全世界で猛威を振るった新型コロナ・ウィルス(COVID-19)だが、日本に於いては、新規感染者数は大幅に減少し、収束の方向に向かい始めているようだ。長かった、ここまでは。欧米でも、何度も行われた大規模なロックダウンやワクチン接種の効果のせいか、ピーク時より新規感染者も減り(日本から見るとまだまだ多いけど^^;)、やはり収束に向けて動き始めている。と思いきや、オランダはアムステルダムで部分的とはいえ、ロックダウンを再開させたらしい。ピーク時に比べればかなり緩いらしいけど。まだまだ先は見えないのか。
このコロナ禍は、あちこちに影響を与えたが、ミュージシャンも例外ではない。去年の春あたりから、ツアーやイベントが中止になって、家に籠もる事が多くなったミュージシャン達が、時間があるものだから曲作り等に励み、これまでにないペースで新作を出したりなんかして、ポール・マッカートニーもそうだし、テイラー・スウィフトなんて新作を2枚出したと思ったら、過去の作品のリメイク・アルバムまで発表するという、実に精力的な活動をしてて、いやぁなんというか、実に良い傾向だ(笑) 創作活動の根本に立ち返った人たちも多いのではないかな。僕個人としては、ワールド・ツアーもいいけど、新作を早いペースで出してくれた方が嬉しいので、そういう意味では歓迎かも。家で過ごす事が多くなり、家でCDを聴く事も多くなる訳で、需要も増えるし、供給側の創作活動も活発になるしで、この点に於いては良い事づくめである(笑)
という訳で、最近買ったCDから。今回は大物二人のコロナ禍での新作。ちなみにどちらも「金曜販売開始商品」である(だから?)
The Lockdown Sessions/Elton John
先月だったかな、FMでエルトン・ジョンの「サクリファイス」と「ロケット・マン」の一節を組み合わせてカバーした曲がかかってて、誰か知らないけど凄い発想だなぁ、と驚き、また、カバーだと思い込んでるもんで、「サクリファイス」の部分を歌ってるのは誰だ、エルトンに似てるけど、なんて思いながら聴いてたら、DJが“エルトン・ジョンとデュア・リパで「コールド・ハート」でした”なんて言ったので、とにかくびっくりした。本人だもん、似てるよな(笑) 後で調べてみたら、この「コールド・ハート」、以前にもエルトンと共演したプナウによるリミックスだそうで、今回のは、クールだけどおしゃれなアレンジといい、「サクリファイス」も「ロケット・マン」もタイトルを含むフレーズは歌わない作戦といい、実に素晴らしい一曲である。
そんな「コールド・ハート」を含む、エルトンの5年振りの新作は、全曲ロックダウン下で様々なミュージシャンと共演したトラックを収録したアルバムとなった。先のプナウやデュア・リパをはじめ、チャーリー・プース、リサ・サワヤマ、ブランディ・カーライル等々、僕なんか名前すら知らない若手はもちろん、スティービー・ワンダーやスティービー・ニックスといった大物との共演もあり、言うならば、1993年の『デュエット・ソングス』と同じようなコンセプトで、多彩な共演者やパラエティ豊かな曲調もあり、とても楽しく聴ける。さすが、音楽業界の動向に常に目配りしているというエルトンならではの傑作と言えよう。
5年ぶりとはいえ、その間、映画も公開されたし発掘音源なども発売されてたので、そんなブランクがあった気がしないが、それも内容の素晴らしさ故かもしれない。収録曲はどれもクォリティ高くて、「コールド・ハート」の他には、サーフィスとの共演で、ラップも挿入された今風の曲調の中でもエルトンが存在感を示す「ラーン・トゥー・フライ」、聴いた事あるなぁと思ったら、なんとメタリカのカバーで、哀愁のメロディとドラマティックな展開が素晴らしいマイリー・サイラスとの「ナッシング・エルス・マターズ」、ブランディ・カーライルとの、割にエルトン風な「シンプル・シングス」といったところがお薦めだが、二人のスティービー、つまりスティービー・ワンダーとの「フィニッシュ・ライン」そしてスティービー・ニックスとの「ストールン・カー」が、なんといっても白眉である。声を聴く限りでは全く年とってない二人のスティービー、曲調も全く変わらず、実に素晴らしい。
今回は、他アーティストとの共演集ということで、エルトンの自作曲は少なく、「コールド・ハート」以外にはバーニーの名前もない。ま、バーニーも元気なんで安心してくれ、というエルトンのメッセージもあるし、次回に期待しましょう(笑) で、その代わりというか何というか、本作でエルトン主導のトラックでプロデュースや作曲に関わっているのが、アンドリュー・ワットマンという人で、もちろん知らない人だが、本職はギタリストらしく、なかなか凄いギターを弾いてたりする。これからのエルトンの頼もしい相棒といったところかな。
続いては、
ロジャーの8年振りの新作。皆さんご存知の通り、クイーンの中で最初にソロ活動を始めたのはロジャーであり、そのクイーンの枠やイメージに収まらない音楽性やアイデアを、ソロで発散してたと言えなくもないのだが、それ故、ソロでの作品はクイーン以上にアグレッシブでエキセントリックな内容のものであったが、ある時期以降から、表現が内省的な方向にシフトしていったような気がする。ロジャー自身を取り巻く環境や心境の変化が一番大きな要因と思うが、今回の新作も似たような印象ではあるものの、加えて風格みたいなものも感じられる出来映え。さすがに、万年青年みたいに思ってたロジャーも、今やロック界の重鎮と言っても良い存在であるしね。そのキャリアや実績に裏打ちされた深みのようなものが、アルバム全体を支配しているように思う。ジャケットも良い感じ^^
ちゃんとチェックしてなかったので、あまり知らなかったけど、ロジャーもロックダウン下で積極的に活動してて、本作収録曲のうち「アイソレーション」「ギャング・スターズ・アー・ランニング・ディス・ワールド」は既に配信シングルとしてリリースされ、「ジャーニーズ・エンド」はショート・フィルムに提供された曲らしい。「アブソリュートリー・エニシング」も元々は映画への提供曲だったとか。どの曲も良いけど、個人的には「ジャーニーズ・エンド」に感動してしまった。元々ソングライティング力には定評のあるロジャーの面目躍如である。「フォーリン・サンド」「サレンダー」「ロンドン・タウン・カモン・ダウン」は過去の曲のリメイクというかリミックスというか。ロジャーが全然ブレてない、というのがよく分かる。正直に告白すると、ロジャーのアルバムを常に聴いてる訳ではなく^^;、新作が出ると思い出したように過去作も併せて聴く、という状況で、ただその度に、ブレる事のないロジャーの姿勢に感嘆してしまうのだ。それは今回も同じ。
フレディの死後、ロジャーとブライアンはソロ活動してたけど、数年後にはクイーンとしての活動に重きを置くようになった。ソロでは食えない、とロジャーが言ったとか言わないとか聞いた事があるが、今回の新作はイギリスで初のTOP10入りを果たし、最高位3位を記録したというから、ようやくソロでも食えるようになった訳で(笑)、クイーンはもういいから、こっち方面で精力的に活動して欲しい。ブライアンもね。しかし、イギリスの国民的バンドのメンバーでも、ソロでは食えないなんて、本当にこの世界は厳しいのだな、と思わざるを得ない。確かに、ロジャーの作品はグレードは高いけどキャッチーとは言い難いけどね(笑)
という訳で、ベテランや重鎮の皆さん、まだまだ頑張って下さい。