ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

大企業でも週44時間労働が許されるケースが

2023-12-13 11:59:10 | 労務情報

 労働基準法第32条は、労働時間を原則として週40時間以内と定めているが、これには特例措置が設けられており、事業によっては週44時間とすることも許されている。
 その事業とは、「卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業」、「映画の映写、演劇、その他興業の事業(映画の製作の事業を除く)」、「病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業」、「旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業」の4種類であり、いずれも、常時使用労働者が10人未満であることが要件となっている(同法第40条、労働基準法施行規則第25条の2)。
 「10人未満」と聞いて大企業には無縁の話と思う人も多いだろうが、労働基準法は基本的には事業場(主として同一の場所で事業が行われているかどうかによって決定される)単位で適用されるので、例えば小売店舗を多数有する企業などは店舗ごとに特例措置の対象となる可能性がある。 ただし、場所的に分散していても規模が非常に小さく事業の組織的関連や事務能力などの点から一の事業といえないほど独立性のないものについては、そのすぐ上位の機構と一括して一の事業として取り扱われることには要注意だ。

 もし自社にこの特例措置に該当する事業場があるなら、その事業場では、所定労働時間を週44時間とすることが可能であり、時間外労働に関する労使協定(いわゆる三六協定)や時間外労働に係る割増賃金は週44時間を超える分が対象となる。 もちろん、その場合の三六協定は、当該事業場が独立して管轄労働基準監督署へ届け出なければならない。

 社内あるいは第三者による労務監査等においては、以上の点を踏まえて労働基準法に違反していないかどうかをチェックする必要がある。

 ただ、誤解していただきたくないのは、本稿は、長時間労働を是とするものではないし、特例措置の適用を推奨するつもりもない。
 まして、現行の所定労働時間が週40時間であるものを週44時間にするのは、労働条件の不利益変更に他ならず、また、労働基準法第1条第2項の趣旨にも反する行為であるので、厳に慎みたい。

 なお、厚生労働省に設置された労働政策審議会が平成27年2月、働き方改革に関連して『今後の労働時間法制等の在り方について』と題する報告書の中で「特例措置対象事業場の範囲の縮小を図る方向で‥所要の省令改正を行うことが適当である」と建議していることも付言しておく。
 【参考URL】 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981.html


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

配転命令拒否を理由に従業員を懲戒できるか

2023-12-03 12:59:12 | 労務情報

 会社は、業務上の都合や人材育成の一環として、従業員に配置転換を命じることがある。
 ところで、この配置転換命令に従わない従業員がいた場合、会社はその従業員を懲戒できるのだろうか。

 会社は、従業員を配属し配置転換できるという「人事権」を有している。 これは、就業規則等に明文規定が無かったとしても、「経営権」の一環として一般的に認められている権利だ。
 しかし、権利を有していても、その濫用は許されない(民法第1条第3項)。
 具体的には、以下のような配転命令が「人事権の濫用」になると考えられる。
  (1) 不当な動機・目的によるもの
    (行政機関への通報や正当な労働組合活動への報復措置、嫌がらせ・見せしめ等)
  (2) 当該従業員に著しい不利益を負わせるもの
    (収入の大幅減、遠方への通勤、未習熟業務への適応、育児や家族介護への支障等)
  (3) 経営上の必要性が無いもの
    (人選に正当性が無いもの、経営者の“思いつき”等)
 そして、もちろん職種限定や勤務地限定等の特約に反する配置転換が無効なのは言うまでもない。

 一方で、会社は社内秩序を維持するために従業員を懲戒する権利(懲戒権)を有するとされる。
 しかし、これに関しても、次のような観点で注意を要する。
  (1) 就業規則等に懲戒の根拠規定を置いているか
  (2) 客観的に合理的な理由を欠く懲戒ではないか
  (3) 規律違反の種類・程度等に照らして社会通念上相当な懲戒内容であるか
  (4) 同様の規律違反に対する懲戒処分と平等性が保たれているか
  (5) 懲戒に到る手続き(懲戒委員会の開催、弁明機会の付与等)は適正か

 この「人事権の濫用」と「懲戒権の濫用」の2面から見て問題なければ、そのときに初めて、配転命令拒否者を懲戒することができる。
 というより、むしろ、そうした場合は懲戒するべきとすら言えよう。 一人の“わがまま”を許して、それが前例となってしまうことは会社として避けたいからだ。

 なお、配置転換を不服として本人自らの意思で退職したいと申し出てきた場合にそれを承認するのは差し支えない。 ただし、それも、配転命令自体にそもそも「退職させたい」という不当な動機が無かったことが前提の話ではある。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「自宅待機」に賃金を支払う義務があるか

2023-11-23 13:54:28 | 労務情報

 労働者に自宅待機させた場合、その日の賃金は支払わなければならないのだろうか。

 これについて考察する前に、一般に「自宅待機」と称されていても、「待機させる」という意味を含まないものもあるので、それらを整理しておきたい。

 まず、経営上の都合による「休業」を実施した場合…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

会社にとって労災保険を使うことにデメリットはあるのか

2023-11-13 12:59:13 | 労務情報

 従業員が業務上負傷したら、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」と略す)の補償給付を受けるのが一般的だ。
 しかし、労災保険を使わなければならないわけではない。

 これに関しては誤解されている向きも多いが、従業員が業務上負傷したら会社は『労働者死傷病報告』を所轄労働基準監督署へ提出しなければならない(労働安全衛生規則第97条)。 この義務を怠るのは「労災隠し」と呼ばれる犯罪であり、50万円以下の罰金に処されるとされている(労働安全衛生法第120条)が、この義務を守ったうえであれば、労災保険を使うか使わないかは、実は任意なのだ。
 ただ、労災保険による補償給付を受けないのであれば、被災した従業員の治療費は全額会社負担となり(労働基準法第75条)、休業や傷害や遺族に対する補償も会社が負担しなければならない(同法第76条・第77条・第79条ほか)。 この負担が重いからこそ、“保険料事業主負担の保険”に加入しているわけだ。

 そう考えると労災事故が起きた際に労災保険を使わないのは合理性が無さそうに思えるが、メリット制の対象となっている会社では、労災補償給付の多寡によって次年度以降の労災保険料率が一定の範囲(最大±40%)で増減するので、悩ましい。

 通常は、労災保険料の増額幅よりも労災保険の補償給付額が上回るので労災保険を使わないという選択肢は消えるのだが、自社が建設業の下請けであったりすると、ここに、元請け業者への忖度が働く。
 下請け業者の起こした労災事故は元請け業者の労災保険を使うことになり、元請け業者の労災保険料率が上がってしまうかも知れないからだ。 それで、元請けの労災保険を使わずに、自社が被災労働者に直接補償することが選択肢に入ってくる。
 確かにそう考えるのも無理はないが、下請けの労災事故(軽傷事故ならば)1件で元請けの保険料率に影響するとは考えにくいし、保険料に影響するほどの重大事故であったらそうした事態でこそ労災保険を使わないととても補償しきれる金額に収まらないだろう。
 あるいは、「事故を起こしたことを元請けに知られたくない」という思いがあるかも知れないが、上に挙げた『労働者死傷病報告』には元請け業者(元方事業場)を記入することになっているので、元請けに知られないまま処理を完了するのは難しい。
 これらを考え併せれば、労災保険を使うことのデメリットはさほど大きくないと言えるだろう。

 もっとも、これらを熟考したうえで「それでも労災保険を使わない」とするのであれば、そもそも労災保険を使うかどうかは任意なので、それは“経営判断”ということになる。

 なお、本稿は業務災害について考察したものだ。通勤災害の場合は、会社にとっては多少の事務負担(書類を書く等)が生じる以外にデメリットは無いので、被災労働者への給付が手厚くなることを考えても、労災保険給付申請に協力するべきだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

労働組合の組織率が50%以下になったら

2023-11-03 09:59:51 | 労務情報

 働き方や価値観の多様化により、労働組合組織率の下降傾向が止まらない。
 昭和24年に55.8%であった推定組織率は、令和4年には、全体で16.5%、1000人以上の企業でも39.6%にまで低下している。
  【参照】 厚生労働省 > 令和4年労働組合基礎調査の概況

 さて、労働関係諸法令は、「労働者の過半数で組織する労働組合」に以下のような役割(例示)を担わせるものとしている。
  (1) 時間外労働・休日労働に関する労使協定(三六協定)の締結(労働基準法第36条)
  (2) 変形労働時間に関する労使協定の締結(労働基準法第32条の2~第32条の5)
  (3) 年次有給休暇の時間単位付与等に関する労使協定の締結(労働基準法第39条)
  (4) 就業規則の作成・変更に対する意見申述(労働基準法第90条)
  (5) 安全衛生改善計画の作成に対する意見申述(労働安全衛生法第78条)
  (6) 育児休業等の適用除外者に関する労使協定の締結(育児介護休業法第6条他)
  (7) 派遣労働者の待遇に関する労使協定の締結(労働者派遣法第30条の4)
  (8) 派遣先における派遣可能期間延長に関する意見申述(労働者派遣法第40条の2)

 これらは過半数組合であるゆえの役割であるので、もし当該労働組合の組織率が低下して50%以下になったら、民主的に選出された「労働者の過半数を代表する者」にこれらを担わせなければならないことになる。
 もっとも、これら労使協定の締結や意見申述の時点で過半数であったなら、その後に過半数割れを生じたとしても、それらの効力は継続する。 この件に関しては、「労働者の過半数を代表する者」が上述の行為の後に退職したようなケースであってもそれら各行為は有効のままであるのと同じ考え方だ。

 一方、会社は過半数組合との間にユニオンショップ協定を締結することができる(労働組合法第7条第1号ただし書き)が、この協定は、当該労組が過半数割れを生じたら無効となる。 これだけは上に例示したものとは扱いが異なるので注意しておきたい。
 ちなみに、ユニオンショップ制は「雇用された労働者は労働組合に加入しなければならず、会社は労働組合に加入しない者や労働組合から脱退しもしくは除名された者を解雇しなければならない」とするものだから、なぜその組織率が50%以下となる可能性があるのか疑問を抱かれるかも知れない。 でも、(1)管理職を組合員としない労働組合が多い、(2)「会社がその者を特に必要と認める場合は解雇しないことができる」とする「尻抜けユニオン」も少なくない、といった理由が考えられ、実は珍しいことではない。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

従業員でない者に対しても労働安全衛生法が適用される?

2023-10-23 15:01:13 | 労務情報

 労働安全衛生法は「職場における労働者の安全と健康の確保」と「快適な職場環境形成の促進」を主目的にしているが、その対象を自社の従業員のみならず、同じ場所で就業する個人事業主にも適用範囲を拡大する方向で検討されている。

 その発端は、国を相手取って起こされた「建設アスベスト訴訟」と呼ばれる一連の訴訟において、「国が規制権限を適切に行使しなかったことは違法」とする裁判例(最一判R3.5.17)が出されたことに始まる。 その争点の一つに「同法第22条(健康障害防止措置)の規定は一人親方等も対象とするのか」というものがあったが、これについて最高裁は「労働者と同じ場所で働く労働者以外の者も保護する趣旨」との判断を示した。
 これを受けて、厚生労働省は、この規定に係る11の省令について、請負人や同じ場所で作業を行う労働者以外の者に対しても労働者と同等の保護措置を講じることを事業者に義務付ける改正を行い、令和4年4月に公布している。
 一方、その議論の中で、第22条以外の規定に関しても労働者以外の者に対する保護措置などについて検討することとされ、それを「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」で検討しているのだ。

 この検討会では、当初こそ、「“建設現場における一人親方”に対する安全対策」を重点に議論されていたが、回を重ねる中で、建設業に限らずすべての業種において、注文者等に安全配慮義務(または努力義務)を課す方向に流れつつある。
 例えば、第66条ないし第66条の10(健康診断・ストレスチェック等)を「自社の従業員以外にも受診を促す」、第57条(危険物の表示等)は自社の従業員以外にとっても必要な措置、といった形になりそうだ。
 また、自社の従業員以外の者が死亡・負傷した場合(疾病は業務上外の判断が困難であるため今のところ除外されている)には、労働安全衛生規則第97条(労働者死傷病報告)に準じた報告の提出義務を課すことも提案されている。

 もし、これが法令に明文化されたら、自社の従業員と同じ職場で働く(場合によっては職場に自社の従業員すらいなくても)発注先の個人事業主に対して、その安全や衛生に配慮しなければならないこととなる。 そして、それは、建設業だけでなく、すべての業種に影響する話だ。
 もっとも、政省令レベルでなく法律の改正を要する内容であるので今日明日に決まるものではなさそうだが、今のうちから対処を考えておくのも悪くないだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

労働組合法での「労働者」は労働基準法の定義とは異なる

2023-10-13 07:59:08 | 労務情報

 労働基準法は、「労働者」を「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義している。
 この“労働者性”は、
  (1) 仕事の依頼や業務の指示等に対する諾否の自由の有無
  (2) 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
  (3) 勤務場所・時間についての指定・管理の有無
  (4) 労務提供の代替可能性の有無
  (5) 報酬の労働対償性
  (6) 事業者性の有無(機械や器具の所有や負担関係や報酬の額など)
  (7) 専属性の程度
  (8) 公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)
等を総合的に考慮して判断される。

 この定義および判断要素によれば、例えば「子会社の従業員」や「取引先である個人事業主」などは、労働基準法および労働基準法を基礎とした法律(労働安全衛生法、最低賃金法、労災保険法、労働者派遣法等)では「労働者」として扱われない。

 ところが、労働組合法は、これと異なり、「労働者」を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義している。 これは、憲法第28条の「勤労者」と同じ範囲を示すものと解され、労働関係調整法も同じ定義を用いている。
 労働組合法や労働関係調整法は労使が対等な関係で労働条件を決めることを促すのが目的であるため、取り締まり法令である労働基準法よりも「労働者」を広くとらえているのだ。

 これに関し、厚生労働省に設置された労使関係法研究会はその報告書で、労働組合法上の労働者性については以下の要素を用いて総合的に判断すべきである旨をとりまとめた。
  ① 事業組織への組み入れ
  ② 契約内容の一方的・定型的決定
  ③ 報酬の労務対価性
  ④ 業務の依頼に応ずべき関係
  ⑤ 労働力の処分権を契約の相手方に委ねているかどうか
  ⑥ 顕著な事業性
※①・②・③:基本的判断要素、④・⑤:補充的判断要素、⑥:消極的判断要素
【参照URL】https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001juuf.html

 さて、企業経営者にとってこれが問題となるのは、自社の従業員でない者(上に挙げた「子会社の従業員」や「取引先である個人事業主」など)に係る労働条件について労働組合から団体交渉を要求された時だ。
 こうした場合は、まず、当社が団体交渉の相手先たる理由をその労働組合に尋ねるべきだ。 その回答を上述①~⑥に照らして自社に“使用者性”があるかどうかを見極めたうえで、会社としての対処を考えなければならないことになる。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究開発業務は来年4月以降も残業規制なし

2023-10-03 08:59:56 | 労務情報

 法定労働時間(基本的には週40時間)を超える労働(以下、「時間外労働」と呼ぶ)を命じるには、「時間外労働・休日労働に関する労使協定」(労働基準法第36条に基づくため「三六協定(サブロク協定)」と呼ばれる)を締結しておかなければならない。
 そして、三六協定で定める時間外労働時間数は、平成31年(令和元年)4月から(中小企業は令和2年4月から)、原則として「月45時間(1年変形では月42時間)、年360時間(1年変形では年320時間)」が限度とされた(労働基準法第36条第4項、H30.9.7基発0907第1号)。 ただし、この上限規制は次の事業(または業務)には適用されない。
  1.工作物の建設の事業(同法第139条)
  2.自動車運転の業務(同法第140条)
  3.医業に従事する医師(同法第141条)
  4.鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業(同法第142条)
  5.新技術・新商品等の研究開発業務(同法第36条第11項)

 これらのうち1~4については、令和6年3月31日までの猶予措置であり、猶予期間経過後は、新たな基準が設けられ、または上限規制がすべて適用されることになる一方、5については、来年4月1日以降も適用除外のままとされる。

 しかし、だからと言って、研究開発業務は三六協定さえ締結しておけば無制限に残業させられる、と考えるべきではない。
 研究開発業務に従事する者であっても時間外労働が月100時間を超えたら医師の面談を受けさせなければならず(労働安全衛生法第66条の8の2、労働安全衛生規則第52条の7の2)、加えて、直近2~6カ月間の時間外労働が月あたり80時間を超えた者の脳・心臓疾患の発症は業務との関連性が強いと認められることから、労災事故防止の観点から行政当局の指導対象となるのは他の業務と同様だ。
 また、(これも他の業務と同様)月60時間を超える時間外労働に対しては150%以上の割増賃金を支払わなければならない(同法第37条第1項ただし書き;中小企業も今年4月から適用)ことは、間接的に時間外労働の抑制材料になるだろう。

 なお、研究開発業務が専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)の適用対象となっているケースにおいても、「みなし労働時間」に時間外労働時間数が含まれていることがあるので、裁量労働だからと言って必ずしも本件に無関係とは限らない。

 いずれにせよ、長時間労働は、コストアップに直結し、生産効率の低下や労災事故の要因ともなりうる。
 労使どちらの立場からも、長時間労働は極力避けるのが賢明と言えよう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

従業員の在籍照会に会社は回答して良いか

2023-09-23 07:59:13 | 労務情報

 従業員が在籍しているかどうかを照会する電話が会社に入ることがある。 相手によっては、所属部署や勤続年数や、退職者に関しては退職日や退職理由まで尋ねてくることもあるが、会社は、こういった問い合わせに対し、どこまで答えて良いのだろうか。

 結論を先に言ってしまえば、基本的には、「一切許されない」と考えるのが正しい。
 所属部署や勤続年数や退職日等はもちろんのこと、「X氏がA社に在籍しているか否か」ということからして個人情報に他ならないからだ。
 個人情報は、法令に基づく場合や人命保護のために必要な場合などを除き、原則として、本人の同意が無ければ第三者に提供してはならないことになっている(個人情報保護法第27条)。
 とは言うものの、例えば「Xさんはいますか」という電話が入ったときに「Xは離席中です」と答えただけで、X氏の在籍情報を開示したことになってしまうのだから、「在籍しているか否かについてすら回答しない」というのは、現実的には無理な話だ…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

言動のおかしい従業員への対応

2023-09-13 12:59:54 | 労務情報

 他人から見て奇異な言動(例えば、独り言が多かったり、常に体を動かしていたり、些細な事で癇癪を起こしたり…)を示す従業員がいると、職場環境を害するばかりでなく、顧客や取引先に迷惑を掛けてしまうかも知れない。
 このような従業員に対して会社としては何らかの対処を講じたいところだろうが、こうした言動は精神疾患が原因であることが多いので、慎重を期したい。

 では、どのような精神疾患が考えられるか、代表的なものを4つほど挙げてみる。
  A:発達障害(アスペルガー症候群、自閉スペクトラム症、ADHD等)
  B:うつ、双極性障害
  C:認知症、MCI(軽度認知障害)
  D:統合失調症

 このうち「A」は元々その者の気質であるが、最近になって様子がおかしくなったのであれば「B」「C」「D」(すなわち病気)である可能性が高い。
 病気ならば早期に治療を受けるのが本人にとっても望ましいには違いないが、拙速に話を進めようとすると本人の反発を買ってしまうおそれもある。
 なので、会社(上司)としては、まず本人と面談し、「悩み事でもあるのか」を聴いてあげることから始めたい。 「B」のケースでは、この“傾聴”だけで改善することもありうる。

 然る後に、問題になっている言動を本人に伝える。
 その際、上司自身の感情や評価を交えるのは禁物だ。 事実のみを伝えて本人が自覚していたなら、治療を勧めれば良い。

 しかし、厄介なことに、この類いの病気は本人に“病識”が無いことも多い。
 特に「C」や「D」のケースでは、幻覚(幻視・幻聴)を現実に起きた事象だと思い込んでいると、それに呼応した言動も本人にしてみれば何らおかしなものではないのだ。 そうした場合は、その場ではそれを否定せず、同様の言動が見られた時に再度面談の機会を設けて、本人が自ら気付くのを待ちたい。

 これを繰り返しても本人が自覚しない場合には、その時にこそ医師の診断を受けるよう勧める(または命じる)わけだが、この時点ではまだ病人と決めつけてはならないことに気を付けたい。 それを判断するのは医師だからだ。

 そして、精神疾患と診断されたら、会社は、医師の意見を踏まえて当該従業員の処遇を見直すことになる。
 とは言え、疾病に罹患したというだけでは処遇変更の理由とならないので、「治療しながら同じ職務を続ける」のを基本に考えるべきだ。
 もしそれが叶わない場合でも、「軽易な職務に変える」、「所定労働日数を減らす」等の措置を講じる余地があるかを模索したい。

 なお、どうしても労務の提供が難しい状態であれば解雇もやむを得ないが、トラブル防止の観点からは、できれば退職を勧奨して合意退職に持ち込むことを考えたい。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする