ベラ科モチノウオ亜科にテンスモドキという魚がいる。テンスモドキは入手したことがなく写真もないのであるが、名前に「テンス」とあるため、テンスの仲間であるとわかりやすい。写真はない。申し訳ない。ただしテンスモドキはテンス属ではなく、テンスモドキ属という別属の魚である。テンスモドキ属は日本には1属1種が知られているだけの小さなグループであるが、種標準和名に「テンスモドキ」とついている魚は日本にもう2種が知られている。
まずはオビテンスモドキ。日本では神奈川県以南の太平洋岸、琉球列島、小笠原諸島に分布する普通種であるが基本的には熱帯性の種である。成魚は黒っぽい体で体側には多数の白い斑点があるのが特徴。小さい個体は背鰭前方の棘が長く伸びるので後述の種と見分けることができる。サンゴ礁やその周辺の砂地に多く見られる魚である。
こちらはオオヒレテンスモドキ。オビテンスモドキに比べて細い体が特徴。日本では伊豆半島、八丈島、琉球列島、小笠原諸島に生息する。生息地はサンゴ礁というよりも内湾のアマモ場や海藻のよく生えた場所を好む。幼魚は枯れ葉のような色彩をしており、背鰭の前方の棘はすこし伸びる程度。体側には褐色の途切れた線が走る。
この2種は以前は「テンスモドキ属」とされてきたが、現在はそれぞれが別の種として扱われている。オビテンスモドキ属と、オオヒレテンスモドキ属である。ちなみにテンスモドキが含まれていた属はこの旧「テンスモドキ属」ではなく、ホンテンスモドキ属とされているが、現在はテンスモドキが含まれる属がテンスモドキ属となっている。つまりオビテンスモドキはオビテンスモドキ属、オオヒレテンスモドキがオオヒレテンスモドキ属、テンスモドキがテンスモドキ属となっている。
確かにこの3種は外観はテンス属の魚類と似ている。しかし標本を観察した結果、たしかにテンスモドキ属の魚はテンス属に似ているところがある。属の標準和名になっているテンスモドキは見たことがないが、その近縁種は観察している。一方私はオビテンスモドキとオオヒレテンスモドキはテンス属やテンスモドキ属よりは、ほかのベラの仲間に近いと思っているのである。もっともこれは私が勝手に思っていたりすることなので、あまり本気にしないほうがいいかもしれない。