この2個体は同じ種類の魚なのだが、色彩が全く違う。
クギベラ雄
クギベラというベラ科の魚だ。上の緑色がきれいなのは雄、灰色と黒色の塗分けがきれいなのが雌で、色彩の違いは雌雄によるもの。もっとも、ベラの仲間は雌雄の色彩が大きく異なるものが多い。さらに雄の色彩をした雌もいるなど、魚の性というのは、なかなか複雑なものである。だから生殖腺をみないと雄なのか、あるいは雌なのかということは正確にはいえないこともある。ただ多くの場合便宜的に「雄」とか「雌」とかは色彩的なもので判断している。ここでもそうしたい。
クギベラ雄の吻
クギベラの特徴はなんといってもその口だ。口が細長く、サンゴや岩の隙間にひそむ大好きな甲殻類を啄むようにして食べる「海の鳥」である。そして英語でも「Bird wrasse」という。つまり「鳥ベラ」だ。小さな口ではあるが、上手く捕食する。そして小さな針で防波堤や磯で釣ることもできる。
クギベラの雌
雌の個体もまさしく、高知県の防波堤で釣れたものなのだ。分布域は千葉県から鹿児島県の太平洋岸、熊本県天草、屋久島、琉球列島、南大東島、尖閣諸島、小笠原諸島と、かなり広い範囲に生息する。本州から九州では幼魚が多いのだが、たまに成魚といっていいような大きさの個体が釣れることがある。海外ではインド洋のココスキーリング諸島から中央太平洋にまで生息する。広い分布域を持っていてもハワイ諸島には生息しない魚も多いのだが、クギベラはハワイ諸島にもすむ。インド洋にはほとんどいないのだが、本種とおなじクギベラ属のもう1種がインド洋や紅海にいる。
クギベラは、クギベラ属という独自の属に含まれている。クギベラ属の魚は、先ほど述べたように東インド‐太平洋域に広く分布しているクギベラと、南アフリカ東岸からアンダマン海のインド洋に生息する近縁種の2種が知られている。しかし、ニシキベラの仲間と近縁であると考えられている。
オトメベラ
ニシキベラの仲間は交雑個体が多く知られている。例のベラ・ブダイ図鑑にも6つの組み合わせが紹介されている(ただしニシキイトヒキベラ×リュウグウベラとされている個体は、ニシキベラ×リュウグウベラの誤記ではなかろうか)。このベラ・ブダイ図鑑には掲載されていないのだが、オーストラリアではオトメベラと、クギベラの交雑個体が知られている。このほかハワイ諸島では、ハワイ産のニシキベラ属であるサドルラスとの交雑個体と思われるものも知られている(GoogleでGomphosus varius hybridと検索すれば出てくる)。サンゴ礁の浅瀬を、胸鰭をパタパタさせながらおよぐさまはまさしくニシキベラの仲間そのものだろう。またクギベラの幼魚の色彩はなんとなく、ニシキベラ属のヤマブキベラと似ている。
飼育についての注意もニシキベラ同様。遊泳力が強く、成魚のペアを飼育するなら水槽は120cmくらいの大きい水槽が必要になる。ニシキベラ同様夜間は砂に潜らず、サンゴの隙間などで眠る。食性は動物食性が強く、小魚や軟体動物なども捕食するが小型の甲殻類には目がないので、それらとは一緒に飼育すべきではない。