あなたはこの世に生まれた
たくさんに感動し
たくさんに激昂した
たくさん悲しみ
たくさん寂しがった
あなたはこの世に生まれた
たくさん思い
たくさん考えた
たくさんの人に会い
たくさん喜び
たくさん傷ついた
あなたの自由は叩かれた
世間にも親にも叩かれた
孤独を初めて知った時
あなたは本を読んだ
本はあなたを連れてってくれた
生まれつき
人より弱い体
人より繊細な心
どこをとっても生きにくい人生だった
あなたを助け続けた本のありか
自分で物語を語り始めた
それは孤独のためだった
それだけのためだった
あなたは腰が痛い時
労働に出た
歯ぎしりしたけど
誰にも聞こえぬように
食いしばった
無理解な人たちに絶望した時
祈りに引き寄せられた
あなたは祈る人になり
祈ることでまた生き直した
何度生き直せばいいのだろう
そう思いながら
寂しさだけがあなたの手を引いた
あなたは言葉を書いた
冬の積もる雪の中
骨に染み入る冷たさの中
太陽が熱射となってあなたが唐黷髓
本を読んで狽チた思考体系を総動員して
誰に読まれるでもない物語を紡ぐ
友
あなたの生まれつきの献身は
恵まれぬ友に注がれて
聖人の如く生きること
それが自分の使命であると
直感した
あなたは命について考える
あなたは祈りについて考える
あなたは太平洋の明るい青について考える
鳥が空を飛んでいたにも関わらず
あなたは川を見入っていたのだ
音楽が聞こえた瞬間
あなたの激しい本能が動く
自分では制御できない興奮を
色めきだったリズムに体ごと持っていかれる
あなたは静かに興奮し続け
前世の記憶が瞬時に蘇り
あなたの記憶から瞬時に消えた
誰かと会う
おいしいものを食べ
その喜びに
幸せを感じはするものの
誰かが「じゃあまたね」
と行ってしまうと
寂しさが襲うことは承知していると判っていても
常にその承知はあなたを叩いた
叩かれ続けた人生だ
言葉であなたは叩き返す
それは音楽の如く
リズムにまかせ
すべて体に宿った寂しさが根源だと
判っていても
寂しさが帳消しになるまで
まだ時間はかかる
あなたは打つ
あなたは叩く
打ち返し
叩き返す
喜びと寂しさの舟に乗って
川を下って海までゆくのだ
孤独の燃料が切れるまで
エンジンはまわり
舟は進む
疲れた
そう思ってあなたは言葉の舟に横たわる
エンジンを切ってみる
孤独が汗で吹き飛ばされて
燃料は切れる
ところが
エンジンは回っていないのに
舟はゆっくり進んでいる
惰性でも強い風が吹いているわけでもない
あなたは気づく
川が流れている
水が海に向かって流れている
舟は水に浮き
川の流れの力に乗って
ゆっくり進んでいることを知る
岸に向かってぶつかりそうになると
言葉の櫂で舵を切る
そんな技術さえ
自然に身に付け
舟は今日も進んでゆくのだ
海に向かって
祈りはあたなを助け
人を助けることも知った
知識は役に立たず
言葉の櫂を漕ぐだけが
本当の力になると判ってきた
けれどあなたは思考する
思考は海までの道しるべ
水路の地図になっていた
海まであと少し
海まで出たら
喜びと寂しさの舟で
もっと先までいくのだ
大波に打たれても
あなたの舟は沈まない
船底でたくさんの魚たちが
あなたの舟を持ちあげて
あなたを助ける
あなたがたくさんの祈りをささげただけの
恵みが今になって与えられ
一人あなたは櫂を漕ぐ
言葉の櫂で海原までも
潮の満ち引きの不思議も知って
月の煌々とした明かりの調べ
太陽のある空の色も
今になってわかってきた
あれは「青」だ
波の糸に操られ
言葉の櫂で漕いでゆく
たった一人で漕いでゆく
苦しんできた人生は
輝く水面の奥底に
ゆっくり沈み
魚たちの餌になる
あなたの背負った苦しみは
いずれ微生物になり
食物連鎖の輪に入り
やがて水となって
雨に変わって降ってきて
あなたの耳を濡らす
この雨は誰かの喜び
この雨は誰かの悲しみ
この風は誰かの怒り
この風は誰かの意志
祈り
櫂を漕ぎ
薄幸の友に届けとばかり
言葉の櫂を漕ぎまくる
あなたが以前求めた慈悲と
あなたが現在与える慈悲は
せめて与える分が越えてほしい
そう願いながら
愛を思い考えながら
太陽に帰ってゆくその日まで
あなたは生きる
喜びと寂しさの舟に乗って
言葉の櫂を漕いで
海原の光の中で
溶けてゆくまで
あなたは生きる
誰かのために
あなたのために
命をかけて
生きてゆく