「波の谷間に命の花がふたつ並んで咲いている」
ご存知、「兄弟船」は鳥羽一郎さんのデビュー曲だが、眼前の風景は厳想な小樽湾をうたっているように見える。
北の海の波はどこかはかなくて、そして厳しさを見るものに感じさせる。
思えば遠いところにボクはいるのだなと思う。
そして、この見慣れない電車に乗って、見慣れない人たちと見慣れない駅をながめている自分に気づく。
ボクは今、カニを買いに電車に乗っている。
カニを買いに。多分、42年の人生で初めての経験だ。
でも、なんだかワクワクしている。
東京ではなかなか経験できない買い物だ。
前日、小樽の兄貴、みーさんと「魚一心」で酒を酌み交わし、カニを買うなら、「魚一心」の大将のお兄さんがやっている店で買うのがいいとアドバイスを受けた。
そのお兄さんのお店が新南樽市場にあり、ボクは今その市場へと向かっているのだ。
新南樽市場の一番奥にある「西村鮮魚店」。
「赤いシャツを着た人がお兄さん」とみーさんが紹介してくれたとおり、本当に赤シャツでお兄さんはいた。
だが、残念ながらカニはなかった。
前日、海が時化ていたせいで船が出ず、カニはこの日お店には並んでいない。
お兄さんは、「う〜ん」とボクのために頭を抱え、なんとか手を尽くそうとしてくれた。
でも、最終的に下した判断は、「モノが悪いのは出せないな」だった。
いいモノしか売らないという姿勢に、ボクは感動をした。
カニは買えなかったけれど、ここまで来たかいは十分あったと思った。
せっかくだから、新鮮な刺身を食べていこうと思い、市場にある「深沢食堂」で「刺身定食」(600円)を頼んだ。
お店にビールがないとのこと。お店のおじさんは、数軒先の酒屋さんで「買ってきて」という。持ち込みOKらしい。
早速、ビールを買いに行き、「サッポロ・クラシック」をGET!
「深沢食堂」に戻り、新鮮な刺身を肴にビールをいただく。
イカ、はまち、ぼたん海老、鮭にまぐろ、いずれもまだ磯の香りがするようで、しばしボクは呆然となる。
「陸にあがって酒のむときは、いつもはりあう恋敵」
この魚の背景には、どんなドラマがあるのだろう。
市場の若干潮くさい空気に包まれながら、ボクは刺身を食べ、ご飯をかきこんだ。
「マジでうまい!」
刺身一片でご飯3口。
刺身を引き立てる専用の醤油が素晴らしい。いわゆる、たまりなのだが、大阪以西にあるたまり醤油とは少し違う。
もう少しあっさりとしているのだ。
ご飯を撃沈させ、味噌汁ととともに、お代わりをした。
ビールは残念ながら1本しか買わなかったので、ビールは封印させ、飯とおかずに集中した。
刺身とご飯がよくあう。
わしわしと2杯のごはんを平らげて、まだ物足りなかったが、残念ながらもはや刺身はなかった。
「おれと兄貴のよ、夢のゆりかごさ」
新南樽市場に咲く、小売とお料理の深沢アンサンブル。
このお店の定食には、ドラマを感じる。
魚市場にある飯屋とか、近いとこにある飯屋の魚って、まあほぼ間違いないよね。
やっぱ魚は、なにより新鮮なものが一番旨いもんね。
ただ最近、寝かせた方が旨くなる魚もあることが分かってきてるらしい。しかしこれは、菌の管理や冷蔵技術、そして美味しさについての科学的研究が発達したからこその発見だろうね。
しかし、カニを買えなかったのは残念だったね。北海道のとれたてのカニ、それも地元のプロがオススメするのは、メッチャ美味いだろうねえ。
港はいいね。
昨日の夕方のニュースで千葉の港グルメ特集してたけど、港の市場巡りは楽しそうだよ。