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人生そのものがフィールドワーク。

7月29日(日)

2018年09月01日 21時57分05秒 | 2018年

 7時起床。朝食は取らずにホテルをチェックアウト。このホテルは朝食の美味しさがひとつの特徴なのだが、今日はなぜかあまりお腹が空いていなくて、断念した。

 浦河方面へ車を走らせ、JR日高本線の絵笛駅を見に行く。ホームに立って最初に思ったのは、「これが圭一の見た景色か」ということだった。圭一というのは、白川通さんの小説『天国への階段』の主人公・柏木圭一のことである。悲劇に見舞われ、復讐を胸に誓いながら、故郷であるこの浦河・絵笛の街を出ていく場面、大人になり、東京で実業家として成功を収めた後に帰ってくる場面など、ストーリーの節目で登場するこの場所に、一度来てみたかった。

 実際の絵笛駅は、小説の描写のとおり、牧場に囲まれた小さな小さな田舎駅だ。ただし、少しばかり荒廃している。というのも、2015年1月の高波被害による土砂流出の影響で、かれこれもう3年半、この絵笛を含む日高本線の大半の区間(鵡川~様似間)は不通になっている。更に、JR北海道は2016年の年末にこの区間の復旧断念(つまりは廃線)の意向を発表した。一応まだ完全に決まったというわけではないようだが、かなり高い確率で、この駅に列車が来ることはもうないのだ。小さくて愛らしいこの駅も、いつまでこうしてその姿を留めていられるだろうか。

 せっかく浦河まで来たので、「うらかわ優駿ビレッジAERU」へ伺う。ここは、ホテルも併設された乗馬などの複合レジャー施設で、かつて競馬界を賑わせた功労馬も繋養されている。現在は、ウイニングチケット(1993年の日本ダービー馬)とスズカフェニックス(2007年の高松宮記念優勝馬)がこの場所で暮らしている。以前はニッポーテイオーや私の大好きなサニーブライアンなども余生を過ごし、最近では今年の3月にヒシマサルがここで天寿を全うした。ここには現役の競走馬や種牡馬はいないので、通常の牧場と比べると更にのんびりとした雰囲気が流れており、このような場所で命を全うさせてあげることが、大きな功績を挙げた馬たちへの最大の敬意の表し方なんだなと感じる。

ヒシマサルの馬房には祭壇が設けられている。

 功労馬2頭は放牧中だった。ウイニングチケットは28歳と結構なおじいちゃんだが、足取りも軽く、草を食みながら放牧地を元気に歩き回っている。スズカフェニックスはまだ若いこともあって、私の姿を見つけると近寄ってきて愛想を振りまいてくれた。ただ、右後脚に少し腫れがあるようで、テーピングをしていた。馬にとって脚は本当に大切な部分なので、どうかお大事に。

ウイニングチケット。

スズカフェニックス。

 厩舎の近くには、ブチ柄のお馬さんもいた。カラトン君。すこぶる愛想がいい。こちらは功労馬ではなく、乗馬用のお馬さんだ。この見た目でこの愛想のよさなら、きっと人気があるだろうな。

 AERUの奥にあるJRAの日高育成牧場で開催されていた「うらかわ馬フェスタ2018」というお祭りへ行ってみる。企画そのものも面白そうだし、何より日高育成牧場に入れるチャンスはなかなかない。会場はとても広く、様々なイベントや展示、販売が行われていた。中でも私が興味深かったのは、蹄鉄作りの実演コーナー。鉄の棒を熱してとんかちで曲げていくところから、錐のようなものでくぼみを作って形を整えていくまで、職人さんの無駄のない正確な動き、これぞ職人技といったものを見られて感動した。それと同時に、競馬というものがいかに多くの人たちによって支えられているかということを実感させられた。その後、隣で行われていた蹄鉄のコースター作りに参加させて頂き、ちゃっかりお土産もゲットした。

 普段は調教用に使われているダートコースでは、「浦河競馬祭」として、様々な種類のレースが行われていた。サラブレッドだけでなく、アラブ種やポニー、純和種のレースもあって、面白い。私が見ている間には、ジョッキーベイビーズ北海道地区代表決定戦が行われていた。簡単に言えば、子どもたちよるポニーレースの北海道大会で、優勝すると秋に東京競馬場で行われる全国大会に出場することができる。「子ども(ポニー)でしょ?」とばかにしてはいけない。普段から日常的に馬に乗っている子どもたちの中から選りすぐりのメンバーが出て来ているわけで、実際に目の前で観てみると、スピードも迫力もすごかった。今回優勝したのは女の子だったのも印象的だった。女の子だが、出場メンバーの中で追い方の迫力はダントツだったと思う。彼女が将来プロの騎手になってくれたら、「俺はあの子がジョッキーベイビーズに出てた頃から目をつけてたんだ」と自慢できるのだが。まあ、何はともあれ、秋の全国大会、頑張ってください。怪我だけは気を付けてね。

こちらは大人のレース。

ジョッキーベイビーズ。

真ん中の白い馬に乗っている女の子が優勝した。騎乗フォームも綺麗だ。

 静内へ戻り、ホテルローレルの中にあるレストラン「北海」で昼食。お目当ては、ししゃものお寿司である。そのお寿司は、生と炙りを2貫ずつ、その他にエゾ鹿熟成肉のカツレツ定食を注文。ししゃもは、しっとりした食感と、独特の甘みがある。炙りになると、これに香ばしさがプラスされる。これが本当にあのししゃもなのか?と疑いたくなるほど、普段食べているししゃもとは違う。どうやら、私たちが普段食べているのはししゃもではなく、カペリン(通称:樺太ししゃも)という魚らしい。本物を食べてみてわかったのは、全然違う魚じゃん、ということである。こうなると、逆に寿司だけでなく、炙ったものを食べてみたいと思えてくる。それは次回のお楽しみにしよう。また、期待以上に当たりだったのが、エゾ鹿のカツレツである。濃厚な赤身肉だから、デミグラスソースとの相性がとても良いのだ。エゾ鹿の食べ方の正解は、カツレツなんじゃないだろうか。私のように赤身好きの人は、絶対に好きな味だと思う。

 午後の最初の訪問先は、「ランディングヒルズ静内」という公営(新ひだか町の町営)の乗馬施設。さすがはサラブレッドの一大生産地、町営の乗馬施設があるということに驚きだ。市民プール的な感覚で乗馬が出来るとは。料金もリーズナブルである。ただ、今回は乗馬はせず、馬たちの見学をさせて頂いた。常時なのかはわからないが、牧草をあげることが出来るようになっていて、見学だけでも楽しめる。また、厩舎の中を猫が自由に歩き回っていて、とても人懐っこくて「撫でて撫でて」と甘えてくるし、馬たちとも仲良くやっているようだった。馬と猫の組み合わせというのは、意外は意外だが、結構ほっこりするものである。

 続いては、ビッグレッドファームへ。日高へ来るたびに毎回訪れている牧場である。ちなみに、昨日札幌競馬場で応援したアルママの馬主もこのビッグレッドファームである(生産は千代田牧場だが)。また、この牧場は建物がお洒落で、普通の日本の牧場とは少し違う雰囲気があるように思う。岡田総帥は若い頃にアメリカで修行されていたから、もしかするとアメリカの牧場はこんな感じなのかもしれない。

 訪問したのが暑い時間帯だったこともあって、馬たちの大半は厩舎の中にいた。毎年のように訪れているのでほとんどの馬とは何度も会っているのだが、今回初めてグラスワンダーと会った。競馬ファンの中で、グラスワンダー、スペシャルウィーク、エルコンドルパサーの95年生まれ世代が最強だと言う人は多い。実際、その頃のレース映像を見ると胸が熱くなる。1998年はスペシャルウィークがダービーを勝ち、エルコンドルパサーがジャパンカップを勝ち(2着はあのエアグルーヴ)、有馬記念をグラスワンダーが勝った。1999年は、春の天皇賞をスペシャルウィークが勝ち、宝塚記念ではグラスワンダーがスペシャルウィークを破り、フランスのG1サンクルー大賞を勝ったエルコンドルパサーが凱旋門賞で2着に入り、その凱旋門賞で優勝したフランスのモンジューをジャパンカップでスペシャルウィークが破り、有馬記念ではそのスペシャルウィークの追撃をわずかに2cm凌いでグラスワンダーが連覇を達成…というように、今でも伝説になっているレースが目白押しである。更にいえば、そのグラスワンダーとエルコンドルパサーを98年の毎日王冠でぶっちぎったサイレンススズカもいた。少し話が逸れたが、グラスワンダーはその後、種牡馬としてもスクリーンヒーロー、モーリスと、優秀なサイアーライン(父系図)を築いている。間違いなく、日本競馬史を代表する名馬の1頭である。そんな馬に会えるというのは、本当に胸躍る体験である。ワクワクしながら馬房の中を覗くと、競走馬時代と変わらず凛々しい姿があった。ちらっと私のほうを見つつも、マイペースに牧草を食んでいる。本当にかっこいい馬だ。

ゴールドシップも相変わらず元気そうです。

おちゃめなアドマイヤマックス。

アイルハブアナザーは凛々しい。さすがは米国2冠馬。

ロサードくん、君はいつ来ても外でまったり過ごしているね。暑くないのかい。

コスモバルクは虫たちに追い掛け回されてイライラ。

 続いては、アロースタッドへ見学に行く。二十間道路牧場案内所で申込をして、現地へ伺う。ここへ来るのは初めてだ。

 アロースタッドには、最近まで現役バリバリだった馬たちがたくさん繋養されている。その中でも私の一番のお目当ては、ワンアンドオンリー。2014年の日本ダービー馬で、当時定年直前だった橋口元調教師を悲願のダービートレーナーにした馬である。その後は成績が低迷し、結局そのまま引退することになってしまったが、名前(最愛の人)の響きが好きだったこともあって、ずっと応援していた。私が結婚した年の有馬記念では、妻と一緒に記念馬券を買ったりもした。結構思い入れのある馬なのだ。初めて会ったワンアンドオンリーは、頭の良さそうな顔をしていて、現役時代と変わらぬかっこよさだった。

ワンアンドオンリーと同世代で、こちらは菊花賞を勝ったトーホウジャッカル。相変わらずイケメンだ。尾花栗毛のタテガミにこの表情は、もはや反則だろう。

UAEダービーを制し、米国3冠にも出走したラニ。ヘヴンリーロマンスの子どもだし、父タピットは米国のリーディングサイアーということで、初年度から大人気だそうだ。スタッフの方のお話によると、体重は600キロを超えているらしい。食べ過ぎはダメだよ。

マスクゾロ。つぶらな瞳が可愛い。重賞1勝の馬だが、外国産の面白い血統と、順調ならもっとやれたはずと思わせるポテンシャルから種牡馬入り。何とか頑張って欲しい。

 サラブレッド銀座通りを走り、少し休憩。ここから見える景色がたまらなく好きだ。何なら、老後はこの場所に家を建てたいくらい。

 夕食は、日高食肉センター直営の豚焼肉店「焼きとんひだか」へ。新冠町のサラブレッド壁画のすぐ隣にあるお店である。ロースやハラミ、ハツ、レバーと、好きなお肉を注文。最初の一口はロースを食べたのだが、その一口でこのお店は当たりだと思った。ここまで明らかに他とは違うお肉を食べたのは久しぶりだ。ロースだけでなく、他の部位も本当に美味しい。しかも、リーズナブルだ。これは、本当に良いお店を見つけた。

 今日の宿は、「新冠温泉レ・コードの湯ホテルヒルズ」。日帰り温泉にホテルがついた施設で、これが2回目の宿泊であるが、ここの温泉の泉質が大好きで、お風呂だけでいえばもう4回目くらいの訪問になる。今日も、温泉は素晴らしかった。ただ、直前の予約だったので喫煙の部屋しか空いておらず、ちょっと汚くて臭い部屋だったのが残念だ。タバコの臭いはともかく、もう少し部屋を綺麗に出来ないだろうか。