
御徒町駅ガード下の「御徒町食堂」のシャッターに張り紙が出されている。
近寄って、斜め読みをすると、閉店する旨が書かれている。
「65年の歴史を閉じる」と。
たまたま、ボクは前年の暮れにお店で遅いランチをとった。
上野界隈で仕事をして10年近く経ったのに、実は初めてお店に入ったのだ。
ものすごく昭和な雰囲気は外観からも明らかだ。
「安くて、美味しい、良心的なお店」と書かれた店の看板。
店の外にあるガラスケースの蝋細工のメニューがレトロである。
虫が報せたのかもしれない。
ボクは、本当になんとなく店に入ったのだから。
「煮込みハンバーグ定食」(880円)を頼んだ。
定食のおかずは一品選ぶことができる。
「冷奴」
ものすごいボリューム感。だけどね、こんなに要らないとも思う。
その分、値段を700円台にしてもいいとも思う。
880円のランチは安くはない。
でもね。そう思っても、実際「煮込みハンバーグ定食」が出てきたときは、その考えを改めざるをえなかった。
デミグラスソースが秀逸なのだ。
深い慈悲のようなコクと香りがハンバーグの肉汁に溶けていくようだ。
様々なものが入り混じり、甘味と辛さが調和する。何時間も煮込まれたのだろう。いや、その煮込み方は戦後から脈々と受け継がれてきた灯のもとに続けられてきうたのかもしれない。
ぐつぐつと煮える音が、今まさに聞こえてきそうである。
ご飯がうまい。
丼飯にデミグラスをかけてみる。
それだけでもおいしい。
まさに65年の伝統がここにある。
ボクは、この定食を何気なしに食べた。「御徒町食堂」が歴史を閉じた今、その味に行きついた長く果てしない時間を思わざるを得ない。
それは、ひとつの完成形ともいえるものである。
戦後の昭和23年の創業。店舗はやはりこのガード下だったのか。
そんなことはもう分からない。
だが、世相とともに同店は歴史をずっと見ていた。いいことも悪いことも。
年末にかけて、名店が相次いで姿を消した。
神田のガード下「升亀」もそのひとつ。
時代の移り変わりといってしまえばそれまでだ。だが、伝統の味が途絶えてしまうことをボクらはしっかりと受け止めなければならない。
それは時間旅行そのものなのだから。
2013年をもって「御徒町食堂」はその長い歴史を閉じた。
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