芦屋を歩き、深江の人口島を徒歩で往復して、すっかりボクは疲れてしまっていた。
しかも、飲まず食わずのまま、ようやく仕事から解放されたのが15時半だった。
この時間から開いてる酒場に期待をしていなかった。何しろ、芦屋の隣の駅だ。秩序や風紀を乱すものなど、あるわけがない。
今回は、手っ取り早く、ケータイで検索した。
すると、意外にも検索に引っかかった店は立ち飲み屋だったのである。
「いろり」という名の立ち飲みに、ボクはかなりディープで通好みな店を想像した。だが、店に入ってみると、場違いとも思える美人な女性が迎えてくれた。
圧巻だった。
しゃべることにすら、ドキドキしてしまいそうな美女だった。
モデルか、はたまた女優さんか、とにかく、「いろり」という立ち飲み屋のママに納まるような人ではないと思ってしまう。
何かわけがありそうな、しかし、そんなことは口に出すことも憚られるような、ちょっと怖いわけがあるのだろう。
そんな美人に迎えられて、ボクは立ち飲みのポジションへと着いた。すでにひとりの客がおり、ボクは、その客とは少し離れて陣取った。
生ビールが350円。これはいい。
メニューをみると、たいていのものが300円台になっている。
ビールと「砂肝炒め」(300円)を美人ママにオーダーした。
すると、ママは厨房に引っ込み、酒肴を準備し始めた。ひとりで切り盛りしているようだ。決して、飾り窓ではないことがわかった。
ビールはスーパードライ。小ぶりのジョッキで、ボクは立て続けに2杯を飲み干した。喉がカラカラだった。
しばらくすると、もうひとりの客が話しかけてきた。
このおじさんも、浮き世離れしたわけありの男のように見えた。何しろ、平日の昼間から、酒を飲んでるくらいである。ご隠居という風ではなく、まだまだ現役の年齢のようだ。
だが、話しを聞くと堅気の人かなとも感じた。ボクが東京から来たことを話すと、娘が東京にいると言った。三鷹で一人暮らしをしていて、こないだ様子を見に行ったという。娘さんに対する愛情が垣間見えた。
ボクが酎ハイを頼むと、おじさんは、この店のおすすめの酒肴を教えてくれた。
「鳥刺しはね、絶対に食べなよ」。
その進言通り、「鳥刺し」を頼むと、新鮮そうな色艶のいい鳥刺しの盛り合わせが出てきた。
ささみにレバー、もう一品の赤いのは何だろう。3種類の肉がきれいに鎮座している。早速いただくと、これが絶妙だった。
本当においしい。臭みがなく、新鮮な状態で血抜きしたことが分かる。これはそんじょそこらで仕入れられるものではない。この店が仕入れに力を入れていることがよく分かった。
店に入ったときは、絶世の美女の飾り窓的な店かと感じたが、さにあらず。
仕入れと値段にこだわった戦略的な立ち飲み屋である。
そして美人ママ。
店が近所にあったら、ボクは週2で通うだろう。
かつて、西明石駅前の「どりーむきっちん」という立ち飲み屋に入ったことがある。この店も美人ママが切り盛りしていた。兵庫県には美人ママの立ち飲み屋がやけに多い。
俺はそういうタイプなんだけど、最近そういうドキドキ体験、ないなあ・・・。久々にそんな美人ママとかに会いたいよ・・・。
いろいろと不純なことを考えたりして、何か裏があるのではないかと。
できれば、立ち飲み屋はおばちゃんがやっていてほしい。ざっけない店のほうが落ち着くもんね。
美人だと、やっぱカッコつけちゃうんだよなぁ。