ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

労働関係法令違反の公訴時効が3年とは限らない

2022-09-03 12:59:42 | 労務情報

 労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法等の労働関係法令には、違反した場合の刑事罰が設けられている。
 つまり、これらの法令に違反する行為は、すなわち“犯罪”なのだ。
 そのうち最も重たいものは、労働基準法第5条(強制労働の禁止)違反で、罰則は「一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金」(同法第117条)とされている。

 労働関係法令違反事案は、労働基準監督官が刑事訴訟法における司法警察員(同法第102条;司法警察職員等指定応急措置法第2条により「司法警察官」を「司法警察員」に読み替え)として捜査・送検(大多数が書類送検)し、検察が起訴(公訴)することになっている。 もっとも、現実に刑事訴訟にまで進むのは、悪質なケースに限られているが。

 そして、刑事事件は次の期間を経過すると時効が完成する(刑事訴訟法第250条第2項)。
  四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
  五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
  六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
  (一部略)
 これにより、民間企業(労働安全衛生法で定める特定機関を除く)にとっては、強制労働以外の労働関係法令違反は「3年」で公訴時効が完成すると解釈できる。

 しかし、これには落とし穴がある。
 というのも、例えば、職場内ハラスメントにより従業員が心身を病み、あるいは死に到ったようなケースでは、経営者が、労働関係法令違反ではなく、傷害(刑法第204条;十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金)や業務上過失致死傷等(同法第211条;五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金)の罪に問われることがあるからだ。
 そうなると、傷害なら10年間、過失致死傷でも5年間は、検察は起訴することができる。

 もし「労使間の紛争に関しては、強制労働でない限り3年を経過すれば刑事罰を科される心配は無くなる」と思っている経営者がいるとしたら、その認識は改めるべきと言える。
 また、ここで論じたのは刑事訴訟法における公訴時効の話であって、民法における消滅時効は別の定めがある。刑事上の責任を問われることは無くなっても、民事上の責任を問われる可能性は残っていることは忘れてはならない。


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