「イシモチ」という名前の付く魚は基本的にスズキ目・テンジクダイ科、あるいは同ニベ科の魚であることが多い(もちろんタカサゴイシモチ科のような例外はあるが)。食べるのが好き、釣りが好きな人の間ではイシモチといえばニベ科の魚を指す。ニベ科の魚で標準和名に「イシモチ」とつくのは現在ではヒゲイシモチのみであるが、シログチは過去に「イシモチ」と呼ばれていたこともあり、そういうひとがイシモチ、といえば、ああ、ニベの仲間だな、と思えばよいだろう。シログチは船釣りの対象魚で、底曳網でもよく漁獲される。
今回ご紹介するマトイシモチはテンジクダイ科のほうのイシモチである。テンジクダイ科のなかのコミナトテンジクダイ亜科のなかのマンジュウイシモチ族・ツマグロイシモチ属に含まれる。詳細はテンジクダイ科の分類についての記事を参照してほしい。
ツマグロイシモチ属の魚類は日本に4種ほどいるが、本種は背鰭に目玉模様があることでほかの同属魚類と容易に区別できる。さらに臀鰭外縁が黒っぽいのも本種の特徴であるといえる(上の写真ではわかりにくいが)。陸にあげてしばらくすると灰色の地味な色彩になってしまうのだが、漁獲されて間もない時は金色の体と腹鰭や臀鰭の黄色が美しい。
この写真は漁獲されてすぐの個体。愛媛県宇和島沖の小型底曳網で漁獲された。先ほどの、絶命した個体ではわかりにくい臀鰭の様子もご覧の通り。水深70mくらいの場所を曳く小型底曳網で漁獲されたもので、同属であるテンジクダイや、スジイシモチ属のテッポウイシモチなども一緒に漁獲された。ネンブツダイは不思議なことに漁獲されなかった。ネンブツアイは沿岸の定置網や100mほどの場所を曳く底曳網にはたまにかかるのであるが。マトイシモチは水深50m以深の海域に多いようだが、定置網でも漁獲されることがある。
マトイシモチは全長12cmとやや大きくなるテンジクダイ科の魚で、食用にされる。テンジクダイ科の魚は日本で100種近くの種が分布しているが、その中で食用になるのはこのマトイシモチとテンジクダイくらいのものである。ネンブツダイなどほかの種は、ほかの魚に混ざって釣れたものが釣り人などにより消費されるくらいである。しかしながら、結構おいしい。
この科の魚はほとんどが口腔内で卵を保護することが知られている。本種も同様に口腔内で卵を保護するものと思われる。
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