この状況下、従業員の退職(解雇を含む)にあたって「退職金が支払えない」という経営者の声を聞くことが多くなってきた。
しかし、就業規則等に退職金を支払う旨の規定が明文化されている場合は言うに及ばず、明文規定が無い場合であっても慣行的に退職金を支払ってきたなら(民法第92条にいう「慣習」があったなら)、「支払わない」という選択肢はありえない。
懲戒解雇のケースですら、「労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な背信行為がない限り退職金の不支給は許されない」とする裁判例(名古屋地判S47.4.28、東京高判H15.12.11等)があるくらいだ。
また、「減額して支払う」のも、「退職金支払い債務の不完全履行」になってしまう。
就業規則を変更して退職金の計算式を変えるという(小手先の)方策も考えられないではないが、まず労働契約法第10条に列挙された要件を満たすのはハードルが高いうえ、そもそも、法的に義務づけられていない退職金制度を導入した当初の趣旨が薄まりかねないので、ここで戦術の一つとして性急に用いるべきではない。
では、「分割払い」は許されるかというと、これも、就業規則等に定められた支払い期日までに全額を支払わなければ「履行遅滞」ということになる。
ちなみに、就業規則等に支払い期日の定めが無い場合は(支払期日を定めていないこと自体が労働基準法第89条違反であるが)、労働基準法第23条が適用され、請求された日から7日以内に支払わなければならない(大阪地判S60.12.23)。
しかし、そうは言っても、会社の資金繰り事情から一時金で支払うのが難しいのであれば、それを退職者に真摯に説明し、分割払いを了解してもらうしかあるまい。
「分割払い」でなく「支払いの延期」でも、両当事者が同意していれば可能なのは同じだが、退職者にしてみれば本当に支払ってもらえるかの不安がぬぐえない「支払いの延期」よりも、支払いの意思が見える「分割払い」の方が、同意しやすいだろう。
なお、説得にあたっては、そこに詐欺や強迫があってはならず、あくまで“お願い”の姿勢を貫かなければならない。
そして、了解を得られたなら、必ず「同意書」を交わしておくべきだろう。
これは、退職者が分割払いに同意したことの証拠であるが、それ以上に、退職者を安心させる材料でもあって、後のトラブルに発展させにくくすることが期待できるからだ。
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