雪の止んだ山里の朝は、人が居なくなったのかと錯覚するような静けさだ。
森の木は純白の花をつけ、縞模様だった畑も白い波をうねらせている。
もやに包まれた墨絵のような風景は、快晴の朝より心が落ち着く。
静かな風景とは裏腹に、やわらかい雪の上には、動物の足跡が入り乱れていた。
特徴のある野うさぎの足跡と、それを追うキツネの足跡が点々と続いている。
例によって、鑑識係が臭いを嗅ぎながら追跡を始めた。
その先には新しい血痕と争いの跡が生々しく残り、生と死のドラマが、つい先ほどまで繰り広げられていたようだ。
最近はウサギが増えて、畑を荒らされるようになったが、理由は天敵のキツネが減ったからだといわれている。
去年は菜園に枝豆を蒔いたが、半分ほどをキジバトに食べられ、残った種が芽をふき葉を付けた頃、野うさぎに食べられて全滅してしまった。
先日、前の道をトボトボ歩いている動物を見かけた。
どこかの飼い犬かと思って見ていたら、口が尖っているし、尾も太くて立派だったので、キツネだと気が付いた瞬間、視線が合って森へ逃げ込んだ。
数少ない肉食獣が増えてきたようで、少しは畑の被害が少なくなるかも知れないが、残酷なシーンはあまり見たくない。