ここ数日の雨で
ふと子供の頃の不思議な体験を思い出した…
多分、小学校に上がる前だったと思うが、
いつも同じ夢をみてうなされた。
夢の中の私は、赤地に黒い菱形模様の厚手のネルの寝巻きを着ていた。
そして、いつも当時住んでいた生家のそばの大きな池の前に佇んでいた…
地元の人間はその池を「つつみ」と呼んでいた。
漢字で書けば「堤」だが、何のための池なのか子供の私は知らなかった。
おそらく農業用の溜池だと思うが、
子供の私には、とてつもなく大きな池のようにみえた。
夢は、ネルの寝巻きを着て「つつみ」のそばに佇んでいるだけで終わらなかった…
水面に向かって真正面から、
手を広げたままの格好で落ちていくのだ…
毎回、恐怖で目が覚めた…
それから数年経ち、
小学校の4年生くらいだったろうか?
雨の降る夜に、その事故は起きた。
200mくらい先の家に住んでいる老婆が「つつみ」に落ちて亡くなった…
大雨の中、仕事から帰ってくる息子を傘を持って駅まで迎えに行く途中だったらしい…
外灯もなく、真っ暗な道を歩いていて、
川のようになった道と「つつみ」との境が見えなかったらしい。
老婆は「◯ミばあさん」と呼ばれていた。
偶然だが、
私と同姓同名、漢字まで同じだった…
◯ミばあさんが、亡くなった後、
登校中に「つつみ」の前を通ると、
池のほぼ中央に何か棒のような物が立っていた。
よく見ると先が曲がっている…黒い傘だった。
◯ミばあさんが、持っていた息子の傘だと知ったのは、
近所のおばさんたちが、そう言っていたからだ。
垂直にしっかりと池の底に刺さっているらしく、
黒い傘は長い間、そのままになっていた…
それからまた数年経って、
中学生になった私に一通の封書が届いた。
父が開けて読んだらしく
「耳が悪いのか?」
と訊いてきた。
封書には私の名前と、
『その後、補聴器の調子はいかがですか…』
というようなことが書かれていた…
一瞬何のことが理解できなかったが、
次に浮かんだのが、◯ミばあさんの事だった。
それまで、◯ミばあさん宛の郵便物が誤配されたことはなかったのだが、
きっと、うっかりした郵便局の配達員が間違って届けたに違いない。
けれど、不思議だ。
亡くなってから、もう何年も経っているのに…
そのことを母に話すと、
「気味が悪い」と、眉を寄せた。
あれから半世紀が過ぎ、
すっかり忘れていたが、
このところの長雨で、この話を思い出した。
雨の日の夜は、出歩かないに限る。
合掌…