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ボクは完全に失速していた。
ただぼんやりと目線を宙に泳がせたまま、時間の方がボクを追い抜いていった。
夏の抜け殻のような自分。深い海の底へ沈んでいるような感覚さえ覚えた。
4日続けて盛り場を歩く。
新橋の烏森口を抜けて「ビストロ UOKIN」に向かうつもりでいると、かつて「じゃんけんポン」があった店の雰囲気が違う。店名が「築地 かねまさ」になっており、新装していた。まだ新装して間もないという様子だった。
入口にはボブ・マーリィが描かれたドア。「やってます」という営業中を示す札がかかり、ボクはお店に入ってみることにした。
店はもはや「じゃんけんポン」のときとは全く雰囲気が違っていた。こざっぱりとしていていなせな感じが伝わってくるが、内容はそうではなかった。
カウンターの向こうにいるお兄ちゃんがたはお洒落な中折れハットを被っていた。築地と冠しているからには魚の仕入れが自慢なのであろう。だが、メニューからはそんな気概は見えてこなかった。BGMはボブではなく、テレビのニュースが流れていた。店名の「かねまさ」という硬派なイメージとはどこか違う、ちぐはぐな印象を覚えた。
カウンターに陣取り、生ビール(450円)と「ナムル」(300円)を頼んだ。
ビールはプレモル。「ナムル」は普通の豆もやしだった。
新橋の立ち飲み屋は進化を続けている。
本格的ともいえるビストロやイタリアンがオープンし、ワインバーも増えてきた。つまり本格志向になったといえる。特色のない店はその潮流の狭間で揺れる。どちらかに行かねばならないからだ。つまり、とことんオヤジ系か、それとも本格志向か。恐らく「じゃんけんポン」もその選択に迫られたのかもしれない。
チューハイ(350円)を頼んだ。
芋か、麦か、米をチョイスできるという。一瞬「本当だろうか」と疑い、「チューハイでそんなことができるの?」と再度聞くと「出来る」と断言した。ならば「麦でチューハイを頂戴」というと、しばらくして出てきたのは、単なる水割りだった。この昨日入社したばかりという男性は「チューハイ」というものがどういうものか知らなかったのだろう。
「まぐろの唐揚げ(世界の山ちゃん風)」(450円)なるものを頼んでみた。
だが、何が「世界の山ちゃん風」なのか分からない。若干スパイシーな気もするが、果たしてそれが言いたいのだろうか。それとも、「山ちゃん」のレシピ通りに作ったというのか。味は悪くなかったが、よく分からない代物だった。
今夜も酔えそうな雰囲気ではなかった。
この店に入ったことを後悔した。
店を出てニュー新橋ビルの前にあるフェンスに寄りかかっていると、ひとりの男が声をかけてきた。自分より少し若いだろうか。はじめはキャバクラの客引きかと思ったが、どうやらそうではないらしい。「一緒に飲まないか」と言う。酔っているふうではない。「いややめとくよ」とすげなく答えてもやけにしつこい。しまいには彼もフェンスに寄りかかり、自分に体を寄せてきた。
「じゃ、また」。と彼に言って、ボクは駅に向かって歩き出した。彼は追いかけてはこなかった。
電車に乗り込み、流れてくる車窓の景色を眺めて呟いた。
「寂しいんだね。誰もが」。
ただぼんやりと目線を宙に泳がせたまま、時間の方がボクを追い抜いていった。
夏の抜け殻のような自分。深い海の底へ沈んでいるような感覚さえ覚えた。
4日続けて盛り場を歩く。
新橋の烏森口を抜けて「ビストロ UOKIN」に向かうつもりでいると、かつて「じゃんけんポン」があった店の雰囲気が違う。店名が「築地 かねまさ」になっており、新装していた。まだ新装して間もないという様子だった。
入口にはボブ・マーリィが描かれたドア。「やってます」という営業中を示す札がかかり、ボクはお店に入ってみることにした。
店はもはや「じゃんけんポン」のときとは全く雰囲気が違っていた。こざっぱりとしていていなせな感じが伝わってくるが、内容はそうではなかった。
カウンターの向こうにいるお兄ちゃんがたはお洒落な中折れハットを被っていた。築地と冠しているからには魚の仕入れが自慢なのであろう。だが、メニューからはそんな気概は見えてこなかった。BGMはボブではなく、テレビのニュースが流れていた。店名の「かねまさ」という硬派なイメージとはどこか違う、ちぐはぐな印象を覚えた。
カウンターに陣取り、生ビール(450円)と「ナムル」(300円)を頼んだ。
ビールはプレモル。「ナムル」は普通の豆もやしだった。
新橋の立ち飲み屋は進化を続けている。
本格的ともいえるビストロやイタリアンがオープンし、ワインバーも増えてきた。つまり本格志向になったといえる。特色のない店はその潮流の狭間で揺れる。どちらかに行かねばならないからだ。つまり、とことんオヤジ系か、それとも本格志向か。恐らく「じゃんけんポン」もその選択に迫られたのかもしれない。
チューハイ(350円)を頼んだ。
芋か、麦か、米をチョイスできるという。一瞬「本当だろうか」と疑い、「チューハイでそんなことができるの?」と再度聞くと「出来る」と断言した。ならば「麦でチューハイを頂戴」というと、しばらくして出てきたのは、単なる水割りだった。この昨日入社したばかりという男性は「チューハイ」というものがどういうものか知らなかったのだろう。
「まぐろの唐揚げ(世界の山ちゃん風)」(450円)なるものを頼んでみた。
だが、何が「世界の山ちゃん風」なのか分からない。若干スパイシーな気もするが、果たしてそれが言いたいのだろうか。それとも、「山ちゃん」のレシピ通りに作ったというのか。味は悪くなかったが、よく分からない代物だった。
今夜も酔えそうな雰囲気ではなかった。
この店に入ったことを後悔した。
店を出てニュー新橋ビルの前にあるフェンスに寄りかかっていると、ひとりの男が声をかけてきた。自分より少し若いだろうか。はじめはキャバクラの客引きかと思ったが、どうやらそうではないらしい。「一緒に飲まないか」と言う。酔っているふうではない。「いややめとくよ」とすげなく答えてもやけにしつこい。しまいには彼もフェンスに寄りかかり、自分に体を寄せてきた。
「じゃ、また」。と彼に言って、ボクは駅に向かって歩き出した。彼は追いかけてはこなかった。
電車に乗り込み、流れてくる車窓の景色を眺めて呟いた。
「寂しいんだね。誰もが」。
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