今の世界や日本の動きをみていると、人々はわざわざ破滅に向かって突き進んでいるように思えてならない。ドストエフスキーは『地下生活者の手記』(中村融訳)において「人間というものは自分自身の本当の利害はちゃんと承知していながら、それを後回しにして別な途へと、冒険へと、一か八かの道を進む」と書いている。中村菊男が『天皇制ファシズム論』で引用しており、日本が軍国主義に突き進んだのは、不合理な力を制御できなかったのが、根本的な原因だというのだ▼中村は、それ以外にもベルジャーエフの「歴史のうちにも、また合理的要素ばかりでなく、力強い非合理的要素がはたらいているのである。人間は、こうした歴史の非合理性に打ちのめされ、混沌に傷つけられ、宿命的な暴力に鞭うたれて、自分が次第に人間でないものにかわってゆく事実を、いやでも認めざるを得なくなる」(『現代における人間の運命』野口啓祐訳)という文章を紹介している▼中村は教条的な左翼の天皇制批判を展開するなかで、歴史を突き動かした現実を直視したのである。昨今の批判のための批判に民衆が迎合するのは、単に騒ぎたいだけなのである。それによって引き起こされる混乱を望んでいるのだ。これは世界にとっても、日本にとっても由々しき事態である。悪霊に取りつかれた豚が湖になだれ込んで溺死したように、合理的な判断ができなくなっているのではないか▼歯止めをかけようとして、ネット言論が必死に抵抗しても、情勢はどんどん悪化している。かつてのように軍国主義化することは考えられないとしても、このままでは、凶暴な敵である中共に対して、自ら武装解除し、かけがえのない自由を失いかねない。それで本当に良いのだろうか。
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