
アクトシティオークラの展望台から眺める浜松市内の夜景は最高だった。東京と違って恐ろしいほど平坦だ。およそ高層のビルなどない。そのため、ずっとずっと遥か向こうの方まで見渡せる。灯りの一つひとつがくっきりと店頭しており、その粒も極めて細かかった。
そんな興奮があったのだろう。
わたしは、展望台を降りると、ひとりでホテルを出て、風の向くまま酒場を探しに出たのだった。
既にわたしは酔っていた。
㈱Iサカが催すB研の懇親会ですっかり飲んでしまったからだ。
中でも、静岡営業所の勤務が長いS藤さんの飲み方が参考になった。
彼はビールを飲み終えると、酎ハイに切り替えたのだが、その酎ハイが緑色をしている。これは何か、とわたしが尋ねると、彼は「緑茶割りだ」と答えた。静岡県民の多くが愛飲するらしい。
わたしもそれに倣って飲んでみると、これがなかなかいけるのである。
つい調子に乗って3杯も飲んでしまったのだ。
そんなわけで、既にかなり飲んでいるにも関わらず、まだわたしはこの期に及んで飲みに出かけるのである。
ホテルを出て適当に歩いたら、すぐさま繁華街に出た。この辺は飲兵衛の嗅覚といったところだろうか。
とりあえず、一番近くにあった居酒屋を覗いてみると、店員とすぐさま目が合った。その瞬間、店員は少し慌てたような仕草をして、わたしに「どうぞ」とオーバーにゼスチュアした。わたしは、ゆっくりと店内を見渡すと、なるほど客が全然いない。木曜日の9時に人が入っていない、というのは致命的だ。わたしは、店員と 二度と目が合わないように退散した。
すると、すぐその隣がもう居酒屋だった。
少し、瀟洒な作りの純和風な酒場だ。
「ちょっと高そうだナ」と思ったが、また酒場を探すのも面倒だったので、入ってみることにした。
木の重厚なドアを開けて、わたしは店内に入った。
店の中も洒落た雰囲気だった。
右手に厨房。厨房の縁にカウンターがしつらえ、左手はテーブル席。店の奥は座敷になっているらしい。古民家風とまではいかないが、どこか日本家屋を連想させる店構えだ。
客も若いのからおっさんまで年齢層は問わない。
わたしは、カウンターの一番奥に座り、目の前の黒板を眺めた。「今日のお奨め」が手書きで記入されたいたのだ。黒板に記された酒肴には、しっかりと水揚げされた港の名前や産地がしっかりと書かれてあった。わたしは、その中から「めじな」の刺身を貰うことにした。伊豆で獲れたとあった。おこで、近くに居た男性に「めじな」を頼み、その刺身に最も合うお酒を頼んだのであった。
すると、男性は少し考えた様子でどでかい冷蔵庫へと歩み寄り、素早い手つきで、冷蔵してある一升瓶をとっかえひっかえ出しては、幾つか候補をあげ、最終的に1本の瓶を取り出して、わたしの目の前に差し出したのである。
それは、「田酒」(西田酒造店)だった。
青森の出身のわたしは、随分前から、この酒の存在を知っていたが、この酒がこんなに人気があるとはまったくもって最近知ったのである。
さて、肴と酒が運ばれ、早速わたしは口にしてみた。
これが、またうまいのである。
さしみと酒のチョイスがやはり絶妙なのだ。
ほのかな甘みが刺身と醤油に溶けるように旨みが倍増していく。
なんとも大事に大事に食べてあげたい、そんな気分になる組み合わせなのだ。
実はわさびもやはり伊豆修善寺のもののようだ。
しっかりと鮫肌ですりおろされたようで、粒がしっかりと残っている。辛味も断然違う。
「田酒」を1合堪能して、次の酒を貰うことにした。
「今度は辛口の奴を」
と先ほどの男性に頼むと、またしても冷蔵庫から手早く一升瓶をシャッフルしながら、厳選した酒瓶を抱えて戻ってきた。
その酒のラベルには「特別純米酒 國香」(國香酒造)と書かれている。袋井市の蔵元さんである。近年、めきめきと評価をあげる静岡県産の日本酒。その中にあって、この「國香」もやはり一癖あるのだろうか。
期待に胸を躍らせながら、早速口をつけてみると、その期待に違わず、とってもおいしいのである。
やや薄いような気もするが、味はしっかりと辛口。飲み込めば飲み込むほどにうまくなっていくようだ。
その思いをストレートに店員の男性にぶつけると、男性は相好を崩して喜んだ。
そして、彼はこんなことを言うのである。
「わたしは、酒は飲めませんが、かえってそれがいいのかもしれません。一通り酒を舐めてみて、的確に味を判断できました」と。
なるほど、かえって酒を飲めないことで鋭敏に味を峻別できるのか。
漫画「五百蔵酒店物語」(原作=小堀洋、漫画=西岡恭子)にこんなシーンがある。
酒が飲めない主役に対し、その母親が放った言葉である。
「日本酒を売るということは、知識じゃないの。自分の目で見、舌で味わい、それをどれだけ正確にお客様に伝えられるかなのよ。一滴もお酒が飲めないあんたにそれができるの」
この店員の男性の場合、一滴も飲めない、というわけでもないようだが、お酒が飲めない人が酒を売れない、というわけではなさそうだ。少なくとも、この店員の方は逆にそれを武器にした。
それが、とにかく素晴らしい!
一通り飲んで、最後に〆とした。
「ホルモンの味噌煮込み」。
煮込み好きとしては、どうしても「煮込み」を食べていかないと気がすまなかったのである。
だが、これは完全に失敗した。
既に、わたしはお腹がいっぱいだったというのもあるだろう。
こってり味噌風味のホルモンを見た瞬間、お店の方をはじめ、された牛には申し訳ないが、げんなりした、というのが正直な感想だ。
しかし、わたしは本当にお腹がいっぱいだったのだろうか。
実は、店を出てホテルに帰る道中、浜松駅近くでラーメンが密集するエリアを発見。その「べんがら横丁」にある「竈」というラーメン屋でしっかりラーメンと生ビールを飲んでホテルへと戻ったのである。
あ~後悔!
出張に行くと、どうも食生活が乱れてしまう。
自己嫌悪だ~!
もとい、それにしても「居酒屋 出世」。いい酒場に出会えたと思う。
間違って、隣のお店に入っていたとしたら、わたしはこんな充実感に浸れなかっただろう。
http://blog.goo.ne.jp/kumaneko71/e/92e9fec27e4ca652f12ec7ade71d3206
そんな興奮があったのだろう。
わたしは、展望台を降りると、ひとりでホテルを出て、風の向くまま酒場を探しに出たのだった。
既にわたしは酔っていた。
㈱Iサカが催すB研の懇親会ですっかり飲んでしまったからだ。
中でも、静岡営業所の勤務が長いS藤さんの飲み方が参考になった。
彼はビールを飲み終えると、酎ハイに切り替えたのだが、その酎ハイが緑色をしている。これは何か、とわたしが尋ねると、彼は「緑茶割りだ」と答えた。静岡県民の多くが愛飲するらしい。
わたしもそれに倣って飲んでみると、これがなかなかいけるのである。
つい調子に乗って3杯も飲んでしまったのだ。
そんなわけで、既にかなり飲んでいるにも関わらず、まだわたしはこの期に及んで飲みに出かけるのである。
ホテルを出て適当に歩いたら、すぐさま繁華街に出た。この辺は飲兵衛の嗅覚といったところだろうか。
とりあえず、一番近くにあった居酒屋を覗いてみると、店員とすぐさま目が合った。その瞬間、店員は少し慌てたような仕草をして、わたしに「どうぞ」とオーバーにゼスチュアした。わたしは、ゆっくりと店内を見渡すと、なるほど客が全然いない。木曜日の9時に人が入っていない、というのは致命的だ。わたしは、店員と 二度と目が合わないように退散した。
すると、すぐその隣がもう居酒屋だった。
少し、瀟洒な作りの純和風な酒場だ。
「ちょっと高そうだナ」と思ったが、また酒場を探すのも面倒だったので、入ってみることにした。
木の重厚なドアを開けて、わたしは店内に入った。
店の中も洒落た雰囲気だった。
右手に厨房。厨房の縁にカウンターがしつらえ、左手はテーブル席。店の奥は座敷になっているらしい。古民家風とまではいかないが、どこか日本家屋を連想させる店構えだ。
客も若いのからおっさんまで年齢層は問わない。
わたしは、カウンターの一番奥に座り、目の前の黒板を眺めた。「今日のお奨め」が手書きで記入されたいたのだ。黒板に記された酒肴には、しっかりと水揚げされた港の名前や産地がしっかりと書かれてあった。わたしは、その中から「めじな」の刺身を貰うことにした。伊豆で獲れたとあった。おこで、近くに居た男性に「めじな」を頼み、その刺身に最も合うお酒を頼んだのであった。
すると、男性は少し考えた様子でどでかい冷蔵庫へと歩み寄り、素早い手つきで、冷蔵してある一升瓶をとっかえひっかえ出しては、幾つか候補をあげ、最終的に1本の瓶を取り出して、わたしの目の前に差し出したのである。
それは、「田酒」(西田酒造店)だった。
青森の出身のわたしは、随分前から、この酒の存在を知っていたが、この酒がこんなに人気があるとはまったくもって最近知ったのである。
さて、肴と酒が運ばれ、早速わたしは口にしてみた。
これが、またうまいのである。
さしみと酒のチョイスがやはり絶妙なのだ。
ほのかな甘みが刺身と醤油に溶けるように旨みが倍増していく。
なんとも大事に大事に食べてあげたい、そんな気分になる組み合わせなのだ。
実はわさびもやはり伊豆修善寺のもののようだ。
しっかりと鮫肌ですりおろされたようで、粒がしっかりと残っている。辛味も断然違う。
「田酒」を1合堪能して、次の酒を貰うことにした。
「今度は辛口の奴を」
と先ほどの男性に頼むと、またしても冷蔵庫から手早く一升瓶をシャッフルしながら、厳選した酒瓶を抱えて戻ってきた。
その酒のラベルには「特別純米酒 國香」(國香酒造)と書かれている。袋井市の蔵元さんである。近年、めきめきと評価をあげる静岡県産の日本酒。その中にあって、この「國香」もやはり一癖あるのだろうか。
期待に胸を躍らせながら、早速口をつけてみると、その期待に違わず、とってもおいしいのである。
やや薄いような気もするが、味はしっかりと辛口。飲み込めば飲み込むほどにうまくなっていくようだ。
その思いをストレートに店員の男性にぶつけると、男性は相好を崩して喜んだ。
そして、彼はこんなことを言うのである。
「わたしは、酒は飲めませんが、かえってそれがいいのかもしれません。一通り酒を舐めてみて、的確に味を判断できました」と。
なるほど、かえって酒を飲めないことで鋭敏に味を峻別できるのか。
漫画「五百蔵酒店物語」(原作=小堀洋、漫画=西岡恭子)にこんなシーンがある。
酒が飲めない主役に対し、その母親が放った言葉である。
「日本酒を売るということは、知識じゃないの。自分の目で見、舌で味わい、それをどれだけ正確にお客様に伝えられるかなのよ。一滴もお酒が飲めないあんたにそれができるの」
この店員の男性の場合、一滴も飲めない、というわけでもないようだが、お酒が飲めない人が酒を売れない、というわけではなさそうだ。少なくとも、この店員の方は逆にそれを武器にした。
それが、とにかく素晴らしい!
一通り飲んで、最後に〆とした。
「ホルモンの味噌煮込み」。
煮込み好きとしては、どうしても「煮込み」を食べていかないと気がすまなかったのである。
だが、これは完全に失敗した。
既に、わたしはお腹がいっぱいだったというのもあるだろう。
こってり味噌風味のホルモンを見た瞬間、お店の方をはじめ、された牛には申し訳ないが、げんなりした、というのが正直な感想だ。
しかし、わたしは本当にお腹がいっぱいだったのだろうか。
実は、店を出てホテルに帰る道中、浜松駅近くでラーメンが密集するエリアを発見。その「べんがら横丁」にある「竈」というラーメン屋でしっかりラーメンと生ビールを飲んでホテルへと戻ったのである。
あ~後悔!
出張に行くと、どうも食生活が乱れてしまう。
自己嫌悪だ~!
もとい、それにしても「居酒屋 出世」。いい酒場に出会えたと思う。
間違って、隣のお店に入っていたとしたら、わたしはこんな充実感に浸れなかっただろう。
http://blog.goo.ne.jp/kumaneko71/e/92e9fec27e4ca652f12ec7ade71d3206
お酒にとーーっても弱くて、お猪口数杯が限度という方がおります。
でも、造りに関する感覚、舌、五感は、本当に素晴らしいんです。
「飲めればいい」ってモノではなくて、
「一舐めして、瞬時に全体を理解する」っていう能力を持っているのって、
すごいなぁって思います。
人はそこまで鋭敏な味覚を持てるんですかねぇ。
目が不自由な方は心眼のようなものを持っているというし、飲めないが故にそれを武器にする。逆転の発想ですね。
松ちゃん!
それは、まるでガンプラのような抱き合わせじゃないか。ガンプラとロボダッチを買わせる悪徳商法。それが青森で行われているっていうのが、なまじ現実的で怖いよ。
田酒には独自の酒米を使って作ったものがあるって聞いたけれど、松ちゃんが買ったのって、もしかしてそれ?
是非、飲んだ感想を寄せてください。
浜松町の今はなき「楓」で飲んで、松ちゃんチに行ったんだよね。
松ちゃんと奥様、そしてUさんにオレ。
すっごい飲んだなぁ。
あの時飲んだのが「田酒」?
それはもう覚えていないなぁ。
ゴメン、大切な酒をがぶがぶ飲んでしまって。
でも、あの晩は楽しかったなぁ。
翌日、仕事に行ったんだけれど、京成線に乗っている途中で気分が悪くなって、押上で降りてウチに帰ったよ。飲み過ぎたね、あの晩は。