創作日記&作品集

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「わたしなりの枕草子」#300

2012-01-29 08:12:48 | 読書
【本文】
うれしきもの②
陸奥国紙(みちのくにがみ)、ただのも、よき得たる。はづかしき人の、歌の本末問ひたるに、ふとおぼえたる、われながらうれし。常におぼえたることも、また人の問ふに、清う忘れてやみぬるをりぞ多かる。
とみにて求むるもの見出でたる。
物合(ものあはせ)、何くれと挑むことに勝ちたる、いかでかうれしからざらむ。また、われはなど思ひてしたり顔なる人謀(はか)り得たる。女どちよりも、男はまさりてうれし。これが答(たふ=仕返し)は必ずせむと思ふらむと、常に心づかひせらるるもをかしきに、いとつれなく、何とも思ひたらぬさまにて、たゆめ過ぐすも、またをかし。にくき者のあしきめ見るも、罪や得らむと思ひながら、またうれし。
ものの折に衣打たせにやりて、いかならむと思ふに、きよらにて得たる。刺櫛(さしぐし)磨(す)らせたるに、をかしげなるもまたうれし。「また」もおほかるものを。
日頃、月頃しるきことありて、悩みわたるが、おこたりぬるもうれし。思ふ人の上は、わが身よりもまさりてうれし。
 御前に人々所もなくゐたるに、今のぼりたるは、少し遠き柱もとなどにゐたるを、とく御覧じつけて、「こち」と仰せらるれば、道あけて、いと近う召し入れられたるこそうれしけれ。

【読書ノート】
ただのも=ただの紙。よき=上等なのを。はづかしき人=立派な人。ふと=とっさに。清う忘れてやみぬる=きれいに忘れてしまっている。物合(ものあはせ)=左右に分かれて、互いにものを出し合ってその優劣を競う遊び。挑むこと=勝負事。つれなく=無関心で。たゆめ過ぐす=油断させたまま(チャンスを狙う)。ものの折=晴れの場。「また」もおほかるもの=「また」の言葉の連用(は恥ずかしい)。しるきこと=ひどい症状があって。