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その日、わたしは都電を使わずにJR三河島駅から荒川一中前駅を目指した。
立ち飲みラリーの都電編。
辛うじて、始発駅の三ノ輪橋を今はなき『世界本店』でやり過ごし、次の駅である荒川一中前に駒を進めたが、いかんせん三ノ輪橋で立ち飲み屋を探した折り、荒川一中前のエリアに足を踏み入れた際には、立ち飲み屋の影すら見つけることもできなかったのである。
正攻法でいっても、見つけることはできないだろうと思ったわたしはこの日、JR三河島駅から現場に向かったのだ。
銭湯の老舗「帝国湯」でひと風呂浴び、湯上がりを荒川一中前駅目指し、わたしは歩いた。
途中、思いもかけずに荒川仲町通り商店街という商店街に出くわした。立ち飲み屋はないかと目を凝らして探したが、結婚それらしいものを見つけることはできなかった。
やがて、荒川警察署の前に出ると辺りは急に暗くなり、ここが果たして区内なのかと疑いたくなるほど辺鄙な風景に変わる。それを見て、わたしは絶望感を感じた。
『この先、都電を回ってラリーは続けられるのか』と。
以前、コメントを寄せてくれた「若旦那」さんが指摘するよう、都電はやはり難しいのではないかと。
そう思いながら、しばらく歩くとやがて都電の駅に着いた。その小さな光を見つめているうちに、なんだか急に空しさを感じ、このまま都電に乗って盛り場まで出ようかと思いはじめたのだ。都電編を放擲して。
わたしはどっと疲れが押し寄せた体を引きずりながら早稲田行きの都電に乗ったのだった。
その後、わたしがふらりと降りた駅は「町屋」。
会社の取引先である印刷会社のS栄はこの町にあり、その社員のM氏から町屋の居酒屋は古くて味がある、ということを聞かされていたからである。
町屋の駅を降り、手当たり次第に歩いてみた。
すると、古くて味わいの深い、そして実に朴訥としている「もつ焼き屋」を発見したのである。
紺地の暖簾に「もつ焼き 小林」と染め抜かれている。店はすりガラスに隠れ奥を見渡せない。ともすれば、入りづらい雰囲気なのだが、その向こうに展開されるであろう下町の居酒屋の風景がどうしても気になる。
そこで、意を決してドアを開けると、やはりそこはカウンターだけの実に大衆居酒屋らしい風景が展開されるのである。
店は満員に見えた。だが、辛うじて奥にひとつだけ椅子が空いていたようで、店の奥様がわたしを案内してくれたのである。
わたしの席の前には大鍋で「煮込み」が煮られている。その大鍋の大きさが半端ではない。給食室で見たような相当の大きさのものだ。
早速、ビールと「串し煮込み」を頼んだ。
ビールはスーパードライの瓶、だが650円はちと高い。
煮込みは串つきのモツが5本供される。内容は「ハチのス」「がつ」「ふわ」「小腸」「オビ」。
何も言わなければ、これが出てくる。もちろんオーダーによって「ハチのス」を5本なんて頼み方もできるらしい。
さすが、大鍋で煮る煮込みはうまい。しっかりと足が沁みて実も柔らかだ。この柔らかさは大鍋でじっくり煮ているからに他ならない。
ご主人が時折、お湯と味噌を豪快に鍋に落とし、スープの注ぎ足しをしている。 この伝統の味はこうして長年かけて精製された特別なエキスの塊なのであろう。 ご主人のその手つきを厳しい眼差しで見つめる人がいる。少し年配の方は恐らく、先代ではないだろうか。
小林の味はしっかり今に伝えられている。
さて、『煮込み』の味もさることながら、『煮玉子』(90円)も忘れてはならない存在だ。出汁にしっかり色づいたそれは濃厚な味を醸しだす。ビールにも酎ハイにもぴったりなつまみだ。あまりのうまさにわたしは2個も注文してしまった。
店の雰囲気は悪くない。圧倒的に男性が多いが、決しておっさんばかりではなかった。中には若いカップルも少なくない。
店内も活気に満ちており、奥さんは客あしらいもよい。
わたしの背後の頭上には14インチのブラウン管テレビ。この日はボクシング世界戦、内藤大介の3度目の防衛戦が熱を帯びていた。
さて、ビールを飲み終え、次に『酎ハイ』(350円)に触手を伸ばした。
つまみは『冷奴』(270円)。頭上にあるメニュー表の値段の部分には白い紙を貼って料金を新たに書き直している。昨夏の食料価格高騰にあたり、同店も値段の改定を行ったのだろう。店主の苦渋の決断が窺える。
そのメニューに気になる一品を見つけた。
「つけめん」(500円)である。
それを見てはじめに思ったのは、「居酒屋が出すラーメンなんて…」と半ば馬鹿にしてしまったのだが、実は後日『東京居酒屋名店三昧』という本に同店が紹介されているのを発見し、「つけめんが絶品」ということが書かれてあった。
ガイドブックを見て流されるきらいのあるわたし。それを鵜呑みにするわけではないが、今では「つけめん」を食べなかったことに少し後悔している。
是非、次に来店する際は「つけめん」はしっかり抑えておこうと思う。
ちなみに同書によると、「串煮込み」を扱う店は、都内では既に5店舗だけになってしまったとのこと。「小林」は消え行く煮込みの伝統を守っている貴重な店のひとつのようである。
立ち飲みラリーの都電編。
辛うじて、始発駅の三ノ輪橋を今はなき『世界本店』でやり過ごし、次の駅である荒川一中前に駒を進めたが、いかんせん三ノ輪橋で立ち飲み屋を探した折り、荒川一中前のエリアに足を踏み入れた際には、立ち飲み屋の影すら見つけることもできなかったのである。
正攻法でいっても、見つけることはできないだろうと思ったわたしはこの日、JR三河島駅から現場に向かったのだ。
銭湯の老舗「帝国湯」でひと風呂浴び、湯上がりを荒川一中前駅目指し、わたしは歩いた。
途中、思いもかけずに荒川仲町通り商店街という商店街に出くわした。立ち飲み屋はないかと目を凝らして探したが、結婚それらしいものを見つけることはできなかった。
やがて、荒川警察署の前に出ると辺りは急に暗くなり、ここが果たして区内なのかと疑いたくなるほど辺鄙な風景に変わる。それを見て、わたしは絶望感を感じた。
『この先、都電を回ってラリーは続けられるのか』と。
以前、コメントを寄せてくれた「若旦那」さんが指摘するよう、都電はやはり難しいのではないかと。
そう思いながら、しばらく歩くとやがて都電の駅に着いた。その小さな光を見つめているうちに、なんだか急に空しさを感じ、このまま都電に乗って盛り場まで出ようかと思いはじめたのだ。都電編を放擲して。
わたしはどっと疲れが押し寄せた体を引きずりながら早稲田行きの都電に乗ったのだった。
その後、わたしがふらりと降りた駅は「町屋」。
会社の取引先である印刷会社のS栄はこの町にあり、その社員のM氏から町屋の居酒屋は古くて味がある、ということを聞かされていたからである。
町屋の駅を降り、手当たり次第に歩いてみた。
すると、古くて味わいの深い、そして実に朴訥としている「もつ焼き屋」を発見したのである。
紺地の暖簾に「もつ焼き 小林」と染め抜かれている。店はすりガラスに隠れ奥を見渡せない。ともすれば、入りづらい雰囲気なのだが、その向こうに展開されるであろう下町の居酒屋の風景がどうしても気になる。
そこで、意を決してドアを開けると、やはりそこはカウンターだけの実に大衆居酒屋らしい風景が展開されるのである。
店は満員に見えた。だが、辛うじて奥にひとつだけ椅子が空いていたようで、店の奥様がわたしを案内してくれたのである。
わたしの席の前には大鍋で「煮込み」が煮られている。その大鍋の大きさが半端ではない。給食室で見たような相当の大きさのものだ。
早速、ビールと「串し煮込み」を頼んだ。
ビールはスーパードライの瓶、だが650円はちと高い。
煮込みは串つきのモツが5本供される。内容は「ハチのス」「がつ」「ふわ」「小腸」「オビ」。
何も言わなければ、これが出てくる。もちろんオーダーによって「ハチのス」を5本なんて頼み方もできるらしい。
さすが、大鍋で煮る煮込みはうまい。しっかりと足が沁みて実も柔らかだ。この柔らかさは大鍋でじっくり煮ているからに他ならない。
ご主人が時折、お湯と味噌を豪快に鍋に落とし、スープの注ぎ足しをしている。 この伝統の味はこうして長年かけて精製された特別なエキスの塊なのであろう。 ご主人のその手つきを厳しい眼差しで見つめる人がいる。少し年配の方は恐らく、先代ではないだろうか。
小林の味はしっかり今に伝えられている。
さて、『煮込み』の味もさることながら、『煮玉子』(90円)も忘れてはならない存在だ。出汁にしっかり色づいたそれは濃厚な味を醸しだす。ビールにも酎ハイにもぴったりなつまみだ。あまりのうまさにわたしは2個も注文してしまった。
店の雰囲気は悪くない。圧倒的に男性が多いが、決しておっさんばかりではなかった。中には若いカップルも少なくない。
店内も活気に満ちており、奥さんは客あしらいもよい。
わたしの背後の頭上には14インチのブラウン管テレビ。この日はボクシング世界戦、内藤大介の3度目の防衛戦が熱を帯びていた。
さて、ビールを飲み終え、次に『酎ハイ』(350円)に触手を伸ばした。
つまみは『冷奴』(270円)。頭上にあるメニュー表の値段の部分には白い紙を貼って料金を新たに書き直している。昨夏の食料価格高騰にあたり、同店も値段の改定を行ったのだろう。店主の苦渋の決断が窺える。
そのメニューに気になる一品を見つけた。
「つけめん」(500円)である。
それを見てはじめに思ったのは、「居酒屋が出すラーメンなんて…」と半ば馬鹿にしてしまったのだが、実は後日『東京居酒屋名店三昧』という本に同店が紹介されているのを発見し、「つけめんが絶品」ということが書かれてあった。
ガイドブックを見て流されるきらいのあるわたし。それを鵜呑みにするわけではないが、今では「つけめん」を食べなかったことに少し後悔している。
是非、次に来店する際は「つけめん」はしっかり抑えておこうと思う。
ちなみに同書によると、「串煮込み」を扱う店は、都内では既に5店舗だけになってしまったとのこと。「小林」は消え行く煮込みの伝統を守っている貴重な店のひとつのようである。
今年も宜しくお願い致します!!!
m(__)m
立ち飲み屋探しを楽しみにしてます!!!!!
蕎麦屋でゆるりと年越しされましたか?
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
いつかは、どちらかの立ち飲み屋ですれ違いたいものです。
女子ひとりだと入りづらいかな?でもはいってみたいな。熊猫さんのブログを読んで、バーチャルで楽しんでます。(笑)
あけましておめでとうございます。
元旦はいかがお過ごしでしたか?
雪は降っていますか?
わたしは、子どもと近所の小さな祠に初詣し、ダイエーに買い物に行った程度のささやかな元旦を過ごしています。
今年もどうぞ拙文にお付き合いください。
よろしくお願いします。
ちなみにオヤジ系の立ち飲み屋で女性の一人客を見たのは一度もないです(笑)。
ご無沙汰してます!とんかちです!
今年はさぼりがちだったブログも
再開したいと思います!!
今年もよろしくお願いいたします!
そして、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
何度か、「何でも探偵団」にお邪魔しましたが、更新されない日々だったので心配しておりました。
昨年はドラゴンズに地力の差を見せ付けられ、カープはやはりBクラスに甘んじました。
今年はどんなペナントレースになるのでしょう。
楽しみがいっぱいですね。
草野球も活躍されていますか?
お互い切磋琢磨したい1年にしたいですね。
都電エリアは私にとってエアポケットのような存在です。町家では2軒ほど立ち飲み(らしき)ところを存じ上げてはおりますが、いかんせん行く機会がありませんでした。大塚とかも含めれば、回る価値がありそうなものなんですが・・。
ちなみに日暮里舎人線エリアも立ち飲みが皆無だそうですよ。ご参考までに。
本年もどうぞよろしくお願いします。
都電編が僅か2駅で立ち飲みラリーを断念しました。「荒川遊園」駅は子供とよく行くのですが、駅周辺に何もなく(昔ながらの駄菓子屋兼もんじゃ焼き屋はありますが)、梶原駅とか、今後ラリーを続けていく不安がありまして、断念に至りました。
確かに若旦那さんのおっしゃるとおり、「大塚」とか「早稲田」とか楽しみなエリアがあったのですが・・・。
いつか、また再開することをお約束します。
そして「なごみ」も。
ところで、急遽帰国とは。
若旦那さんは海外で暮らしていらっしゃるのですか?
また、暮れに回った立ち飲み屋がどこなのか。
非常に気になりますね~。
あ、もちろんドイツの立ち飲みも調査してますよ!(笑)
URLのところに拙ブログのアドレスを貼らせていただいたので、お時間ありましたらお読みいただけると嬉しく思います。ただ、この業界意外と狭いので、どこかの立ち飲み屋ですれ違っているかもしれませんよ。私は分かりやすい格好していましたから。
「なごみ」は椅子が入っているかもしれません・・発見したのは立ち飲みを始める直前、3~4年ほど前の学生時代の話ですので。。。
ドイツでの就職活動は大変だと思いますが、わたしには非常に若旦那さんをうらやましく思えます。
頑張って下さい!
ドイツの立ち飲み探しもまたうらやましいです。
ブンデスリーガでひいきチームの勝利を肴にビールを飲む。
そういう生活に少しあこがれます。
ブログ、拝見しました。
すごいですねぇ。
家に帰ってゆっくり読ませて頂きます。