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居酒屋さすらい 1936 - ゴッドマザー - 「一生(いっき)」(北区王子本町)

2022-08-19 13:13:18 | 居酒屋さすらい ◆東京都内

娘が通う学校の面談のため、滝野川を訪れる。自分にとって、滝野川はほぼ未開の地だった。ドナルドキーンさんが住んでいたという商店街に行ったことはないし、ソースメーカーの老舗、トキハソースの工場は見たことがない。この日は滝野川を探検したかった。ところが、区役所に書類を取りに行かねばならず、滝野川を離れ、王子本町へ。だから、酒場は王子本町で探すことにした。

北区の区役所は本郷大地にある。彼らの通勤は主に、JRだから必然的に駅周辺に集まる。王子は本郷大地を降りた岸町、王子に密集している。「平澤かまぼこ」然り、「山田屋」然り。一方、王子本町で酒場はとんと見かけない。今日はその王子本町を探検する。

王子新道を西へ。真っ直ぐ行けば板橋区。酒場の匂いは一切ない。途中、町中華を見つけた。肝心の酒はあるのか。外から中の様子を窺うが、店内がよく見えないので、諦めた。もう少し歩くと赤提灯が見えた。まさか、酒場じゃないよなと疑いながら近づくと、提灯には「居酒屋」、看板には、「酒と食事」と出ている。店名は「一生」。「いっしょう」と読んだが違うらしい。「いっき」とルビが振られている。この先、酒場はもう見込めない。ここに酒場があるのも奇跡かもしれない。入ってみよう。

お店に入って、更に驚いた。高齢のお母さんが店を営んでいたからだ。

カウンターに座り、まじまじとお母さんを見る。80代かな。いや、もしかすると90代かもしれない。背中はやや曲がっているが、動きもシャープでお元気そうだ。

「瓶ビールをください」とお母さんにお願いした。お母さんは常連さんへの対応で忙しくしており、「ちょっと待っててね」と言った。しばらく待つと、お母さんは自分の背後まで来て、そこにある冷蔵庫から瓶ビールを出して、自分の前に置いた。なんだ、冷蔵庫はそこか。言ってくれれば、自分で出したのに。なんだかお母さんに申し訳ない。

やがて、お通しも出てきた。お煮しめと磯辺揚げ。恐らく、お母さんの手作りだろう。

さて、いただきます。

お店には様々なメニューがあった。

「カツカレー」(650円)、「もつ煮込み」、「とりからあげ」、「たこからあげ」(450円)、「あじフライ」、「チヂミ」などなど。メニューの数は多くて、いずれも食欲をそそる。だが、ここで疑問が浮かんだ。失礼ながら、お母さんが、これらの料理に対応してくれるのだろうか。それとも、何かローカルルールがあるのだろうか。もう少し様子を見よう。

テーブル席には常連さんがいた。

その常連さんは一升瓶をテーブルに置き、飲んでいた。やがて、そのテーブルに料理が運ばれた。お母さんがこしらえたものである。とりあえず、何かは作ってくれるみたいだ。

では、何かを注文しようと思案した。

すると、男女の客が入ってきて、奥のテーブル席についた。自分らでセッティングしているところをみると、常連さんらしい。お母さんに一言二言、何かを言っている。すると、お母さんは、その準備に取り掛かった。どうやら、タイミングを逸してしまったようだ。

お母さんは恐らく何十年もお店を切り盛りしてきたベテランだろう。だから、マルチタスクなんかはお手のものだとは思う。「お母さん、大丈夫かなぁ」と自分が思うことは、大変失礼なんだとは思うし、何も頼まないで帰るのも、これまた礼を失しているような気がした。ただ、お母さんはその後も料理に忙しくしており、これはちょっと一見の自分は出ていった方がいいかなと思い、席を立った。

お会計は770円だったか。

800円を支払うと、お釣りが50円きた。

「ごめんね、お客さん」とお母さんが言った。

「いえ、何も謝らなくても。こちらこそ、何も頼まずにすみません」と謝った。

多分、お釣りはお母さんの気持ちだったのかしれない。お釣り多いですよとは敢えて言わなかった。むしろ、お釣りは要らないですと言えなかった自分を恥じた。まだまだ、酒場の修業が足りないな。このお母さんからすれば、自分なんて、子ども、いや孫のようなものかもしれない。

お母さんがずっとお元気でお店をきりもりできますように。

お店を出ていくとき、自分の心の中で、「ゴッドファーザー」の曲が流れた。それは、「愛のテーマ」である。

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