若い頃は映画を特に好むということはなかった。よほどの名画でもないかぎり、二時間もじっと何もせずにただ映画だけを観ているのは、たとえ家で観る場合でも、時間の使い方としてもったいないと思っていた。ましてや金を払ってまで映画館で観る気にはほとんどなれなかった。
ところがここ数年、ときどき家では観るようになった。DVDも買うようになった。邦画を好む。映画館にはやはりほとんど行かないが。
観るようになったきっかけは、飛行機である。日本に帰国する機会が増え、その行き帰りの飛行機の中で観るようになったのである。最初は、むしろ仕方なしに観ていた。長時間本を読む気にもなれず、音楽を聴くにも機外からの騒音が大きすぎ、他にすることもなかったからである。しかし、ときどきいい映画に出会うことがあり、そんなときは結構感動してしまって、あやうく涙を流しそうになったことも一再ならずあった。ちなみに、ここ数年、涙腺は緩くなる一方である。
映画を観るようになったもう一つのきっかけは、美容院である。帰国のたびごとに必ずカットに行く近所の美容院があるのだが、その美容師さんが大の映画好きで、カットしている間、映画を大画面テレビで観せてくれるのである。私が一時期東野圭吾と横山秀夫に凝っていたときは、その作品のほとんどをその美容院で観た。カットが済んでも、次の予約が入っていなければ、最後まで観させてくれた。しかもコーヒ付きである。
今日、その美容院に行ってきた。美容師さんがいくつか候補に挙げてくれた作品の中から、『深夜食堂』(劇場公開日2015年1月31日)を選んで観た。いい映画だと思った。主役の小林薫の抑えた演技は味わい深く、脇役たちも芸達者な役者さんたちが多数登場して、多様な人間模様がさり気なくユーモアを込めて描き分けられ、飽きさせない。特に、多部未華子の演技には強く惹きつけられた。