ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

即時解雇の手続きと注意点

2023-09-03 16:59:08 | 労務情報

 従業員をその責めに帰すべき事由(例えば、社内での犯罪行為、会社の名誉や信用を著しく失墜させる社外での犯罪行為、2週間以上に及ぶ無断欠勤など)に基づいて解雇する場合、解雇予告または解雇予告手当の支払いは必要でない(労働基準法第20条第1項但し書き後段)が、そのためには行政官庁の認定を受けなければならない(同条第3項)。

 具体的には、事業所を管轄する労働基準監督署に以下の書類を提出して、解雇予告除外を認定してもらうことになる。
  (1) 解雇予告除外認定申請書 [様式第3号]
  (2) 労働者の生年月日、雇入年月日、職種(名)、住所、連絡先等が明らかになる資料
    (一般的には「被申請労働者の労働者名簿」)
  (3) 申請に係る「労働者の責に帰すべき事由」が明確となる疎明資料
   ① 事由の経緯について時系列に取りまとめた資料
   ② 本人の自認書・顛末書等
   ③ 懲罰委員会など懲戒処分関係の会議の議事録
   ④ 新聞等で報道された場合は、その記事の写し
  (4) 就業規則(解雇・懲戒解雇等の該当部分)
  (5) 解雇通知をしている場合は、解雇予告日及び解雇日が分かる書面
 この手順を踏まずに会社の判断で即時解雇すると、労働基準法第20条第1項本文に違反し、6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性がある(同法第119条)。

 解雇予告除外が認定されたなら、解雇の効力は即時解雇の意思表示をした日に遡って発生する(昭63.3.14基発150号)。
 しかし、労働基準監督署が必ずしも認定してくれると限らない以上、認定前に即時解雇するのはリスクが高いので、もし当該従業員を出社させたくない事情が存在するのなら、自宅待機(通常の賃金が発生)または休業(平均賃金6割以上の休業手当支払いが必要)させたうえで、解雇予告除外認定手続きを進めるのが間違いないだろう。

 また、解雇予告除外認定を受けたとしても、それは解雇の正当性を保障するものではない。 民事訴訟を起こされ解雇の当否を争われる余地は残っているのだ。

 加えて、業務災害による休業後30日間または産休後30日間は解雇が制限される(同法第19条第1項)ことにも気を付けたい。
 もっとも、解雇予告除外認定を申請しても、労働基準監督署はこの期間を経過した後でないと認定してくれないので、自ずと即時解雇できないことにはなる。

 即時解雇は、あまり喜ばしい事ではないが、もし必要な事態が生じたら、正しい手続きにより毅然と対応したい。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「正社員と同視すべき者」のチェックポイント

2023-08-23 09:59:11 | 労務情報

 会社は、雇用期間の定めのある労働者(以下、「有期雇用労働者」と呼ぶ)や所定労働時間が通常の労働者(以下、「正社員」と呼ぶ)に比して短い労働者(以下、「短時間労働者」と呼ぶ)であって、「職務の内容(業務の内容と責任の程度)」および「職務の内容・配置の変更の範囲その他の事情」に照らして「正社員と同視すべき者」については、差別的取り扱いをしてはならない(パート有期労働法第9条)。

 これは、具体的には、次のようなチェックポイントで判断される。
  【職務の内容】
    (1) 業務の内容(職種)
    (2) 中核的業務(その職種を代表し、その職種に不可欠な業務)
    (3) 責任の程度(ノルマの有無、突発事象への対応、部下の人数等)
  【職務の内容・配置の変更の範囲その他の事情】
    (1) 転勤の有無
    (2) 転勤の範囲
    (3) 職務内容・配置の変更の有無
    (4) 職務内容・配置の変更の範囲
    (5) 勤務形態(フレックス制や裁量労働制の適用等)
    (6) 個人の能力・経験、業務上の成果等

 このチェックポイントすべてにおいて正社員と同じである者については、賃金その他の待遇を、比較対象とした正社員と同じにしなければならない(=「均等待遇」)。 と言っても、時給制の者を月給制に変更したり所定労働日や所定労働時間を正社員と同じにしたりすることまで求められるわけではない。

 そして、チェックポイントに1以上の相違がある者については、正社員との間に不合理な待遇差を設けてはならない(=「均衡待遇」;同法第8条)。
 逆に言えば、合理的な理由により適切な待遇差を設けることは許される。 もっとも、それが妥当であるか否かはしばしば争いになり、最終的には司法の判断に委ねられる。

 ちなみに、パート有期労働法は有期雇用労働者および短時間労働者に適用される。
 したがって、社内で「パート」と呼称されていたとしても、雇用期間の定めが無く正社員と同じ所定労働時間で働く者(「フルタイムパート」「フルタイマー」などと呼ばれることもある)は、均等待遇や均衡待遇の対象とされていないことに注意したい。 こうした者の労働条件は、個別に(または労働組合を介して)経営者と交渉して定められることになる。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

有期労働契約のクーリング期間に関する誤解と悪用

2023-08-13 15:59:10 | 労務情報

 雇用期間の定めのある労働契約(以下、「有期労働契約」と呼ぶ)は、その期間が満了したら雇用関係は解消されるのが基本であるが、両者の合意によりこれを更新することは差し支えない。
 そして、その更新が通算5年を超えて反復されることとなった場合には、労働者の申し出により無期契約に転換する(労働契約法第18条第1項)が、契約を一旦終了させて一定の空白期間(クーリング期間)を経過した後に新たな契約を結び直すのであれば、契約期間を通算しない(同法同条第2項)こととされている。

 しかし、これに関する誤解や悪用が多く見受けられている。

 「誤解」というのは、クーリング期間の長さに関するものだ。
 労働契約法はクーリング期間を「6か月(1年未満の有期契約については、その期間の2分の1)以上」と定めているところ、「クーリング期間を1日でも置けば契約期間は通算されない」と思っている経営者も一部にはいるようだ。 「誤解」というより「無知」というべきかも知れない。

 「悪用」というのは、クーリング期間の長さについては正しく理解しつつも、「6か月後に再雇用することを予め約束して一旦雇い止めする」という経営者が少なからずいることだ。 たしかにこうすれば無期転換しないわけだが、さすがにこれは“脱法行為”との誹りを免れえまい。

 これらの点に関し、厚生労働省に設置された労働政策審議会(労働条件分科会)が昨年末(年の瀬令和4年12月27日)に公表した『今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)』において、「クーリング期間に関して、法の趣旨に照らして望ましいとは言えない事例等について、一層の周知徹底に取り組むことが適当である」と提言している。
 この報告書は“公労使”三者の意見を集約したものであるためソフトな言い回しになってはいるが、議論の中ではクーリング期間の廃止(空白期間の有無にかかわらず契約期間を通算する=無期転換しやすくなる)まで視野に入れて検討していた。
 最終的な報告には細かく言及されていないものの、クーリング期間に関する誤解や悪用は国も問題視しているのだ。

 そもそも、反復更新している有期労働契約を解消するのは、合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当でなければならない(労働契約法第19条)。
 「無期転換させたくない」というのは、経営者側の“動機”としては理解できないでもないが、雇い止めの“理由”としては合理性も相当性も満たさない。
 トラブルの素でもあり、有期雇用従業員のディモティベーションにもなりかねないので、安易な雇い止めは慎むべきだ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宿直勤務を導入するには

2023-08-03 20:59:06 | 労務情報

 従業員を職場に寝泊まりさせる「宿直」は、「夜勤」とは似ていて非なる別物だ。

 経営者から見れば、宿直のほうが夜勤よりも“使い勝手”が良いように感じられるかも知れない。
 というのは、宿直であれば、法定労働時間の限度に関係なく(ただし原則として週1回まで)命じることができ、賃金は1日分の3分の1以上を支払えば足りる(労働基準法第41条、同法施行規則第23条、第34条)とされているからだ。

 しかし、宿直では(原則として)通常業務を命じることができないことを承知しておかなければならない。

 そして、宿直勤務の導入にあたっては、管轄労働基準監督署長の許可を得る必要もある。
 この許可を得られるのは、「ほとんど労働をする必要の無い勤務であり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態発生に備えての待機等を目的とするもの」(昭22・9・13発基17号、昭63・3・14基発150号)でなくてはならず、「相当の睡眠設備」(すなわち「仮眠できる」こと)も条件とされている。
 ちなみに、許可申請してから許可が下りるまで2週間ほど掛かる(その間に実地調査もある)ので、それも踏まえて、導入にあたっては余裕を持ったスケジュールを組んでおきたい。

【参考】宿直勤務許可申請に必要な提出書類
 (1) 『断続的な宿直又は日直勤務許可申請書』(様式第10号)
 (2) 『宿日直勤務者の賃金一覧表』・『調査書』(労働基準監督署指定様式)
 (3) 就業規則・雇用契約書等
 (4) 賃金の計算書
 (5) 勤務パターン(例えば「週1回」など)
 (6) 当番日のタイムスケジュール
 (7) 現地見取り図(夜間巡回のコース図)
 (8) 詰所の状況(相当の睡眠設備を整えていること)
 (9) その他、労働基準監督署が提出を指示したもの(実地調査もあり)
  ※複数の労働基準監督署への聴き取り調査による

 なお、宿直中に突発的な事態が発生して通常業務に従事した場合は、その実働時間数に対しては本来の賃金(深夜割増および法定時間を超過する場合には時間外割増を加算)を支払わなければならない。 加えて、そういう事態が起こる頻度が高い(「突発的」とは言い難い)場合には、夜間に通常業務を行うことが常態となっているものとみなされ、宿直勤務の許可が取り消される可能性もある。

 宿直は、極論を言えば「寝泊まりさせるだけ」と理解しておくべきだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

労使委員会の構成は? 開催頻度は?

2023-07-23 15:59:32 | 労務情報

 「企画業務型裁量労働制」は、企画・立案・調査・分析の業務に就く者を対象として、業務遂行の方法や時間配分を大幅に労働者の裁量にゆだねることとしたうえで、「一定時間を労働したものとみなす」という制度であり、柔軟な発想による成果を期待できるうえ、残業代コスト削減のメリットも期待できることから、導入を検討している会社も多い。
 しかし、この制度を導入するにあたっての最も大きなネックは、労使委員会において出席委員の「5分の4」以上で決議し、それを労働基準監督署に届け出なければならないことだろう。

 では、その「労使委員会」は、どのように組織し、どのように運営していくべきなのかを以下に整理してみる
…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

従業員の熱中症に会社の民事責任が問われる?

2023-07-13 18:59:38 | 労務情報

 従業員が職場で暑さのため熱中症に罹った場合は、原則として、労働基準法施行規則別表第1の2(第35条関係)第2号8「暑熱な場所における業務による熱中症」に該当し、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」と略す)で補償される。
 「原則として」というのは、例えば(極端かつ卑近な例になるが)、「休憩中に球技に興じていた」、「個人的な信念に基づいて意図的に水分補給を絶っていた」等を原因とする熱中症であったなら、「業務遂行性」または「業務起因性」が阻却されて補償の対象とならないからだ。

 一方、仮に「会社(経営者)が冷房の使用を禁じていたために熱中症になった」というケースであっても、労災保険は適用される。 しかも、会社は労災保険の保険関係当事者とされるので、国から求償されることも無い(20200330基発0330第33号)。
 つまり、会社は待期3日間の休業分(労災保険でカバーされない)さえ補償すれば、労働基準法による補償義務は果たしたことになる。

 しかし、こうしたケースにおいて、労災保険を使えたからと言って、民事上の責任まで免れるわけではない。
 熱中症になる蓋然性が高いことを承知していながら会社がその回避手段を講じなかったという「不法行為」として、あるいは、安全配慮義務(労働者が安全に仕事できるよう配慮すべき会社の義務=労働契約法第5条)を果たさなかったという「債務不履行」として、労災保険の補償を上回る部分の損害賠償を求める民事訴訟を提起される可能性があるのだ。

 事務所衛生基準規則第5条第3項は「事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上“二十八度以下”及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない」(引用符は筆者による)と定めている。 これは罰則の無い努力義務規定ではあるものの、裁判における判断材料の一つにはなりうるし、まして経営者が故意(未必の故意を含む)に労働環境を害したと断じられれば、裁判所は、慰謝料に関する事項を含め会社にとって厳しい判断を下さざるを得ないだろう。

 そもそも、会社としては、従業員には万全の体調で仕事に取り組んでもらうのが、事故防止の面からも生産効率の面からも望ましい。 会社へのロイヤリティまで考えれば、それらは、冷房に係る電気料金コストを上回る効果があるはずだ。
 職場の空調設定(特に事務所において)に関しては、人によって「暑い」「寒い」と感覚が異なり、それを一種のハラスメントととらえる向きもあるが、少なくとも「暑熱な場所」(室温28℃を上回る)になることのないようにはしておかなければならないだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

従業員が逮捕された場合の対処

2023-07-03 11:59:52 | 労務情報


※前回の記事「無断欠勤のケース別対処法」のうち「逮捕・勾留」のケースにつき、少々説明不足の感がありましたので、その補足を交えて1本の記事に編集しました。


 従業員が私生活における犯罪行為の疑いで逮捕された場合、会社はどう対処したらよいか戸惑ってしまうかも知れない。
 しかし、そういう場面でこそ、冷静な判断が求められる。

 さて、逮捕されると本人は外部に連絡できなくなり、自ずと「無断欠勤」になる。
 とは言っても、誤認逮捕等、本人に非の無いケースもあるので、無断欠勤したことだけをもって拙速に懲戒処分その他不利益な取り扱いをするのは避けたい。

 もっとも、逮捕・勾留期間中は労務の提供がなされなかったのは事実であるので、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき、不就労時間に相当する賃金を不支給とすることは差し支えない。
 ただ、それも、年次有給休暇の事後申請を認める制度や慣習のある職場では、本人が申請したら有給扱いしなければならないことになる。 これは、本人に非のある逮捕だったとしても(会社の立場からは納得できないかも知れないが)同じだ。

 そして、釈放後または接見時に本人から事情を訊き、状況次第で懲戒処分を検討することになる。
 ただ、会社が懲戒権を行使できるのは職場規律を維持するためであるので、私生活における犯罪行為(それが事実であったとしても)を理由として会社が懲戒するのは、直接的には認められない。 その行為によって会社が有形または無形の損害を被った場合に限り制裁を科すことができる、と理解するべきだ。
 しかも、懲戒処分は、社会通念上相当なものでなければならない(労働契約法第15条)。 特に懲戒解雇・諭旨解雇等、取り返しのつかない処分を科す場合には慎重を期したい。
 また、就業規則等に懲戒委員会の議を経たり本人の弁明を聞いたりするべき旨が定められているなら、それらの手順を省いた懲戒処分は無効とされる(東京地決H23.1.21、東京地判R2.11.12等)ので、その点にも注意を払っておく必要がある。

 さらには、会社によっては「起訴休職」が設けられていることもある。
 これは勾留が解かれても確定判決が出るまでは出社させないという制度で、有給とするものと無給とするものがあるが、どうであれ、就業規則等の定めに従うことになる。 これの適用についても、本人に非のありなしは関係ない。

 以上を整理すれば、 ①「逮捕=犯罪行為」と短絡的にとらえてはならず、 ②犯罪行為が事実だとしても懲戒処分を科すには合理性・相当性を要し、 ③処分内容の決定も勤怠の取り扱いも社内ルールに則るべき、ということになる。
 従業員の逮捕という特殊案件に際しても、冷静さを失って訴訟に発展した場合の金銭リスクやレピュテーションリスクに会社を晒すことの無いよう、落ち着いて対処したい。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

無断欠勤のケース別対処法

2023-06-23 10:59:08 | 労務情報

 従業員に無断欠勤されると、まず業務に支障が出るし、他の従業員へも悪影響を及ぼすので、会社は何らかの対処を講じなければならない。
 しかし、短絡的に結論を出すのは危険だ。

 では、どのように対処したらよいか、以下、無断欠勤のケース別に、その注意点を挙げておく。

A 事故や急病
 日ごろ出退勤に乱れの無い従業員が突然無断欠勤した場合は、まず事故や急病が疑われる。 早急に本人に連絡し、連絡が取れないようなら家族に連絡を入れるべきだ。
 このケースでは、ただの「欠勤」(原則ノーワークノーペイ)として扱うのが適切だろう。

B 逮捕・勾留
 逮捕されると、多くの場合は22日間(48時間+勾留10日間+勾留延長10日間)、外部に連絡できなくなり、自ずと無断欠勤になる。 通常は警察等から自宅へは連絡が行くものの、本人や家族が会社に知られたくないと思って会社に連絡してこないことも考えられる。
 このケースでは、会社は本人から(釈放後または接見時に)事情を訊き、逮捕理由や公判の状況によっては厳しい処分も考えなければならないが、そうなると「無断欠勤」など、もはや“判断材料の一つ”に過ぎなくなってしまう。
 そして、もし当人に何ら非の無い逮捕・勾留であったなら、当然、Aと同じ扱いとなる。

C 会社への反発心
 上司に叱責された等の理由で無断欠勤する者がいるかも知れない。
 それが「職場放棄」であるなら懲戒事由になりうるが、このケースでは、精神疾患を発症している可能性や職場にハラスメントが存在する可能性(いずれも会社に責任あり)も想定しておく必要があろう。
 長期無断欠勤したSEを諭旨解雇したところ「精神科医による健康診断を実施するなどした上で‥必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき」として解雇無効と断じた裁判例(最二判H.24.4.27)も参考にしたい。

D 失念
 単に「連絡しわすれた」というもの。 会社が注意・指導しても繰り返すようであれば、組織内で仕事するには不適格であるので、解雇も視野に入れて対処を考えざるを得まい。
 ただし、そのためには、無断欠勤の都度、「始末書」または「顛末書」を書かせておきたい。

 いずれのケースにおいても、(1)事情を聴取する、(2)出勤を命じ、あるいは再発しないよう指導する、(3)必要ならば懲戒する、という手順を踏んで対処を考えなければならない。
 そして、「解雇(懲戒解雇・諭旨解雇・普通解雇のいずれも)」は、裁判で無効とされるリスクがあることを承知のうえで、あくまで“万策尽きた後の最終手段”と認識しておくべきだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

労災給付に不服があった場合、会社が訴えを起こすことは可能か?

2023-06-13 09:59:46 | 労務情報

 業務上の災害により傷病を負った(または死亡した)労働者またはその遺族(以下、本稿では遺族を含めて「被災労働者」と称する)は、国(直接的には労働基準監督署)に対して、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」と略す)に基づく給付を請求することができる。
 そして、この関係における当事者はあくまで「被災労働者」と「国」であるので、会社(事業主)は、国の判断に不服があった場合でも、「意見を申し出ることができる」(労災保険法施行規則第23条の2)に過ぎず、訴えを提起できない、と(従来は)考えられてきた。

 しかし、先般、この考え方を覆す裁判例(東京高判R4.11.29)が出されて物議を醸している。
 これは、労災保険の給付が認められた被災労働者の雇い主である一般財団法人がその取り消しを求めた事件で、一審の東京地裁は「事業主には原告適格なし」として訴えを却下したが、二審の東京高裁が「原告適格があるものとして審理せよ」と差し戻したものだ。 結審はまだ先になりそうだが、労災保険制度の根幹に影響しかねない問題として識者間で賛否両論が交わされている。

 では、なぜ事業主がそんな訴えを提起するかというと、業務災害の有無によって労災保険料が増減するからだ。これは、「メリット制」と言い、一定規模以上(継続事業の場合、「労働者100人以上」または「労働者20人以上かつ災害度係数0.4以上」)の事業場において、業務災害の有無により翌年度以降3年間の労災保険率を最大40%増減する仕組みだ。
 そのため、事業主は「業務災害と認定される」のを大変に嫌う。 上述の差し戻し審においても、東京高裁は「労働保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれがある」と判示している。

 一方で、厚生労働省に設置された「労働保険徴収法第12条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会」は、次のような報告をまとめている。
  1.労災保険給付支給決定に関して、事業主には不服申立適格等を認めるべきではない
  2.事業主が労働保険料認定決定に不服を持つ場合の対応として以下の措置を講じる
   ア)労災保険給付の支給要件非該当性に関する(行政手続き上の)主張を認める
   イ)支給要件非該当性が認められた場合は労働保険料に影響しないように対応する
   ウ)支給要件非該当性が認められた場合でも、被災労働者への給付は取り消さない

 つまり、行政部局内に事業主の不服の受け皿を用意してメリット制による保険料計算を斟酌する余地を設けつつ、「被災労働者の迅速・公正な保護」という労災保険制度の趣旨は堅持する立場のようだ。 裁判所の判断とは解決の方向性が異なる点が興味深い。
 今後の議論の行方を注視したい。

 ところで、一部には、メリット制の廃止を唱える向きもある。
 しかし、メリット制は、労災事故を起こさないための事業主への動機づけとなり、また、労災事故を起こした事業主に対する“ペナルティー”として機能しているのも事実であるので、“見直し”ならまだしも“廃止”はさすがに難しいだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

通勤途上の傷病でも通勤災害にならないケース

2023-06-03 16:59:16 | 労務情報

 従業員が通勤途上(本稿では逸脱・中断が無いものとして考察する)で事故に遭った場合、通常は、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」と呼ぶ)の療養給付・休業給付・障害給付・遺族給付を受けられる。
 しかし、通勤途上での傷病であっても「通勤災害」として取り扱われないケースもあるので注意を要する。

 その典型例は私傷病によるものだ。 業務や通勤とは無関係の心臓疾患により倒れたようなケースは労災保険でカバーされない(昭50.6.9基収第4039号、名古屋高判S63.4.18等)。
 また、通勤途上で犯罪行為に巻き込まれた場合は、見ず知らずの犯人による“通り魔”的なものであれば「通勤に通常伴う危険が具現化した」と判断されて通勤災害として取り扱われる(昭49.3.4基収第69号)が、その一方、個人的な怨恨によるものであれば(それが誤解に基づくものであっても)「通勤がその犯罪にとって単なる機会を提供したに過ぎない」と判断されて通勤災害とはならない(大阪高判H12.6.28)。

 さて、経営者にとって頭が痛いのは、通勤途上であっても「業務災害」として取り扱われるケースがあることだ。
 業務災害だと、次のような点で会社にとって不利に働く。
  (1) 労働基準監督署に『労働者死傷病報告』を提出しなければならない
  (2) 休業3日間(労災保険から給付なし)について休業補償を要する
  (3) 年次有給休暇の発生基準計算に際して休業した期間は出勤したものとみなす
  (4) メリット制が適用される事業場では次年度の労災保険料が増額する可能性がある
  (5) 療養のために休業している期間およびその後30日間は原則として解雇できない
  (6) 民事上の損害賠償責任を問われる可能性がある

 例えば、上に挙げた心臓疾患により倒れたケースにおいて、その要因が過重労働にあった場合は、業務災害として取り扱われる。 もっとも、こうした事案においては、過重労働の有無や疾病との因果関係が争われることも多いが。
 また、出張中においては、出張先へ向かう道中や出張先からの帰宅中に事故に遭った場合でも、通勤災害ではなく業務災害として取り扱われる。
 ちなみに、労働時間の算定(労働基準法での考え方)にあたっては、出張における移動時間は、「人や物を運搬することが業務の目的である場合」や「移動中に行うべき業務を命じている場合」を除き、労働時間として取り扱う必要はない。

 どうあれ、会社には「労災保険を使わせない」という選択肢は無い。
 それは、「労災隠し」(=犯罪行為)に他ならない。 事故が起きてしまった以上、「轢き逃げ」で罪を重ねずに、正しい手続きを進めるべきことを肝に銘じたい。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする