従業員が事業の執行に伴って第三者に損害を与えた場合、原則的には、使用者(会社)がその責任を負わなければならない(民法第715条第1項)が、その一方で、同条第3項は、それを当該従業員に求償することを妨げない旨を定めている。
とは言え、賠償した全額を従業員に求償するのは、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべき」(最一判S51.7.8)とされ、当該従業員の故意や重過失による場合を除き、認められない。 これは、「報償責任の原理」(利益の存するところに損失も帰する)に基づく考え方だ。
さて、ここまでは「会社が被害者に対して損害賠償し、それを当該従業員に求償する」という構図の話だ。 では、その逆に、「従業員が被害者に対して損害賠償し、それを会社に求償(「逆求償」とも呼ばれる)する」ということは、可能なのだろうか。
こういうケースを法律は想定していないが、結論を言えば、「可能」だ。
トラックドライバーが業務遂行中に交通事故を起こして相手方に支払った損害賠償金について当時の雇い主に求償した事案(佐賀地判H27.9.11、福岡高裁上告棄却H28.2.18)において、裁判所は、「当該被用者の責任と使用者の責任とは不真正連帯責任の関係にある」として、会社にその7割を支払うよう命じている。
もっとも、求償の可否以前に、そもそも業務中に事故を起こした従業員が勝手に示談を進めてしまうこと自体、会社は許すべきではない。 “事故隠し”につながりかねないばかりでなく、例えば過剰請求といった新たな不正を生む可能性もあるからだ。
こうした事態を防ぐため、会社は「事故発生時には速やかに会社に報告し、対応について指示を受ける」旨を就業規則に定め、それを従業員に順守させることを徹底すべきだろう。 そして、事故を起こしたことよりも、それを「報告しなかったこと」に対する処分をより厳しいものとすることで、その実効性を担保したい。
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