新工場の資料を示しながらインタビューに応じるユーリ・スベトリコフ社長
北方領土最大のロシア企業で択捉島を拠点に水産、建設、観光など幅広い事業を手掛けるギドロストロイ社。ユーリ・スベトリコフ社長(64)に、日ソ共同宣言で平和条約締結後の日本への引き渡しが明記されている色丹島で新工場建設を進める狙いなどを聞いた。
――新工場の稼働準備が進んでいます。
「色丹島では1994年の北海道東方沖地震で破壊された施設を買い取り、99年に工場を建設しました。イワシやサバの資源は数十年単位で増減を繰り返しており、今後20年、豊漁が期待できるため、新工場建設に踏み切りました。ロシア全土で最大と言える大きさです。会社の拠点は、建設や観光業も行う択捉島ですが、色丹島の新工場は、択捉島にある2カ所のサケ・マス工場と生産額で肩を並べるレベルです」
――日ロ両政府は日ソ共同宣言を基礎に交渉を進めています。
「交渉は私たちの将来に影響する話で、非常に関心を持っています。住民も緊張しており、引き渡しに反対運動が起きています。ただ、困惑や不安はありません。新工場は言うまでもなくロシアの領土に投資をしており、ロシア政府は支持してくれるでしょう。色丹島と周辺海域、そこにいる魚はロシアのものです。戦争の結果を見直してはいけません。万が一、色丹島が日本に引き渡されることがあれば、日本領の中で工場を動かし続けますが、仮の話に意味はありません」
――北方領土における共同経済活動の具体化は水面下で進んでいますか。
「ロシアと日本の企業が協力してビジネスを行うための法的基盤が必要ですが、立場の違いが鮮明で、近い将来の実現はないでしょう。2017年に日本の官民調査団が来た際、《1》北海道から択捉島への飛行機による観光《2》ミネラルウオーター生産《3》択捉島のクラシーバエ湖(日本名・得茂別(うるもんべつ)湖)でのベニザケふ化―の3事業を提案しました。日本側が提案する海面養殖は、漁場が(島の漁業者に)配分されており簡単ではない。最も実現性が高い観光分野で、生じる問題を一つずつ解決していくのが近道でしょう。第一歩を踏み出すことが重要です」
――今後、四島でどんな事業を予定していますか。
「共同経済活動に関して日本側が注意を払うべきは、後れを取らないようにすることです。観光では、私たちのホテルや温泉施設に、既に韓国や北欧の観光客が訪れています。日本に提案したベニザケ養殖は日本側から返答がないので、独自に科学的な調査を始めました。ミネラルウオーター生産についても今年中に択捉島に工場を建設し、年末に商品を発売する計画です」(聞き手・ユジノサハリンスクで細川伸哉)
<ことば>ギドロストロイ 創業者で会長のアレクサンドル・ベルホフスキー前上院議員が旧ソ連崩壊直前の1991年3月、択捉島の倒産した水産関連施設などを買い取って設立。本社は択捉島紗那(クリーリスク)。47隻の漁船を所有し、水産加工場は択捉島、色丹島、サハリンに計5カ所(新工場含む)ある。従業員は繁忙期で5千人。