内的自己対話-川の畔のささめごと

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《 Transduction 》 あるいは作用と構造の「矛盾的」同一性 ― ジルベール・シモンドンを読む(8)

2016-02-24 19:51:25 | 哲学

 「個体化」(« individuation »)と並んで、シモンドンの哲学のもう一つの根本概念は « transduction » である。生物学では「形質導入」、心理学では「転導」、電気工学では「変換」と訳され、それぞれ異なった定義とともに使用されている。前二者は、それぞれ、1952年以降、1941年に初出が確認されているから、シモンドンもそれらを念頭においてのことではあろうが、自分の哲学に固有な定義を与えた上でこの概念を使用している。

Nous entendons par transduction une opération, physique, biologique, mentale, sociale, par laquelle une activité se propage de proche en proche à l’intérieur d’un domaine, en fondant cette propagation sur une structuration du domaine opérée de place en place : chaque région de structure constituée sert à la région suivante de principe de constitution, si bien qu’une modification s’étend ainsi progressivement en même temps que cette opération structurante (L’individuation à la lumière des notions de forme et d’information, op. cit., p. 32).

 トランスデュクシオンは、物理、生物、心理、社会のあらゆる分野に見出される作用あるいは操作であるとされているが、その最も単純な像を提供してくれる例として、シモンドンは、結晶化作用を挙げる。母液の中のある小さな一点から始まった結晶化作用がそこを出発点としてしだいに周囲に向かって全方向的に広がりながら大きくなっていく。その過程においては、各瞬間に構成された結晶体が順次その次の結晶化の基盤になり、次第に結晶体を拡張していく。
 シモンドンがこの物理現象に見て取っているのは、作用と構造との、いわば「矛盾的」同一性である。作用が始まらなければ、構造は形成されない。しかし、その構造の支えがなければ作用は実行され得ない。ある一定の領域内で、自らを実行するのに不可欠な構造を構成しかつその上に自らが基礎づけられながら、徐々に拡張されていく作用、それがトランスデュクシオンであり、これがまさにすべての個体化の、つまり生成の原理であるとシモンドンは考えるわけである。