先週のメディア・リテラシー今年度最後の授業では、この二月末に刊行されたエマニュエル・トッドの『パンデミック以後 米中激突と日本の最終選択』(朝日新書)の第二章「新型コロナ禍の国家と社会」の一部を読んだ。本書は、2018年から朝日新聞、AERA、論座に掲載された六回のインタビューに大幅な加筆修正を行って書籍化されたものである。
インタビュアーである大野博人氏の「あとがき」によると、論座は別として、紙媒体の掲載時には紙幅の制限があり、実際のインタビューからかなりの部分を省略せざるを得なかったが、その大半が本書では復元されている。実際、大変興味深い見解が随所に見られる。
これらのインタビューがフランス語で出版されることはないであろうから、授業で紹介することにした。学生たちに著者を知っているかと聞いたら、ネットで配信されていた講演を聴いたことがあるという学生が一人いた以外は、名前すら知らなかった学生が大半だったのはちょっと意外であった。そこでまず、トッド氏の略歴といくつかの著書、日本との関係などについて手短に紹介した。授業では、本書第二章で言及されている Les luttes de classes en France au XXIe siècle, Édition du Seuil, 2020 も一部紹介したのだが、この本については別の記事で取り上げる。
第二章の元であるインタビューは、昨年六月三〇日にブルターニュと安曇野の間をオンラインで結んで行われた。この章のはじめの方で、二〇一九年に出版されたジェローム・フルケの『フランス群島』(Jérôme Fourquet, L’archipel français, Éditions du Seuil)が紹介されている。この本の中で、フルケは、フランス社会が「島国化」(archipelisation)しているという説を唱えている。トッド氏が言うようにこれが大変興味深い。フランスがさまざまな「島」から成る社会になりつつあり、それぞれの「島」でサブカルチャーも違ってきているという。金持ち、貧乏人、アラブ系住人など、それぞれのグループが相互につながりをもたないまま暮らし、フランスはそんなバラバラの島国みたいになっているという見方である。実際、これは私の実感にも対応する。
この説明を読めば、どのような意味で「島国化」という言葉が使われているかわかるが、それでも訳語としては「群島化」の方が適切だと思う。というのも、「日本は島国だ」というとき、その領土が複数の島からなる国だという意味も含まれてはいるが、他の国々から海で隔てられている国だということを強調するために使われることのほうが多いからである。
それはともかく、この「島国化」という言葉をあえて使えば、日本社会は二重に島国化していると言えるかも知れない。対外的にはもとから島国だが、国内的にも島国になりつつあるということである。コロナ禍はその二重の島国化を促進しているように私には見える。