役員(取締役、執行役、監査役、会計参与、理事、監事等)として登記されている一方で、労働者としての身分も有する者を、「使用人兼務役員」と呼ぶ。
具体例を挙げると「取締役営業部長」・「取締役工場長」等がこれに該当するが、労働基準法第9条は「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しているので、必ずしも「部長」等の役職に就いていることを要しない。 極論を言えば、仮にパートタイマーであったとしても、また、会社法や税法では使用人を兼ねることができないとされる「監査役」「委員会設置会社の取締役」「同族会社のみなし役員」等であったとしても、指揮命令を受ける立場にあり、その対価としての賃金が支払われている場合は、その範囲において「労働者」とされ、労働基準法をはじめ、最低賃金法・労災保険法・男女雇用機会均等法等の各種労働法令の適用を受けることになる。
ただし、代表権・業務執行権を有する役員(代表取締役、専務・常務等のいわゆる役付き役員等)は、基本的には労働者性を有しないものとして取り扱われる。
一方、雇用保険においては、雇用関係があると認められ、賃金額が役員報酬額を上回る場合に、管轄ハローワークに『兼務役員雇用実態証明書』を提出して被保険者資格を取得する。 つまり、労働基準法や労災保険法では労働者とされていても、雇用保険の被保険者になるとは限らないのだ(このことは役員を兼務しない一般のパートタイマー等であっても同じ)。
ちなみに、一部ウェブサイトには「要件に当てはまれば雇用保険に加入することが“できる”」との表現も見られるが、「要件に当てはまる者は雇用保険の被保険者と“なる”」(強制適用)のが正しく、被保険者資格取得手続きをするかしないかを会社や本人が任意的に選択できるわけではない。 その点は誤解のないようにしておきたい。
そして、労災保険・雇用保険の対象となる以上、労働保険料の算定基礎には、無論、使用人兼務役員の賃金部分も含めなければならない。
ところで、使用人兼務役員が就業中に負傷した場合の手続きに関しては、特に注意を要する。
例えば、取締役営業部長である者が取引先との商談中(労働者としての業務遂行中)に事故に遭った場合は労災保険から補償給付を受けられるが、株主総会への出席中(取締役としての業務遂行中)に事故に遭った場合は労災保険の対象とならないばかりか、健康保険の給付も受けられない。
使用人兼務役員を置いている会社では、こういったことを踏まえたうえで、必要に応じて民間保険を活用する等の策を講じておかなければならないだろう。
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