ボクは約束をしていた。
彼女との約束。
会社の納会が終わり、ボクは新橋に行った。まだ約束の時間には早い。
見慣れた新橋界隈を歩くと、知らない立ち飲み屋を見つけた。新橋の立ち飲み屋を制覇したつもりだったが、まだ知らない立ち飲み屋をいともたやすく見つけてしまうなんて。
「根室食堂」。
海鮮系の酒場のようだ。
港の市場をイメージした、産直海鮮系。
生ビールを注文した。
プレミアムモルツが運ばれてきたときは少しがっかりした。魚にはホップの強いビールは合わない。いや、焼き魚ならまだしも、刺身で食べる魚に香りの強いビールはNGだと思う。これまでの日本のビールが苦みを追究してきたのは必然である。それは、和食に合わせるためのビールではなかったのかと。ついでにいえば、刺身にハイボールも合わない。つまり、魚系にサントリーは合わないとボクは主張したい。
そうはいっても、この店に来たからには、まずは刺身をとっておくべきと思い、いくつか頼んでみた。あぁ、やっぱり相性がよくない。強いホップの香りが、魚の味わいを打ち消してしまうようだ。あまつさえその状況なのに、この刺身ときたら、そのうえパサパサしている。ん?作り置きしているのか。
そう、客はボクだけだった。時計は19時をまわり、その後40分ほど、店にいたが、結局ボク以外の客は一人も現れなかった。
確かに、この日は仕事納めではあったが、それにしてもこの閑散ぶりはどうだろう。新橋にある立ち飲み屋とは思えない光景だった。
この店には食べたいと思うアテがなかった。
そして、ボクにも行く当てがなかった。だから、ボクは一人寂しく歌を唄う。心の中で。
今夜、彼女は来ないらしい。
寒い寒い年の瀬の夜。
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