いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

『パラサイト・ミドルの衝撃』 三神万里子

2005年12月22日 20時11分44秒 | 


パラサイト・ミドルの衝撃 サラリーマン、45歳の憂鬱

■日本の民間会社の組織のあり方が、ヒエラルキー型組織からネットワーク型組織(蜘蛛の巣型組織)に変わって行きますよ・行くべきですよ、という主張の本。 パラサイト・ミドルというのは、高度成長期に日本で特に量的にも発達したヒエラルキー型組織において、中間を占める層であり、普通の会社では40,50代の課長、部長クラス。本書では、虚無感を持ち事なかれ主義であると否定的に素描されている。彼らは大企業残留組と言いうる人たちで、優秀な人材から真っ先に辞めていくと本書でされている数波に渡るリストラを凌いだ。それは、「過渡期に転職や独立に耐える意識改革を起こす努力をしてこなかった45歳以上」の層と記述される。

■本書の要点はバブル崩壊後の日本型会社組織から飛び出した「優秀」な40歳以下の若年層がその後新たな組織形態(蜘蛛の巣型組織)をつくり、あるいは外資の手先として日本で立ち上げ、立ち腐れる日本型ヒエラルキー組織を凌駕した。現在では、アングロ・サクソン系の蜘蛛の巣型組織増殖こそが日本社会の構造変化の流れである。従って、ヒエラルキー型組織の中核である虚無感を持ち事なかれ主義のパラサイト・ミドルは意識改革を行い、蜘蛛の巣型組織の一員となりうるため「働き方の革命」をなすべきと勧める。この本は親切なのです。より資本が運動できるようにちゃんと人間がしろ!という命令のもと新時代での資本への仕え方を勧めるのです。

■さらに本書の点睛は、ヒエラルキー型組織から蜘蛛の巣型組織への移行のメカニズムを素描しようとしている点である。素描とは;ヒエラルキー型組織において年功序列で出世を待つ中高年がたまり、役職に就く年齢が上昇する。その待ちによって現役・最前線の能力が摩滅するので、虚無感を持ち事なかれ主義となる。一方、若手は現役・最前線でイケイケでやりたくて、稟議や承諾願いを突き上げる。しかし、パラサイト・ミドルは事なかれ主義。なので、優秀でイケイケドンドン仕事をしたい若手は辞める。行き先はイケイケドンドンができそうな外資やベンチャーである。そういう組織は蜘蛛の巣型組織である。蜘蛛の巣型組織はバブル崩壊以降繁殖しており、ヒエラルキー型組織と競合し、勝ち、 ヒエラルキー型組織にその無能さを悟らせている。したがって、ヒエラルキー型組織も自身が変わらなければ死滅するので、蜘蛛の巣型組織のマインドを注入しようとする。すると、蜘蛛の巣型組織との協合もする。ネットワーク化していく;って感じかな(相当勝手にまとめました)。

●移行メカニズムの例として、楽天・三木谷によるTBS買収の試みが挙げられるかもしれない。三木谷は上記のヒエラルキー型組織からの脱出組であり、のちベンチャーで成功。さらに、今回のTBS買収のように日本社会の構造変革に参画している。なのでむしろ、本書は楽天・三木谷のTBS買収の背景およびメカニズムの素描を知る、という観点で利用できる。

■この本も;
『希望格差社会』とかキーワードを創出して、新たに現代社会の像を浮かび上がらせることは、今の社会はどうなっていて、自分はどういう立ち居地にいるのかを認識したい人々を感嘆させる。所詮、現代社会がどうなっているかを厳密に認識、掌握することはできない。そういう状況で、いささかでも芸を用いて社会像を結ぶことは、文字通り、芸当である;
というべき本であるので、何か確かな命題を求めたり、統計がどうのこうのいうのは野暮である。この本は一般論で書いてあるがこのような素描が見つけられるのは日本社会のうちの大企業のそれも金融、銀行の業界が筆頭であろう。事実著者のインタビューによる情報はその方面が最多のようである。このヒエラルキー型組織から蜘蛛の巣型組織への移行という日本社会の構造改革素描が、金融業界からどう日本社会に広まるのであろうか?これは制度として広まる可能性がある。資本の力として。つまり資本の管理人である金融のプロフェッショナルは投資先に投資者としてその投資先の組織変革を迫る。資本には流儀の色が着いている。つまり、今後日本で、それこそアングロ・サクソン系の資本が活発に作動するのであれば、その資本により日本の組織は変わらざるを得ないだろう。その際は日本でも職がほしければ40歳過ぎてもプロフェッショナルであり続けなければならない。その指南は本書にあります。ネオリベ実践理論学入門といったところでせうか?





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