「先程も申し上げましたが、私共は旅の物です。」
道に迷ってご領地内に立ち入ってしまったようです、誠に申し訳ございません。光君は恭しく丁寧にこの国の言葉でお詫びの言葉を述べました。きわめて落ち着き払った態度です。慣れていると言った方が良いでしょう。彼の祖父はこれまでの人生上、異国の地でも相当場慣れしていたのですが、その祖父でさえ思わず感心してしまう程の、正に堂に入った孫の態度とういものでした。
『光も達者になって、外国語にもかなり精通したな。』
この祖父にすると、光君はやはりとても自慢に出来る孫なのでした。「お前、しばらく見ない内に一段とこの国の言葉が上達したな。」こう言うと、彼は目を細めて孫の立派な姿に見入って仕舞うのでした。すると祖父の言葉を聞いた馬上の男性が馬から降りました。
「こちらこそ、失礼な事をしました。」
驚いた事に男性の言葉はとても綺麗な日本語でした。祖父は再び面食らうと、思わず目の前に降り立った異国の男性をしげしげと見詰めてしまいます。経験豊富な彼の目から見ても、どう見ても彼は生粋の異国人でした。『するとここは日本ではなく異国の地なのだな。』と祖父は思いました。
「日本の方ですか?」
異国の男性は穏やかに2人に尋ね、2人が共に頷くと、彼はにこやかな儘気さくに彼等に近付くと、更に親し気に彼等に話掛けようとして光君の顔を見詰め、一瞬ハッとした感じになりました。彼には光君の顔に思い当たる物が有ったのです。
「君達、何時から来たの?」
親愛の情が消えた彼の言葉はもうこの国の物でした。