4時半起床。5時前に家を出る。今日は妻の友人たちが我が家に来訪するので、その間どこかへお出かけしようとあれこれ考え、最終的には岩手県にある水沢競馬場へ行くことにした。
地下鉄と東海道線を乗り継いで東京に出て、6時04分発の東北新幹線やまびこ41号に乗り、水沢江刺を目指す。
朝食は、駅の売店で購入したサンドイッチ。
沿線からの景色。段々と空が明るくなっていく。
水沢江刺駅到着は、8時47分。ホームへ降りた瞬間、とんでもない寒さに震える。温度計は0度と表示されている。想像を超える寒さだ。雪も積もっている。
水沢江刺駅から水沢競馬場までは約3キロ。タクシーに乗ってもいいが、時間にも余裕があるので歩いてみることにする。
途中で、北上川を渡る。ちょっと場所は異なるが、宮沢健治の作品に出てきたあの北上川かと思うと、ちょっと感動。
北上川を渡り終えると、水沢競馬の厩舎が並んでいる。予想通り警備は厳重で、至る所に監視カメラが設置されているし、警備員さんの数も多い。競馬ファンなら誰でも知っていると思うが、岩手競馬(盛岡競馬及び水沢競馬)では今年、競走馬からステロイドなどの禁止薬物が検出される事件が複数回発生しており、開催が中止になったり、存続そのものが議論される事態になっている。未だに犯人が捕まっていないので確定的なことは言えないが、レース終了後に薬物検査が行われるのは当たり前なので、厩舎の人間が自分たちの管理する馬に投与する、いわゆるドーピング的なことは考えられないから、外部の人間の犯行だろうと想像されている。だから、厩舎一帯の警備は必須なのだ。
厩舎地帯を過ぎると、競馬場のスタンドが見えてくる。遂に来たなと感慨深いものがある。
厩舎から競馬場へ馬が移動する専用の道(馬道)がある。馬が一般道を横切って競馬場へ向かうというのも、地方競馬らしい。
開門前に水沢競馬場に到着。
開門と同時に入場し、場内を散策する。コンパクトな造りで、1周するのに5分ほどしか掛からない。しかし、必要な施設、設備は整っているし、地方競馬らしいどのかな雰囲気も抜群で、何より馬と人との距離が近い競馬場である。個人的には、今まで訪れた競馬場の中で一番好きかもしれない。
結構本格的な救護室と案内所がある。
扉の取っ手部分が馬の蹄鉄の形になっている。
開門直後なので、人がほとんどいない。
パドックの出馬表が手書きというのも味があって良い。
この距離で返し馬を見ることができる。馬の息遣いまで感じられる近さである。
競馬新聞を買う。ひとつのレースに見開き2ページを使うという情報の充実ぶりに驚かされる。予想の参考にというだけでなく、純粋に読み物としても楽しめる。
第1レースの始まる前に、食堂が並んでいる(といっても2軒しか営業していない)スタンドの裏手へ行って、水沢食堂でホルモン(煮込み)を頂く。注文する際、定員のお姉さんに「(お鍋の)写真を撮ってもいいですか?」と聞いたら、「それならちょっと待って」と一旦裏へ戻り、大きなお釜を持ってきて大量のホルモンをお鍋に投入した上、新しいネギもたくさん入れてくれた。「せっかくだからたくさん入ってたほうがいいでしょ」と言う優しい笑顔がとても素敵だった。ありがとうございました。
ホルモン煮込みは、水沢競馬場の名物グルメのひとつである。どこの競馬場にもあるメニューだが、ここの煮込みは脂っこさが控えめで、さっぱりしている。しかし、味はしっかりしみているから、いくらでも食べられそうな感じがする。これも、今まで様々な競馬場で食べた煮込みの中で一番美味しいと思う。
第1レースはかぶりつきで観る。スタートもスタンドの目の前からだ。JRAのレースだとスタート地点も少しピリピリとした雰囲気が流れているが、ここは係員さん同士が笑顔で雑談していたりして、ほのぼのとした雰囲気が漂っている。
馬場状態は「不良」。「良」「稍重」「重」「不良」の順だから、最も悪い状態、いわゆる「泥んこ馬場」というやつである。係員さんの長靴が土の中に沈んでいる。相当なパワーが求められる馬場状態だ。
レースが始まる。地方競馬ではよくある(逆にJRAではほとんど見られない)光景だが、出鞭(スタートした瞬間に騎手が鞭を打つこと)が乱発されるほど過激な先行争いが目の前で繰り広げられていて、ものすごい迫力である。スタートからコースまでの距離が本当に近いので、馬のスピードやパワーをひしひしと感じ、改めて馬ってこんなに速く走るんだと驚かされる。
第1レース終了後、再び水沢食堂に顔を出して、今度は焼き鳥(通称・ジャンボ焼き鳥)を購入。これも水沢競馬場の名物グルメで、地元産の鶏肉を15分ほど掛けてじっくり焼いたあとに特製の七味と塩をかけた一品だ。香ばしく焼けた皮と甘みのある脂、ぷりぷりのお肉で、一口食べて「うっま!」と声が出る。
水沢競馬場は、周囲を山に囲まれている。レースを観る度に、その奥に連なる山々の景色の素晴らしさに感嘆させられる。とんでもない寒さだが、この景色はそれに耐えてでも見ていたいと思える。
先ほど、馬と人との距離が近いと書いたが、特にパドックから返し馬まではその傾向が強い。返し馬でスタンド寄りを走る馬に至っては、手が届きそうな距離を走っていく。気性難で少し暴れている馬がいたりすると、本気で怖いくらいだ。
お昼前になると、場内も賑わってくる。寒いので皆さん建物の中で予想をしている。こうして見てみると、高齢化率が半端ない。言い方は悪いが、10年後にはこの世にいないであろう世代が大半で、若い人は本当にごく一部だ。ネット販売があるから一概には言えないが、若い競馬ファンの獲得が今後の大きな課題であることは間違いないだろう。そして、それは水沢だけでも地方競馬だけでもなく、中央も含めた日本競馬全体の課題でもある。
暖かい建物内で予想をして、レースのファンファーレが鳴ると外に出る、という流れを繰り返す。何度も言うが、ここは本当に眺めの素晴らしい競馬場だ。馬券が外れても清々しい気持ちでいられる。
景色の良さを満喫するばかりで馬券は一向に当たらないので、丸大食堂で勝カレーを食べる。先ほどの水沢食堂もそうだが、古き良き大衆食堂である。こういうところでご飯を食べると、なぜだかとても幸せな気持ちになる。
私にとっての最後のレースである第6レースにおいて、私のほぼ目の前、最後の直線で1頭の馬(5番フォレストガーデン号、3歳牝馬)が転倒、騎手が落馬した。騎手はすぐに立ち上がったのでほっとしたのだが、馬が横たわったまま起き上がれないでいる。何とか起き上がろうと身体を動かすのだが、すぐに倒れ込んでしまう。「予後不良」という言葉が頭に浮かぶ。すぐにでもその場から逃れたい気持ちを我慢して、目の前の光景を受け止め、カメラを向ける。競馬を嗜む以上、この光景を忘れてはいけないという直観がある。しばらくして馬運車がやってきて、係員さんが馬を起こそうとする。すると、何と馬は自分の足でしっかりと立ち上がってみせた。しかも、きちんと自分の足で歩いているし、歩様の大きな乱れも感じられない。良かった。本当に良かった。私も含め、見守っていた人全員が安堵の表情を浮かべている。隣のお爺さん曰く、「足を怪我して起き上がれなかったのではなくて、地面のぬかるみがひどすぎて立てなかっただけではないか」とのこと。とにかく、大きな怪我はしていなそうだったので良かった。
帰りはタクシーで水沢江刺駅へ戻る。馬券成績のほうは相変わらずひどかった(6戦1勝)が、素晴らしい競馬場で過ごした時間は本当に楽しかった。今度は、岩手競馬のもうひとつの競馬場、盛岡競馬場にも行ってみたい。
水沢江刺駅13時38分発の東北新幹線やまびこ48号に乗り、仙台へ。
仙台駅14時30分発の秋田新幹線こまち20号に乗り換える。ここで乗り換えることによって、東京駅到着が20分早くなる。
東京駅には16時04分に到着し、16時10分発の東海道新幹線のぞみ47号に乗り換えて、新横浜へ。3本の新幹線を乗り継いだのは生まれて初めてである。
16時半過ぎに帰宅。来訪していた妻の友人たちに挨拶をしてから娘をお風呂に入れ、妻たちが外食に出掛けるのを見送ってから、娘の夕食。その後、早めに眠くなった娘を寝かし付ける。
夕食は、仙台駅での乗り換えの際に売店で購入した牛タン弁当。紐を引っ張って温めるタイプのお弁当である。
21時過ぎに就寝。さすがに疲れたので、ご飯を食べたらすぐに眠くなってしまった。