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20年前、ショボい仕事をしていた頃、月に1度程度、川崎に出かける仕事があった。品川で京急に乗り換えるのだが、そこでボクは必ずお昼ごはんにカレーを食べた。確か山手線のホームを昇ったところ、恐らく現在書店があるところにおいしいカレー屋さんがあった。今はもう駅がきれいになり、洒落た店ばかりになったが、当時はどぶねずみが歩いていそうな汚い構内だった。駅を降りると、すぐにカレーの匂いがした。品川駅はカレーの匂いで充満していたといっても大げさではない。
港南口の立ち飲み屋「かすが」を早々に退去したボクとMJは、気が付けば、品川駅の京浜東北線ホームの立ち食い蕎麦屋にいた。帰り際、ボクがカレーの匂いをかぎつけたのを察して、「入ろうよ」と言ってくれた。
その立ち食い蕎麦屋「常磐軒」から漂うカレーの香りは、あの頃嗅いでいた品川の匂いにそっくりだったのだ。
20年前のあの店が、この常磐軒であったかは分からない。
でも、半世紀以上も前から品川駅で弁当業を営み、蕎麦屋などの仕事をしていたのだというから、もしかするとボクが好きだったカレーと同一のお店かもしれない。
ともあれ、ボクらはその掘立小屋に入った。
4畳半もないそのスペースに立ち、ボクらは「カレー」(480円)と「ビール」(300円)の食券を買った。
ビールはスーパードライの缶ビール。
どう見ても変哲のないオーソドックスなカレーが鉄のプレートに供されボクらの目の前に出された。
だが、一口食べて確信した。
これは20年前、ボクを魅了したカレーに間違いないと。
蕎麦屋のカレーはおいしいという。そばつゆの出汁が隠し味になっているからだ。
だが、最近「富士そば」をはじめとする、ファストフード蕎麦屋の趨勢は、レトルトカレーだ。非常に由々しき問題だが、この常磐軒は違った。本格的なカレーがそこにあった。
夜も更けて、カレーを食べる。〆がカレーというのもなかなかいいものだ。
常磐軒は立ち飲み屋ではないが、蕎麦や丼ものをつまみにして飲むビールはなかなか頼もしく、立ち飲み屋以上に楽しめる。
酒が缶ビールだけとは寂しいが、それも駅のホームの店では致し方ない。
品川駅はすっかりメトロポリタンな街になったが、こうして今も昭和のカレーがしっかりと受け継がれている。
昭和のカレー。
遠い子どもの頃の記憶をたどれば、多くの者が思い出すカレー。
遊び疲れて家路を急ぐとどこからともなく薫りたつカレーの匂い。それが自分の家から漂ってきたことが分かると嬉しくなったあの記憶。
ボクらを魅了してやまなかったカレーの薫り。それが今も品川駅に息づいている。
その日は、よっぽど気持ちよく飲めてたんだろうねえ、お疲れ様でした。
若い頃、明け方に「久松」(小樽)のラーメンを食った頃を思い出したよ。
本当は、品川駅はカレーの匂いで充満している話しで終始しようと思っていたら、勝手にストーリーが昭和のカレーの方向に。
なんか、導かれたんだと思います。
カレーの神様に。
そして、カレーというものが、実はわたしたちの心のよりどころのひとつではないかとも感じるのです。