斉藤惇夫
さあゆこう仲間たちよ
住みなれたこの地をあとに
曙光さす地平線のかなたへ
聞こえるだろう ほら
梢をゆする風の中に
流れ下る河の歌声が
さあゆこう仲間たちよ
ふりそそぐ日の光を背に
若草もえる岸辺のはてへ
聞こえるだろう ほら
川面をわたる風の中に
はるかとどろく潮鳴りが
われら草の根をまくらに
旅を住処とし
久遠の郷愁を追いゆくもの
さあゆこう仲間たちよ
うずまきさかまく大海原を
残照輝く水平線のかなたへ
聞こえるだろう ほら
あれくるう風の中に
自由と愛のほめ歌が
死んだ男の残したものは 谷川俊太郎
死んだ男の残したものは
一人の妻と一人の子供
他には何も残さなかった
墓石ひとつ残さなかった
死んだ女の残したものは
しおれた花と一人の子供
他には何も残さなかった
着物一枚残さなかった
死んだ子供の残したものは
捩れた足と乾いた涙
他には何も残さなかった
思い出ひとつ残さなかった
死んだ兵士の残したものは
壊れた銃と歪んだ地球
他には何も残せなかった
平和ひとつ残せなかった
死んだ彼らの残したものは
生きてる私生きてるあなた
他には誰も残っていない
他には誰も残っていない
死んだ歴史の残したものは
輝く今日とまた来る明日
他には何も残っていない
他には何も残っていない