労働安全衛生法は「職場における労働者の安全と健康の確保」と「快適な職場環境形成の促進」を主目的にしているが、その対象を自社の従業員のみならず、同じ場所で就業する個人事業主にも適用範囲を拡大する方向で検討されている。
その発端は、国を相手取って起こされた「建設アスベスト訴訟」と呼ばれる一連の訴訟において、「国が規制権限を適切に行使しなかったことは違法」とする裁判例(最一判R3.5.17)が出されたことに始まる。 その争点の一つに「同法第22条(健康障害防止措置)の規定は一人親方等も対象とするのか」というものがあったが、これについて最高裁は「労働者と同じ場所で働く労働者以外の者も保護する趣旨」との判断を示した。
これを受けて、厚生労働省は、この規定に係る11の省令について、請負人や同じ場所で作業を行う労働者以外の者に対しても労働者と同等の保護措置を講じることを事業者に義務付ける改正を行い、令和4年4月に公布している。
一方、その議論の中で、第22条以外の規定に関しても労働者以外の者に対する保護措置などについて検討することとされ、それを「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」で検討しているのだ。
この検討会では、当初こそ、「“建設現場における一人親方”に対する安全対策」を重点に議論されていたが、回を重ねる中で、建設業に限らずすべての業種において、注文者等に安全配慮義務(または努力義務)を課す方向に流れつつある。
例えば、第66条ないし第66条の10(健康診断・ストレスチェック等)を「自社の従業員以外にも受診を促す」、第57条(危険物の表示等)は自社の従業員以外にとっても必要な措置、といった形になりそうだ。
また、自社の従業員以外の者が死亡・負傷した場合(疾病は業務上外の判断が困難であるため今のところ除外されている)には、労働安全衛生規則第97条(労働者死傷病報告)に準じた報告の提出義務を課すことも提案されている。
もし、これが法令に明文化されたら、自社の従業員と同じ職場で働く(場合によっては職場に自社の従業員すらいなくても)発注先の個人事業主に対して、その安全や衛生に配慮しなければならないこととなる。 そして、それは、建設業だけでなく、すべての業種に影響する話だ。
もっとも、政省令レベルでなく法律の改正を要する内容であるので今日明日に決まるものではなさそうだが、今のうちから対処を考えておくのも悪くないだろう。
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