訓練生は県内はもちろんのこと、遠くは九州からも来ている。
ある年のこと、南九州からセンターに入所する予定の女性が父親の反対で入所を諦
めることになった。
その連絡を聞いて片山は残念でならなかった。
というのも面接をした時の彼女の目の輝きを忘れられなかったからだ。
とにかく、もう一度会って意思を確かめてみよう。
そう考えた次の瞬間にはもう車のハンドルを握っていた。
10時間後、片山は彼女の父親を前にセンターの目指すところや訓練内容を説明して
いた。
その語り口は熱っぽくという感じでも、説得調という感じでもなく、ただ、あり
のままをきちんと伝えるという感じだった。
「彼女の人生は彼女のものです。彼女の意思を尊重してあげませんか」
父親が反対していたのは娘を思う親心からだった。
いままで地元から離れたことのない娘が、自分の目の届かない遠方に行って生活で
きるのだろうか。
当の本人以上に親の方が不安だったのかもしれない。
しかし、片山と話すうちに、この人になら預けて大丈夫かもしれない、そう思い始
めていた。
「お父さん、私、吉備に行きたい。行かせて」
それまで襖の向こうでやり取りを聞いていた彼女が涙ながらに、そう父親に訴えた。
九州まで来たことはムダではなかった。
彼女の言葉を聞いた瞬間、片山は疲れが飛び、心が軽くなるのを感じた。
片山自身も励まされていたのだ。
「一人ひとりの訓練生との間に数知れないドラマがあります」
と、片山は目を細めた。
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ある年のこと、南九州からセンターに入所する予定の女性が父親の反対で入所を諦
めることになった。
その連絡を聞いて片山は残念でならなかった。
というのも面接をした時の彼女の目の輝きを忘れられなかったからだ。
とにかく、もう一度会って意思を確かめてみよう。
そう考えた次の瞬間にはもう車のハンドルを握っていた。
10時間後、片山は彼女の父親を前にセンターの目指すところや訓練内容を説明して
いた。
その語り口は熱っぽくという感じでも、説得調という感じでもなく、ただ、あり
のままをきちんと伝えるという感じだった。
「彼女の人生は彼女のものです。彼女の意思を尊重してあげませんか」
父親が反対していたのは娘を思う親心からだった。
いままで地元から離れたことのない娘が、自分の目の届かない遠方に行って生活で
きるのだろうか。
当の本人以上に親の方が不安だったのかもしれない。
しかし、片山と話すうちに、この人になら預けて大丈夫かもしれない、そう思い始
めていた。
「お父さん、私、吉備に行きたい。行かせて」
それまで襖の向こうでやり取りを聞いていた彼女が涙ながらに、そう父親に訴えた。
九州まで来たことはムダではなかった。
彼女の言葉を聞いた瞬間、片山は疲れが飛び、心が軽くなるのを感じた。
片山自身も励まされていたのだ。
「一人ひとりの訓練生との間に数知れないドラマがあります」
と、片山は目を細めた。
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