今年10月4日、東京都では、全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」が制定され、令和7年4月1日から施行されることとなった。
【参考】東京都産業労働局「TOKYOノーカスハラ支援ナビ」
その内容は、カスタマーハラスメントを「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為(※)であり、就業環境を害するもの」と定義したうえで、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として「カスタマーハラスメントの禁止」を明記したことが特徴的だ。
そして、事業者に対しては、都が発するガイドラインに基づいて、「必要な体制の整備」、「カスタマーハラスメントを受けた者への配慮」、「カスタマーハラスメント防止マニュアルの作成」等の努力義務を課している。
※暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言など不当な行為
そもそも、会社は、従業員が生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮しなければならない(労働契約法第5条)。
したがって、この条例に拠らずとも、また、東京都以外の会社においても、従業員がカスタマーハラスメントを受けないようにし、カスタマーハラスメントを受けた場合にはその従業員を守るための対処を講じるべき義務を負っているのだ。
また、令和5年9月に改定された「業務による心理的負荷評価表」(労災認定の指標)には、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が入っており、カスタマーハラスメントとそれへの会社の対応により労災事故と認定される可能性がある。 この通達自体は労災保険に関するものだが、会社の民事責任を判断する材料ともなりうる。
もし会社がカスタマーハラスメントへの対応を誤ると、被害者の矛先が会社に向きかねない。
「訪問した児童宅で飼い犬に噛まれて負傷した教諭がその損害賠償に関し児童の家族から土下座での謝罪を求められ、同席していた校長がそれを強要した」として被告の山梨県に損害賠償を命じた裁判例(甲府地判H30.11.13)は、発端はカスタマーハラスメントであったものの上司が対応を誤ったためにパワーハラスメントの話と化した事例と言える。
なお、誤解してはならないが、顧客等からの正当なクレームは、自社の商品・サービスの品質改善にもつながるもので、これには真摯に向き合うべきだ。
しかし、それが「要求内容に妥当性の無いもの」や「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当でないもの」、そして「それによって労働者の就業環境が害されるもの」は、紛うかたなくカスタマーハラスメントであるので、経営者として毅然と対処しなければならない。
【参考】厚生労働省『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』
明るい職場応援団「職場におけるハラスメント対策研修動画」
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