南紀には海岸線から突き出た岬や小島に、
原初の味わいを残す秘密めいた場所が多いのですが、
先日、その中でも大好きなひとつ、
すさみ町の江須崎に行きました。
周囲3キロ、高さ36メートルの、
陸とつながった小島で(陸繋島という)、
全体的にふくよかな丸みを帯びていて、
全島神域として保護されている、
緑あふれる空間です。
シイ、イトマキ、ホルトノキ、ウバメガシなどの樹林群落から、
ハカマカズラ(北限は湯浅の黒島)、ハマセンダンなどの稀少種まで
島内の植物は200種以上におよびます。
亜熱帯性原生林としての北限域でもあり、
一歩足を踏み入れると暖かい黒潮に育まれた木々の香りが
ひときわ濃密かつ爽やかで、
いつまでいても飽きのこない居心地のよさに包まれます。
外周を歩いていると、木々の合間から海が見えます。
群青色の、典型的な黒潮ブルーの海。
地球の丸みを如実に感じさせる外洋の大海原で、
デカい貨物船なども頻繁に通ります。
見晴らしのよい場所に腰かけ海を眺め
その独特のブルーに見とれていると、
宇宙の中にひときわ青く輝く地球の姿を連想してしまいます。
そして地球の中の太平洋、太平洋の中の日本列島、
日本列島の中の紀伊半島、紀伊半島の中の江須崎島、
というように意識がズームアップしてゆきます。
ここは黒潮エッセンスを真空パックしたような場所というか、
黒潮の流れの中のひとつの母船というか、
その丸みの帯び方と相まって、ひと味もふた味も違う空間だなと感じます。
黒潮の沿線上にはそういう場所がいくつもあるのでしょう。
そして縄文時代とか古来には、そういう空間をつなぐ
神域ネットワークみたいなものが文化としてあったんだろうと思います。
沖縄~南九州~四国南岸~紀伊半島~伊豆~房総半島ってエリアを
縄文系海洋民は普通に行ったり来たりしてましたからね。
ひとつの場所からより広い世界への憧憬に広がってゆくような、
イマジネーティヴな感覚がこの島にはあります。
エス崎ともS崎とも読み取れ、語呂としても味がありますね。
田辺湾の神島と同じく大昔からの原生林でありながら、
誰でも行ける場所なので、南紀の串本などに行く道中には
訪れておくべきだと言えるでしょう。