
「スガコーヒー」という名前は、「喫茶 までい」のぷりんさんから聞いていた。
いや、そもそも「までい」のコーヒーが「スガコーヒー」から仕入れていたものだった。
くせのない味わいのすっきりとしたブレンド。
ぷりんさんは「ひとつの到達した味」と評価した。
多分もう、なかなか成田には来ないだろう。いや、成田山なら鰻を食べに、ふらりと出掛けるかもしれないが、駅から遠い飯田町や、ましてやもっと遠い橋賀台には来ないと思う。
今日行かなければ、「スガコーヒー」を訪れる日は永遠に来ないかもしれない。
そう思って、ボクは「スガコーヒー」を目指した。
店にたどり着くまでに、恐らくスガさんと思われる店主のことをあれこれ想像した。
成田の決して大きなマーケットではない場所で、ロースターをやるということ。これは並々ならない気持ちがあるはずだ。だが、勝負できる勝算を持って店を構える決心は、余程豆に自信を持っているのだろう。
その人物とは、どんな男なのだろうか。
店頭から、巨大なロースターが見えた。
一見すれば、コーヒー豆を販売する店には見えない。
店に入り、おそるおそる店の奥を覗いた。豆が飾られているショーケースのその向こうに彼がいた。
喫茶店の気難しいマスター風でもなく、スガシカオのような自由人なシャレオツでもなく、焙煎されたような、やや黒い顔に生気を讃えた老練ともいえるオヤジがいた。
刻まれたしわは深くはないが、コーヒー豆と同じような熟成した時間を過ごしてきたことは、容易に想像できる。決して、かっこいい風貌ではないが、生きてきた生きざまのようなオーラを発している。
その男を前にして、「スガブレンドを200g下さい」。そういうのが、やっとだった。
「スガブレンドね」。
ややくぐもった声で、彼は返事をした。
「あっ、ついでに一杯、ここでいただいていきます」。
店には、大きな円いテーブルがあり、その場で飲むことも可能なようだった。
ぷりんさんによると、スガさんは、かつて喫茶店を営んでいたという。
成田ニュータウンで、自信の豆を布教する男が淹れるコーヒーを飲んでみたいと即座に思った。
「座って、待ってて」。
店内には、浜省がかかっている。
もしかすると、スガさんは、浜省と同じ世代かもしれない。ジャズがかかる店が多い中、これは彼なりのアンチテーゼなのかもしれない。
「スガブレンド」は、昨今の深煎り全盛のローストと比べると、やや浅めである。苦味よりも、コーヒー本来の微かな酸味を感じさせる。
これも、今のコーヒーショップ界に抵抗しているようにも見える。
職人のハンドドリップは完璧だった。ぷりんさんのフレンチプレスによる抽出とは違う味わい。
満足なコーヒーだった。
ムラのない安定した味。長い旅路の末に辿り着いた極み。
コーヒー豆と職人の思念の融合。
ちなみに購入したコーヒー豆も素晴らしかった。
スタバの豆は、豆の屑なども混入されているが、「スガコーヒー」のそれには、屑は一切入ってなかった。
クオリティは技術だけでなく、心遣いにもあるようだ。
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