会社を経営していくうえでは、従業員に辞めてもらいたい場面も生じるかも知れない。
労働契約の終了を会社側から一方的に申し出るのは「解雇」であるが、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効となる(労働契約法第16条)。そのため、解雇には、その効力を争われるリスクを包含していると認識しておかなければならない。
これは、「普通解雇」のみならず、会社側に責任のある「整理解雇」であっても、従業員に責任のある「懲戒解雇」であっても、同じだ。
したがって、合理性や相当性に疑いの余地が残るのであれば、「解雇」ではなく、「退職勧奨」を考えるべきだ。適正な退職勧奨による合意退職であれば、後日争いになるリスクはほぼゼロに近いからだ。
また、会社にとっては解雇予告(または解雇予告手当)が不要であることや、本人にとっては「解雇された」と言うよりも「退職勧奨に応じた」と言うほうが“腑に落ちやすい”ことも、メリットとして挙げられるだろう。
このように、「解雇」に比べてメリットが多いように思える「退職勧奨」だが、デメリットもあるので注意しておきたい。
その最大のものは、「従業員には退職勧奨に応じる義務は無い」ということだ。
退職勧奨は文字通りあくまで“勧奨”であるので、本人に断られてしまう可能性もある。複数回の退職勧奨を行ってはいけないわけではないが、あまりに執拗であると「退職勧奨の域を超える退職強要」と断じられる(最一判S55.7.10等)こともあるので、注意したい。
そしてもう一つ、退職勧奨には大きなデメリットがある。
それは、懲戒解雇すべき事案であった場合に退職勧奨で退職させてしまうと、「懲戒」の意味合いが薄れてしまうということだ。「問題社員を社外に放逐する」という結果は同じであったとしても、不祥事の原因や経緯が明確にならず、そのため、同様の事案が再発する危険性が消し切れないことは承知しておかなければならない。
「解雇の前に退職勧奨を考えるべき」ではあるものの、「退職勧奨は良い事ずくめ」ではないことも、理解しておきたい。
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