仕事前の、歌の練習したり、洗濯したり、床拭きしたりしてた午後、急に玄関のベルが鳴った。
時間を確かめると、誰も来る予定の時刻では無い。
宅配の車が停まった音も聞こえなかった。
こういう時はドアを開けるのが躊躇われる。
ドアを開けると、そこには二人の女性が立っていた。
ふたりともとてもにこやか。
ひとりはドアのすぐそばに、もうひとりは階段のそばに、少し距離を置いて立っていた。
ドアの方に居る女性の手に、宗教のパンフレットのような冊子があった。
ああやっぱり……。
「Can you speak Japanese?」
う~んう~ん……困ったなあ……わたしは神のような、なにかとてつもなく大きな存在を信じているし、八百万の神様を確信しているけれど、
こういう、ある一定の団体や集団に属する、という状態がすごく苦手で、それらにつながる事には足を踏み入れないと決めている。
こう決めたのには訳がある。足を散々踏み入れて、すっかり心が疲弊してしまった経験があるから。
だからうそをついた。
信仰を勧めに来てくれている、見るからに温和そうな日本人女性ふたりに、わたしは心苦しかったけれどうそをついた。
「No, I can't」
するとふたりはびっくりしたような表情で、互いに顔を見合わせた。
もう今さら後には引けなくなったわたしは、発音が日本人英語にならないように注意しながら、彼女達の質問にさらに答えなければならなくなった。
「御国は中国ですか?韓国ですか?」
「韓国です」(これはまんざら完璧なうそでもない。なぜなら、韓国人の誰もが、おまえは韓国人だと太鼓判を押すのだから)
「そうだったんですか。それはそれは失礼しました。わたし達はこの家にはきっと、日本人の方が住んでいらっしゃると思ったもんですから」
え……?
わたしの脇の下に、うっすらと汗がにじんだ。いったい、なにを根拠に、彼女はそんなことを言うんだろう。
「だってこれ」
と、彼女が指を指した所に視線を移すと……招き猫の風鈴……ぐわぁ~ん……が郵便受けにぶら下がっていた。もちろんわたしがぶら下げたのだ。
「あ、ああ、これは、日本人の友人からもらったのです」
彼女達はつるりとわたしのうそを信じてくれた。それからもしばらく英語で話をしてから、「どうもお邪魔しました」と丁寧に詫びながら去って行った。
この話をすると、どんなことにしてもうそが大っ嫌いな旦那は、「どうして普通に断れなかったんだ」とわたしを叱った。
久しぶりについたうそは、思った以上にわたしの心を傷つけた。
ごめんなさい。
時間を確かめると、誰も来る予定の時刻では無い。
宅配の車が停まった音も聞こえなかった。
こういう時はドアを開けるのが躊躇われる。
ドアを開けると、そこには二人の女性が立っていた。
ふたりともとてもにこやか。
ひとりはドアのすぐそばに、もうひとりは階段のそばに、少し距離を置いて立っていた。
ドアの方に居る女性の手に、宗教のパンフレットのような冊子があった。
ああやっぱり……。
「Can you speak Japanese?」
う~んう~ん……困ったなあ……わたしは神のような、なにかとてつもなく大きな存在を信じているし、八百万の神様を確信しているけれど、
こういう、ある一定の団体や集団に属する、という状態がすごく苦手で、それらにつながる事には足を踏み入れないと決めている。
こう決めたのには訳がある。足を散々踏み入れて、すっかり心が疲弊してしまった経験があるから。
だからうそをついた。
信仰を勧めに来てくれている、見るからに温和そうな日本人女性ふたりに、わたしは心苦しかったけれどうそをついた。
「No, I can't」
するとふたりはびっくりしたような表情で、互いに顔を見合わせた。
もう今さら後には引けなくなったわたしは、発音が日本人英語にならないように注意しながら、彼女達の質問にさらに答えなければならなくなった。
「御国は中国ですか?韓国ですか?」
「韓国です」(これはまんざら完璧なうそでもない。なぜなら、韓国人の誰もが、おまえは韓国人だと太鼓判を押すのだから)
「そうだったんですか。それはそれは失礼しました。わたし達はこの家にはきっと、日本人の方が住んでいらっしゃると思ったもんですから」
え……?
わたしの脇の下に、うっすらと汗がにじんだ。いったい、なにを根拠に、彼女はそんなことを言うんだろう。
「だってこれ」
と、彼女が指を指した所に視線を移すと……招き猫の風鈴……ぐわぁ~ん……が郵便受けにぶら下がっていた。もちろんわたしがぶら下げたのだ。
「あ、ああ、これは、日本人の友人からもらったのです」
彼女達はつるりとわたしのうそを信じてくれた。それからもしばらく英語で話をしてから、「どうもお邪魔しました」と丁寧に詫びながら去って行った。
この話をすると、どんなことにしてもうそが大っ嫌いな旦那は、「どうして普通に断れなかったんだ」とわたしを叱った。
久しぶりについたうそは、思った以上にわたしの心を傷つけた。
ごめんなさい。