半を過ぎてからであった。また、今年は昆虫の発生が一週間から10日ほど早く、ウラクロシジミにおいても発生時期終盤で、個体数もかなり少ない状況であった。

 ここで、これまでの観察結果をまとめておくと以下のようになる。
 地域特性もあると思うが、ウラクロシジミの活動時間は、夕方のみで早朝を含む他の時間帯には、一切活動しない。その日の気象条件にもよるが、15時~16時頃から活動を始める、 飛翔するのは、ほとんどがオスで、活動開始後に食樹に限らず開けた場所の葉上に止まり開翅するが、テリトリーを見張る行動ではない。30分もすると葉などに止まることなく飛び回り、 メスを探す。飛翔しながらオス同士が近づいても卍飛翔は一瞬だけで、すぐに分かれる。自分のテリトリーは持っていないようである。

 今回も開翅写真は撮影できたが、2014年の写真を超えるものは撮ることができなかった。ウラクロシジミまでの距離はおよそ10m。その先の葉に止まる10円ほどのウラクロシジミ。Tokinaの300mmに2倍のKenko TELEPLUS 2Xを付けて撮影。(35mm換算で960mm)ライブ・ビューで拡大表示させて、マニュアルでピントを合わせ、レリーズでシャッターを切った。この場所では、これが限界のようである。 今後は、撮影場所を見直し、更に行動パターンを学ぶことが必要であろう。
 本記事では、今回撮影した写真及び過去に撮影したものも含めた掲載した。また、1枚目以外はトリミングをした。

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 3200(2012.06.30)

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 160秒 ISO 3200 +2/3EV(2016.06.12)

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/250秒 ISO 3200 +2/3EV(2016.06.12)

ウラクロシジミの写真

ウラクロシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 3200 -1 1/3EV(2014.06.15)

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ヒサマツミドリシジミの発生時期に関する考察

2015-10-01 18:26:12 | チョウ/ゼフィルス

 ヒサマツミドリシジミの飼育を4月と5月に試み、卵から蛹までの様子を富山県在住の 中 毅士 氏とともに観察した。 その結果から、自然界での発生時期に関して考察したい。

 ヒサマツミドリシジミ(Chrysozephyrus hisamatsusanus)は、一般的には6月下旬頃から7月上旬頃に見られるが、 ほとんどが発生地ではなく、山の尾根や山頂等である。ヒサマツミドリシジミは、移動性が強く、発生地から離れた場所で生活するのである。(一説には、発生地は渓谷の 切り立った崖のために風が強く、また飛翔能力が弱いために吹き上げられてしまう、とも言われているが定かではない。)
 オスは7月中には姿を消すが、メスは夏眠をすると考えられており、秋口になると発生地に戻り、9月下旬頃から10月上旬頃にかけて、 食樹であるウラジロガシの冬芽に産卵する。オスが生活する移動先において、メスを目撃することはないと言われている。
 メスは、食樹に朝陽が当たり、渓谷の河原にも朝陽が当たると舞い降りて行き、石の上等に止まって吸水を始める。 この行動は、2015年9月23日に、現地にて実際に観察し「ヒサマツミドリシジミ(メスの吸水行動)」で報告した。吸水後は、ウラジロガシに真っ直ぐに飛んで戻る。午前9時頃までは、 食樹から降りてきては吸水を行うが、9時を過ぎると少なくなり、その後産卵行動に移ると思われる。
 卵を産み付ける場所は、20m以上に達するウラジロガシの樹冠部で、樹上の最先端の梢よりは一段下がった梢である。 また、70%が梢の先端に産み付けるのではなく、先端部より3~4枚下方の葉腋の冬芽の基部に生み付けている。(これは、2015年3月24にウラジロガシから採卵した際に観察した。) 卵は直径が1mmに満たず、このまま卵で越冬する。

ヒサマツミドリシジミの卵(撮影:中 毅士 氏 2015.2.15)

孵化後の殻(2015.4.1)

 有効積算温度は不明だが、ヒサマツミドリシジミの1齢幼虫は、ウラジロガシの冬芽が展開する前に孵化する。 飼育では4月1日であったが、生息地においても4月8日時点では孵化していたようである。
 孵化した1齢幼虫は冬芽に穴を空けて中に潜り込む。理由は不明だが、冬芽の中は、小さな幼虫が外敵から身を守るのに最適な環境であると考えられる。 この行動は、他のミドリシジミ族でも見られる。
 冬芽の中で若葉をほとんどを食べつくし、脱皮をして、他の新芽が展開する頃に外に出てくる。

ウラジロガシの冬芽に潜る(撮影:中 毅士 氏 2015.4.17)

ヒサマツミドリシジミの幼虫(2齢 2015.4.7)

ヒサマツミドリシジミの幼虫(3齢 2015.4.17)

 巣は作らず、若葉を食べながら早いスピードで成長する。3齢、終齢ともに若葉と同じ保護色をしている。

ヒサマツミドリシジミの幼虫(4齢 2015.4.17)

 孵化後、およそ一ヶ月で蛹化するが、蛹化時は、ほとんどが枝から地上の降り、落ち葉(枯葉)の裏返った表側で蛹化し、 一部は、下に降りずに枝で蛹化する。前蛹期間は2日ほどで、前蛹も枯葉と同様の色をしている。(写真は、撮影のために裏返した。)

ヒサマツミドリシジミの前蛹(2015.4.26)

ヒサマツミドリシジミの前蛹(2015.4.26)

ヒサマツミドリシジミの蛹(2015.4.26)

 蛹は、段々と黒ずんでいき、10日から2週間で羽化する。飼育では、5月上旬頃に羽化すると思われたが、管理が上手くいかず、 死なせてしまった。蛹の期間は、直射日光が当たらず、ある程度の湿度がなければ、乾燥して死んでしまうようである。
 孵化の時期や成長速度、羽化までの日数等は、温度と関係しているが、飼育では、孵化から羽化までの日数は45日であった。

ヒサマツミドリシジミの蛹(撮影:中 毅士 氏 2015.5.25)

羽化したヒサマツミドリシジミのオス(撮影:中 毅士 氏 2015.5.25)

羽化したヒサマツミドリシジミのオス(撮影:中 毅士 氏 2015.5.25)

生息場所に放蝶したヒサマツミドリシジミ(撮影:中 毅士 氏 2015.6.2)

 自然界においてヒサマツミドリシジミが見られると言われる6月下旬頃から7月上旬頃は、発生地からの移動後であるから、羽化時期はそれよりも 前であることは間違いない。飼育では、5月上旬から下旬にかけて羽化していた。自然界よりも飼育の温度が高く、成長速度が速かったことが理由として挙げられるが、 ウラジロガシの若葉の展開や成長に合わせてヒサマツミドリシジミの幼虫も生育していることを考えると、自然界においては、飼育下よりも若干遅い程度の時期、つまり、 5月中旬~6月上旬には羽化しているのではないかと考えられる。
 羽化した成虫は、一ヶ月近く発生木に留まっているのか、あるいは徐々に場所を変えながら移動するのかは不明であるが、 観察地である北陸では、6月下旬頃から7月上旬頃には、発生木で成虫を確認することはできなかった。また、当地では移動先も不明である。
 これらのことから下記の1つの仮説を立て、来年、生息地において調査をしたいと思う。

「ヒサマツミドリシジミは、成虫が目撃される6月下旬頃から7月上旬頃よりも、かなり早い時期に羽化している。」

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ゼフィルス(2015)

2015-09-27 10:02:42 | チョウ/ゼフィルス

 ゼフィルス(Zephyrus)とは、ギリシャ神話の西風の神ゼフィロス(Zephyros)が語源で、同義語にゼファー、セフィーロ等があるように「そよ風の精」の意を持っているが、昆虫のシジミチョウ科ミドリシジミ族の呼称である。
 ミドリシジミ族は、分類学上、現在では Theclini(テクリニ)族と呼んでいるが、第二次世界大戦前までは、Zephyrus(ゼフィルス)族と言われていたため、また、学名に、zephyrus が今でも使われている種もあるため、愛好家の間で一群をゼフィルスと呼んでいる。
 ゼフィルスは、現在、世界に約120種余りが知られており、その90%以上は東アジアの温帯域の森林に生息している。日本には、25種類3亜種が生息しており、種類によっては「飛ぶ宝石」と言われるほど美しい。しかしながら、生息地は限られ、発生期間も短く、その姿を見ることすら難しい種も多く、美しさと希少性から、採集者の的になっている。地域によっては、条例で採集を禁止し、生息環境全体を保全している自治体もある。

 ゼフィルスは、昆虫写真を趣味や仕事にする者にとっても、美しさと撮影難易度の高さから心惹かれる魅力的な存在である。生息地を探して何度も通い、十分なロケハンと生態を理解することが基本だが、その年の気象条件や天候にも左右され、満足に撮影できないことの方が多い。次第にゼフィルス・フリークとなり、毎年その姿を追い求めてしまうのである。
 本年は、目標であった2種類の初撮影と5種類の撮り直しを達成し、全25種類3亜種のうち24種類のゼフィルスを写真に撮ることができた。ブログ「ホタルの独り言」で毎年この時期にまとめてきたが、本年も今シーズンの区切りとして、以下に鱗翅目シジミチョウ科ミドリシジミ族(ゼフィルス)の分類と、これまで撮影した写真をまとめた。当然、証拠程度の写真もある。そうした種については、未撮影の1種とともに来年の課題としたい。

ミドリシジミ族(Theclini)

    ウラキンシジミ属(Ussuriana)
  • ウラキンシジミ(Ussuriana stygiana
    ウラゴマダラシジミ属(Artopoetes)
  • ウラゴマダラシジミ(Artopoetes pryeri
    チョウセンアカシジミ属(Coreana)
  • チョウセンアカシジミ(Coreana raphaelis
    ムモンアカシジミ属(Shirozua)
  • ムモンアカシジミ(Shirozua jonasi
    オナガシジミ属(Araragi)
  • オナガシジミ(Araragi enthea
  • ウスイロオナガシジミ(Antigius butleri
  • ウスイロオナガシジミ九州亜種(Antigius butleri kurinodakensis)絶滅危惧ⅠA類(CR)
    ミズイロオナガシジミ属(Antigius )
  • ミズイロオナガシジミ(Antigius attilia attilia
    アカシジミ属(Japonica)
  • アカシジミ(Japonica lutea lutea
  • ウラナミアカシジミ(Japonica saepestriata saepestriata
  • キタアカシジミ(Japonica onoi
  • キタアカシジミ北日本亜種(Japonica onoi onoi)絶滅危惧Ⅱ類(VU)
  • キタアカシジミ冠高原亜種(Japonica onoi mizobei)絶滅危惧ⅠA類(CR)
    ウラミスジシジミ属(Wagimo)
  • ウラミスジシジミ(Wagimo signatis
    ウラクロシジミ属(Iratsume)
  • ウラクロシジミ(Iratsume orsedice
    ミドリシジミ属(Neozephyrus)
  • ミドリシジミ(Neozephyrus japonicus japonicus
    メスアカミドリシジミ属(Chrysozephyrus)
  • アイノミドリシジミ(Chrysozephyrus brillantinus brillantinus
  • メスアカミドリシジミ(Chrisozephyrus smaragdinus smaragdinus
  • ヒサマツミドリシジミ(Chrysozephyrus hisamatsusanus
    キリシマミドリシジミ属(Thermozephyrus)
  • キリシマミドリシジミ(Thermozephyrus ataxus
    オオミドリシジミ属(Favonius Sibatani & Ito, 1942)
  • クロミドリシジミ(Favonius yuasai
  • オオミドリシジミ(Favonius orientalis orientalis
  • ジョウザンミドリシジミ(Favonius taxila taxila
  • エゾミドリシジミ(Favonius jezoensis jezoensis
  • ウラジロミドリシジミ(Favonius saphirinus
  • ハヤシミドリシジミ(Favonius ultramarinus ultramarinus
  • ヒロオビミドリシジミ(Favonius latifasciatus
    フジミドリシジミ属(Sibataniozephyrus Inomata, 1986)
  • フジミドリシジミ(Sibataniozephyrus fujisanus fujisanus

ウラキンシジミ
(2014.8.3)

ウラゴマダラシジミ
(2012.06.23)

チョウセンアカシジミ
(2012.06.30)

ムモンアカシジミ
(2012.08.25)

オナガシジミ
(2011.7.16)

ウスイロオナガシジミ
(2015.6.29)

ミズイロオナガシジミ
(2012.06.17)

アカシジミ
(2012.06.14)

ウラナミアカシジミ
(2013.06.02)

ウラミスジシジミ
(2015.6.29)

ウラクロシジミ
(2014.6.15)

ミドリシジミ
(2012.07.01)

アイノミドリシジミ
(2013.07.21)

メスアカミドリシジミ
(2015.6.7)

ヒサマツミドリシジミ(メス)
(2015.9.23)

キリシマミドリシジミ
(2013.08.03)

クロミドリシジミ
(2012.06.23)

オオミドリシジミ
(2015.06.13)

ジョウザンミドリシジミ
(2013.07.13)

エゾミドリシジミ
(2014.7.6)

ウラジロミドリシジミ
(2015.7.5)

ハヤシミドリシジミ
(2013.06.30)

ヒロオビミドリシジミ
(2015.6.6)

フジミドリシジミ
(2015.7.12)

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ヒサマツミドリシジミ(メスの吸水行動)

2015-09-24 19:36:46 | チョウ/ゼフィルス

 ヒサマツミドリシジミ Chrysozephyrus hisamatsusanus hisamatsusanus (Nagami et Ishiga,1935)は、シジミチョウ科ミドリシジミ族(通称ゼフィルス)で、メスアカミドリシジミ属のチョウである。
 オスの翅表は金属様黄緑色で、たいへん美しい。メスの翅表は黒褐色で、前翅基半に紫色斑と中央部に小さい橙色斑がある。翅裏の斑紋に著しい特徴があり、後翅裏面白帯の後端が他のゼフィルスはW字状であるのに対し、本種は、後翅肛角の赤斑で1度折り返しV字状となっている。
 日本の特産種で、本州(東限は、太平洋側では神奈川県足柄上郡、日本海側では新潟県西頸城郡)、および四国、九州に分布するが、生息地域や場所は、極めて局所的である。環境省RDBに記載はないが、鹿児島県、熊本県で絶滅危惧Ⅰ類に、宮崎県、高知県、大阪府で絶滅危惧Ⅱ類に選定されている。富山県のカテゴリーでは、「情報なし」に選定されている。
 和名は本種が最初に発見された鳥取県の久松山(きゅうしょうざん)を読み替えて付された。ただし現在、久松山には生息していない。
 ヒサマツミドリシジミは、1970年に生態が解明されるまでは、「謎の蝶」「幻の蝶」「日本産最稀種」と呼ばれ、日本鱗翅学会が生態解明に懸賞金をかけたこともあったほどである。食樹は、尾根沿いや渓流沿い等の温暖湿潤な環境に生育するブナ科コナラ属のウラジロガシやアカガシ等であるが、羽化した成虫は食樹からかなり離れた場所(山頂など)に移動して生活するために、食樹がなかなか判明せず、生態の解明を困難にしたのである。食樹がウラジロガシと判明してからは、各地で産地が幾つか見つかり「幻の蝶」ではなくなったが、現在においても、成虫の移動先等、まだ謎が多いチョウである。
 成虫は、5月下旬頃に羽化し、オスは午後の時間、他のゼフィルス同様に葉先でテリトリーを見張る行動を行い、テリトリーに侵入してきたオスと盛んに卍飛翔を繰り返す。そのため、寿命は短いと思われるが、メスは秋まで生き延び、ウラジロガシの冬芽が形成された頃に、再び発生地に戻って産卵する。

 ヒサマツミドリシジミを撮影するべく、昭和53年に発見されたと言われる北陸に、この夏、3週連続で訪れ4日をかけて探蝶したが見つからず、無念の遠征で終わっている。そこで今回、メスの吸水と産卵の様子を撮ろうと現地を再訪した。
 当初、10月10日頃を計画していたが、9月12日に知人(中 毅士 氏)からメールがあり、ヒサマツミドリシジミのメスを撮影したとのこと。添付の画像を確認すると、まさしくヒサマツミドリシジミのメスであった。急遽、予定を繰り上げ。このシルバー・ウィークに決行となった。

 9月20日、午前1時半に出発し5時半に北陸に入るが、天候は雨!ただ、夜明けとともに晴れ間が広がり、一安心。まずは、産卵ポイントの様子を伺うが、姿はない。雲が多く陽の光も弱い。仕方なく氷見市へ移動し、トンボ探索でこの日は終了。
 21日。知人に、早朝からいくつかの生息場所を案内していただき、待機するもヒサマツミドリシジミは見つからない。午後には、かなり曇ってきたため、しびれを切らし、来夏にオスの撮影を試みようと思う場所、およそ80km先のポイントに移動しロケハン。予定では、この日に帰るつもりであったが、いることが分かっていながら、見られない、撮れないでは悲しい。次の日に賭けようと決めて残留。
 22日。これまでで一番天気がよい。朝から気持ちの良い秋晴れである。期待しながら、早朝から吸水ポイントと思われる場所で待機するが、朝日が当たってきてもメスは現れない。産卵ポイントに移動して待機してもダメ。そこへ知人がやってきて、つい先ほど撮った写真があるとのこと。拝見すれば、何とヒサマツミドリシジミのメスが吸水し、開翅している写真。吸水は、朝の一定時間のみの行動であるため、今となってはもう遅い。どうして私の前には姿を現してくれないのだろうか?
 撮影されたという吸水場所をご案内頂き、その後、再び産卵ポイントで待機するが、一向にヒサマツミドリシジミは現れない。ウラギンシジミに阻まれてのことだろうか?悔しすぎる!このままでは帰れない・・・。

 23日、4日目。この日も快晴で、絶好の日和。気合を入れて、午前6時半から知人が撮影に成功したという吸水ポイントでカメラをセットして待機。気温は20℃。風は時折り強く吹くが、問題はなさそうだ。しばらくすると、知人もやってきて二人でその時を待つ。
 ここは標高200mほどで、対岸は切り立った岩崖になっており、所々にウラジロガシの群落がへばり付いている。このウラジロガシがヒサマツミドリシジミの産卵場所だ。

ヒサマツミドリシジミの生息環境

 7時過ぎ。対岸の岩崖にあるウラジロガシと川岸に朝陽が当たり始める。7時20分。1頭のシジミチョウが、ウラジロガシからヒラヒラと舞い降りてきた。水面ギリギリを飛びながら、崖の水際に近づくと、渓流などの水辺に棲む野鳥であるキセキレイ(Motacilla cinerea)が食べてしまった。キセキレイは、5分もするといなくなったが、食べられたシジミチョウの種類の特定はできなかった。
 7時27分。2頭目のシジミチョウが降りてきた。この個体は、水面から2mの高さを水平に飛び、広葉の上に止まって開翅。20m先であるが、600mmレンズで慎重にピントを合わせてモニターで見ると、ヒサマツミドリシジミであることが確認できた。この個体は、その後、飛び立ってウラジロガシに戻っていった。

ヒサマツミドリシジミ

ヒサマツミドリシジミ(メスの開翅)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/1000秒 ISO 3200 -1/3EV(2015.9.23 7:29)

 その後、数分おきに次々とヒサマツミドリシジミが降りてきて、川岸の石に止まって吸水するようになった。のべ15~16頭が飛んできたが、その内1頭を追いかけると、3m先の石の止まり吸水を始めた。しばらくすると移動して、今度は手の届くような目の前の石で吸水を始めた。翅裏白帯がV字状もよく分かる。まさしくヒサマツミドリシジミである。
 ヒサマツミドリシジミは、始め、石の頂部に止まり、徐々に水際まで歩いて移動し、吸水するという行動である。

ヒサマツミドリシジミ

ヒサマツミドリシジミ(メスの吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 250 -1/3EV(2015.9.23 7:51)

ヒサマツミドリシジミ

ヒサマツミドリシジミ(メスの吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 640 -1/3EV(2015.9.23 7:59)

ヒサマツミドリシジミ

ヒサマツミドリシジミ(メスの吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/1250秒 ISO 200 -1/3EV(2015.9.23 8:02)

 吸水が終われば、開翅するに違いない。この個体は、別の石に飛び移って、案の定、翅を開いた。翅は、多少擦れてはいるものの、尾状突起も健在だ。羽化時期の6月下旬から3カ月近く経っているとは思えない。一説には、「夏眠する」とも言われているが、定かではない。
 この時期に見られるのは、メスだけである。産卵のために生き延びてきたわけだが、産卵場所のウラジロガシの冬芽が確実に形成されるのを待っているためと考えられる。冬芽が形成される前に産卵すると、冬芽の形成過程で押し潰されてしまうからだと言われている。(参考文献1)
 午前9時頃になると、ウラジロガシから舞い降りる個体もいなくなり、吸水行動は、ほとんど見られなくなった。吸水行動が終了した個体は、真っ直ぐにウラジロガシに舞い戻り、10時頃~15時ころまで産卵行動を行うものと思われる。

ヒサマツミドリシジミ

ヒサマツミドリシジミ(メスの開翅)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 1600(2015.9.23 8:06)

ヒサマツミドリシジミ

ヒサマツミドリシジミ(メスの開翅)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 1250(2015.9.23 8:07)

 ヒサマツミドリシジミは、初見初撮影の種で、「鱗翅目」では 131種類目、全25種類のゼフィルスでは24種類目となる。

 今回、1泊2日の予定を大幅に変更して3泊4日の遠征。最終日に、ようやくヒサマツミドリシジミを写真に収めることができた。総走行距離は、1,260km。天候にも恵まれ、撮りたいという執念の結果であるが、中 毅士 氏のお力添えなしには、実現不可能であった。夏と秋、たいへんお世話になり、心から感謝を申し上げたい。
 また、今回観察し撮影した事象は、当地におけるヒサマツミドリシジミの生態を解明する上で重要な資料の1つとなるであろう。

 来夏は、オスの活動場所の探索とオスの美しい翅表を是非とも撮影したい。

参考文献
1:月刊 むし No.533 July 2015 P32.- p44 ヒサマツミドリシジミの謎を追って(1) / ヒサマツ・フリークの会

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.

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