魚のぶろぐ

2006/5/28~。現在復旧作業中です。ご容赦願います。 ぶろぐの写真はオリジナルです。無断転載はお断りします。

スジギンポ属2種

2016年05月25日 16時59分48秒 | 魚紹介

 

前回このぶろぐでご紹介したイワサキスズメダイを採集したのは礁湖の中というよりも沖海に面した潮だまりである。このような潮だまりは引き潮のときにのみできてその外側は深くなっている。採集はもちろん干潮の時に行うのであるが、潮が満ちてしまうと帰れなくなるおそれがあるので採集には十分な注意が必要な場所である。地元の人もよく釣りをされていて、アイゴやブダイなどの大物が釣れたりするよう。

潮だまりにはたくさんの藻類やミドリイシなど造礁サンゴの仲間がおり、その合間や藻の中に魚が潜んでいることが多い。潮だまりの中にある大きなライブロック風の岩の下にはスズメダイや小型ハゼの仲間(多くはナンヨウミドリハゼ)、ヘビギンポ類などがひそみ、生えている藻の中にはたくさんのイソギンポ類が生息している。多くはタネギンポやタマギンポであるが、ニセカエルウオなども見られる。

イワサキスズメダイを採集した場所の近くで網を入れてみると、こんなのが採集出来た。一度に3匹も網に入ったのだが、そのうち1匹は体側の模様からスジギンポ、と思われた。しかし帰ってから確認したところ、体側の斑紋がスジギンポといえたのはこの1匹だけで、もう1匹は別種であった。もう1匹は飛び出してしまった。

スジギンポによく似たケショウギンポという種である。

スジギンポの体側の模様

ケショウギンポの体側の模様

よく見るとこのように模様が大きく異なった2種であるが、自然下では本当によく似ている。見分け方としてはまず体側の斑紋。スジギンポでは体側に小さな暗色斑が密集して模様をつくるが、ケショウギンポではそうはならず、ふたつの小斑がひとつの斑紋を作っている。

スジギンポの下顎の模様

ケショウギンポの下顎の模様

魚類検索では触れられていないが、下顎腹面の模様も異なっている。下顎腹の模様はスジギンポでは灰色っぽいが、ケショウギンポでは橙色で縁どられている。ただしこの橙色の縁取りは不規則的らしいので検索図鑑には掲載されていないのだろうと思われる。また尾鰭の斑紋はスジギンポでは細かく多数あるのに対し、ケショウギンポでは少ないように見える。もっともこれが同定形質として使えるかどうかは?マークがつくが。

なおスジギンポとケショウギンポでは、ケショウギンポのほうが若干大きくなり、スジギンポは体長8cmほどなのに対し、ケショウギンポは10cmほどになるようだ。英名ではスジギンポはReef margin blenny と呼ばれ、確かに浅いリーフの縁のような場所にいた。一方ケショウギンポはTattoo-chin rockskipperということで、これは頭部腹面の模様をタトゥーに見立てたものだろうと思われる。blennyはギンポの仲間の総称で、イソギンポ科の魚ではないもの、たとえばバーナクルブレニー、ハンコックブレニー、セイルフィンブレニー(いずれもコケギンポ科)などにも使用されている英名である。一方rockskipperはイソギンポ科のうちとくに磯に住むカエルウオ族の魚につけられることが多いよう。カエルウオ、という標準和名があるがFrogfishという英語名は一般的にはカエルアンコウ類、一部のガマアンコウ類を指す。

 

スジギンポもケショウギンポも、どちらもスジギンポ属の魚である。この仲間は7種が日本に生息しているが、琉球列島ではおそらくイレズミスジギンポとホシギンポ以外の種は採集できるだろう。イレズミスジギンポは中央太平洋の熱帯域にすみ、日本では南鳥島にしかいないため採集できない。ホシギンポは沖縄島にもいるとされるが、この種は温帯性で新潟県から九州までの日本海沿岸、および神奈川県三浦半島以南の太平洋岸、まれに瀬戸内海で見られるが、熊本県の天草でも採集したことがある。ほかにアオモンギンポという種も採集・飼育したことがある。アオモンギンポは体側に円形の緑色斑があるので、この属のほかの種と区別できる。世界でこの属は25種ほどが知られており、日本近海、インドー太平洋の広い範囲に分布し、ほかの多くのインドー太平洋産カエルウオ族魚類が進出していない北米西海岸、北米東海岸(つまり西大西洋)、アフリカ西海岸(つまり東大西洋!)に分布するような種も知られている。なおスジギンポの分布は八丈島、駿河湾、和歌山県、高知県、屋久島、琉球列島、小笠原諸島。海外ではインドー中央太平洋(ただしハワイ諸島にはいない)。ケショウギンポはスジギンポよりやや分布域は狭いらしく、八丈島、長崎県、屋久島、硫黄島、琉球列島、小笠原諸島、台湾、マリアナ諸島、サモア諸島に分布しているようである。

残念ながら今回採集した2個体は弱って死んでしまった。原因は不明だが、ナメラハゼとヘビギンポが病気を持っていた可能性もあり、それがうつってしまったのかもしれない。採集は楽しいのだが、飼育できず死んでしまうのは悲しい。スジギンポやケショウギンポの飼育方法は不明であるが、同属のアオモンギンポはとても丈夫で数年間飼育できた。餌は藻類食魚用の配合飼料を中心に与えていて、コケは少ししか食べてくれない。運搬に注意するのと、飛び出し対策のためにフタをしっかりすれば飼育は難しくないと思われる

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イワサキスズメダイ | トップ | テンジクイサキ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

魚紹介」カテゴリの最新記事