内的自己対話-川の畔のささめごと

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危機に瀕することがある「アイデンティティ」― ヴァンサン・デコンブの対談を読む(16)

2015-07-13 03:20:25 | 読游摘録

 「アイデンティティ」という言葉の新しい意味は、社会科学の世界からやってきた。社会科学の分野では、この言葉は、心配や要求の対象、闘争の目的を指示する。より詳しく言えば、あるグループの成員たちが自分たちを他のグループから区別する指標とみなす諸特徴の総体を指す。彼らがこの特徴の総体に重きを置くのはなぜか。それは、彼らにとってそれらがそのグループをまさに一つの特定のグループたらしめている構成要素だからであり、そして、自分たちのグループの存続と未来に不安を抱いているからである。
 この社会心理学的な意味での「アイデンティティ」は、「古い」意味での「アイデンティティ」(つまり、「この川はセーヌ川である」と言うときのように、ある特定の対象が特定の名によって個体化されるときの同一性)とは違って、「危機に瀕する」ことがある。逆に言えば、危機に瀕することがなければ、取り立てて問題にされることもないもの、それが新しい意味での「アイデンティティ」である。