ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

「痛苦のチェルノブイリ事故から我々が学び取るべき教訓は、汚染から子供達を逃がす事!」by松崎医学博士

2012年09月01日 | 日本とわたし
以下の意見書は、今年の5月19日に、深川市立病院内科の医師であり、医学博士でおられる、松崎道幸氏が書かれたものです。

この意見書を読み、今だ、汚染地に閉じ込められている子供達を救う手段を、わたしと一緒に考えてくださいませんか?

被ばくと仲良くし、気分良く暮らす、などということは、この世に存在しないのだと、
こんな当たり前のことを、どうして、もっと多くの専門家の方々が声に出さないのか。
わたしは心の底の底から、未来を、生命を疎かにするシステムを呪いたい。

転載にあたり、pdfに載せられた図を写すことができませんでしたので、
興味がおありの方は、ご面倒ですが、実際のpdfを御覧ください。


意見書

今、福島のこども達に何が起きているか?

ー甲状腺障害、呼吸機能、骨髄機能をチェルノブイリ事故等の結果から考慮するー

松崎道幸
(自筆サインと印鑑が押されています)
(深川市立病院内科・医学博士)

2012年5月19日

目 次

1.略歴

2.甲状腺障害
 ① 福島調査
 ② 長崎調査
 ③ 米国等調査
 ④ チェルノブイリ地域調査
小括

3.呼吸機能
4.骨髄機能
小括


1.略歴

氏名 松崎道幸(まつざきみちゆき)(1950年6月26日生)
 1975年3月 北海道大学医学部卒業
 1975年4月 北海道大学医学部第1内科学教室
      以後 国立札幌病院血液内科・市立旭川病院循環器内科・江別市
立総合病院内科・札幌市南保健所における勤務を経て、
1984年10月より 深川市立総合病院
         現在 内科部長

2.甲状腺障害

① 平均年齢が10才の福島県の子どもの35%にのう胞が発見された

福島第一原子力発電所事故の影響を明らかにするために実施中である「福島
県民健康管理調査」における福島の子どもの甲状腺検診調査結果(本年4月26日発表分)(*)を概述します。

(*)【下記からダウンロード可能】
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240125shiryou.pdf

発表された検査の実施状況と結果概要は別紙1の通りです。
これによれば、 甲状腺検診を受けたこどもの年齢分布は、
0-5才9826名、
6-10才10662名、
11-15才11466名、
16-18才6160名でしたので、
平均年齢は10才(小学4~5年前後)と言うところです。

実際の検診所見をまとめると、次のようになります。

「結節」が 1%、「のう胞」が 35.1%でした。

福島県の乳幼児から高校生を対象とした調査で、甲状腺超音波検査による「のう胞」保有率が高いのか低いのかについて、
過去に報告された調査研究成績をもとにして述べたいと思います。


② 長崎県の7才から14才のこども250人中、甲状腺のう胞が見られの
は0.8%(2人)だった(山下俊一氏調査)


【この論文は下記からダウンロード可能】
https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrj1993/48/5/48_5_591/_article

福島大学副学長山下俊一氏らのグループが、2000年に、長崎県のこども(7~14才)250人を、超音波で調べたところ、
のう胞を持っているこどもは2人(0.8%)でした
(別紙2の論文593頁右段3~5行目)。


③ 甲状腺のしこりやのう胞は、生まれた時はほとんどゼロだが、5才過ぎから徐々に増え始め、20才になると10人に一人が甲状腺にしこりやのう胞が出
来る(ニュー・イングランド・ジャーナルMazzaferri氏論文)


1993年に発表された論文(Mazzaferri EL.他。Management of a solitary
thyroid nodule. N Engl J Med. 1993 Feb 25;328(8):553-9.別紙3の論文)によれば、
主に米国人を対象に、超音波検査や解剖検査で調べると、
甲状腺の「結節nodule」(この論文では、腫瘍とのう胞をまとめて結節と定義している)は、生まれた時はほとんどゼロですが、
5才過ぎから、年齢に比例して、徐々に増え始め、
20才になると、10人に1人が、甲状腺にしこりやのう胞を持っている状態
となっていました(下図参照:上記論文の図1より作成。●超音波検査または解剖による頻度。□触診による頻度)。
また、「結節」の25%~35%が「のう胞」だったと述べられています。


過去に放射線被ばくあるいは甲状腺疾患のない者における甲状腺結節の頻度。
触診と超音波検査・解剖検査による検出率の比較。


このグラフ(pdf4ページの図)を見ると、
10才前後の子ども集団の甲状腺「結節」の頻度はせいぜい1~2%となります。
そのうち25~35%が「のう胞」ですから、のう胞保有率は0.5~1%程度と考えられます。



④ チェルノブイリ地域の18歳未満のこどもの甲状腺のう胞保有率は0.5%
だった。(日本財団調査)


【この文献は下記からダウンロード可能】
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1999/00198/contents/012.htm


福島大学の副学長山下俊一氏が、チェルノブイリ事故の5年後から10年後
まで、放射線被ばくの著しいチェルノブイリのゴメリ地域とその周辺で、のべ16万人の、こどもの甲状腺を超音波で検査しました。 
この調査では、「結節」と「のう胞」を分けて記載していますので、「結節」=充実性の腫瘍、と言う意味になります。
その結果、0.5%にのう胞が、同じく0.5%くらいに「結節(充実性腫瘍)」が見られたということでした。
(下図[pdfの5ページ参照]は、上記のURLから取得した資料の図11です)

図11・甲状腺超音波診断画像異常所見発見頻度(%)の年次推移(1991~1996)


⑤ 福島調査の「のう胞」保有率は、過去のどの調査よりも高率である

以上の4つの調査成績を一覧表にまとめてみると、今回発表された「福島県
民健康管理調査」のこどもの甲状腺検診の結果は、驚くべきものであることが分かります。
3分の1のこどもの甲状腺に、「のう胞」ができていたからです。
「のう胞」とは、液体のたまった袋です。
これがあるからと言って、直ちに甲状腺がんが起きる恐れがあるとは言えませんが、
甲状腺の内側に、何か普通とは違ったこと(ただれ=炎症あるいは細胞の性質の変化)が起きていることを指し示していると考える必要があります。

検討対象              事故による放射線被ばく     のう胞保有率
1 福島県0~18才児(平均年齢10才)  あり              35%
2 長崎県7~14才児          なし              0.8%
3 米国等10才児           なし              0.5~1%
4 チェルノブイリ原発周辺18才未満児 あり              0.5%


【1の小括】

1. 内外の甲状腺超音波検査成績をまとめると、
10才前後の小児に「のう胞」が発見される割合は、0.5~1%前後である。

2. 福島県の小児(平均年齢10歳前後)の35%にのう胞が発見されていることは、
これらの地域の小児の甲状腺が望ましくない環境影響を受けているおそれを強く示す。

3. 以上の情報の分析、および追跡調査の完了を待っていては、これらの地域の小児に、
不可逆的な健康被害がもたらされる懸念を強く持つ。

4. したがって、福島の中通、浜通りに在住する幼小児について、
避難、および検診間隔の短期化等、予防的対策の速やかな実施が強く望まれる。

5. 以上の所見に基づくならば、山下俊一氏が、全国の甲状腺専門医に、
心配した親子がセカンドオピニオンを求めに来ても応じないように、文書を出していることは、
被ばく者と患者に対する、人権蹂躙ともいうべき、抑圧的なやり方と判断せざるを得ない。


3.呼吸機能

サウスカロライナ大学疫学生物統計学部のスベンセン博士らのグループは、2010年に、
セシウムによる高汚染地域に住み続けたこどもたちの肺の働きが、悪くなっていることを明らかにしました。

【この文献は下記からダウンロード可能】
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2866691/?tool=pubmed

チェルノブイリ核事故被害を受けた、ウクライナの小児におけるセシウム137曝露と、呼吸機能の関連。 
スベンセン(サウスカロライナ大学疫学生物統計学部)他.Environ Health Perspect.(環境医学展望誌)118巻2010年5月号、720~5ページ。

この調査では、18才未満の415名のこども(最多年齢8-9才)の呼吸機能を、1993年から1998年まで追跡調査しました。
その結果、最もセシウムによる土壌汚染の高い地域(平均355キロベクレル/㎡)に住み続けていた子どもは、
最も汚染の少ない地域(平均90キロベクレル/㎡)に住み続けていた子どもよりも、一秒量が4~5%低下していることが分かりました。
一秒量とは、精一杯息を吸い込んだ後、一気に吐き出して、最初の1秒間に、肺活量の何%を吐き出せるか、その比率を見たものです。
小学生くらいの子どもなら、1秒間に3リットル以上呼出できます。
その量が、4~5%低下すると言うことは、絶対量で、100ccから150cc低下すると言うことになります。
普通、肺の働きは、20才前後が最良で、その後は年をとるにつれて、一秒量ならば、毎年20~30ccくらいずつ減ってゆきます。
一秒量が150cc減る、と言うことは、5年から7年位、肺が早く老化する、あるいは、成長しきれなかったことを意味します。
ウクライナの、355キロベクレル/㎡の放射能汚染の土地に住み続ける子どもは、
放射能汚染のない地域のこどもよりも、肺年齢が、5年以上早く、老化することになります。
現在の福島なら、どこが355キロベクレル/㎡で、どこが90キロベクレル/㎡でしょうか。

これは、文部省が昨年作った、土壌汚染の分布図です。


紺色の部分が、60~100キロベクレル/㎡で、中通りの山すそを縁取るように分布しています。
この論文で言う「低汚染地域」に当たります。

明るい水色の部分、300~600キロベクレル/㎡で、ウクライナの「最高度汚染地域」に当たります。
福島市と郡山市など、中通りのすべての地域は、「低」と「最高」の中間の汚染度になっています。

したがって、現在福島の浜通りと中通りに住んでいる子どもは、肺の働きが数年早く、低下(老化)するおそれがあることになります。
さらに、この論文では、低汚染地域を比較の基準としているため、被ばくの影響を少なく見積もっていることになるので、
実際に起きる健康被害は、もっと大きくなることを覚悟する必要があります。


4. 骨髄機能

次にお示しする論文は、高度汚染区域に住み続けたこどもでは、放射線被ばくで、
血液を作る働きが落ちて、白血球が減ったり貧血になる、と言うデータです。

これは、2008 年に、ウクライナ医学アカデミー放射線医学研究センターのステパノーバ博士が、環境医学誌に発表した論文です。
ウクライナのジトミール、ナロジケスキー地区に住む、1251名の子どもの血液を、事故の7年後から11年後まで追跡調査したものです。

【この文献は下記からダウンロード可能】
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2459146/

ステパノーバ(ウクライナ医学アカデミー放射線医学研究センター)他、チェルノブイリ事故による放射線汚染が、
ウクライナ・ナロージケスキー地区の小児の赤血球数、白血球数、血小板数に及ぼす有害影響。環境医学誌。7巻 2008年5月号、21 ページ~。

それによると、汚染の高度な地区(350~879キロベクレル/㎡)の子どもは、
汚染の少ない地区(29~112キロベクレル/㎡)より、20%近く白血球数が少ない(5810対6870)ことが分かりました。
血小板数と赤血球数も、5~10%ほど少なくなっていました。


現在の福島で言うと、前掲地図で紺色の中通り周辺が、低汚染地域、
緑色の川俣町(飯館村外縁)周辺が、高度汚染地域にあたります。
したがって、この論文から医学的に想定しなければならないことは、
現在、福島の浜通りと中通りに住んでいる子どもは、血液を作る骨髄機能が、長期間、妨害されるおそれがあるということです。
白血球が減ると、細菌やウイルスに対する抵抗力が減ります。
赤血球が減ると、貧血になりやすくなります。
血小板が減ると、怪我をした時に、血が止まりづらくなります。


しかも、もしも、何か別の病気や、肉体的ハンディを持っている子どもさんが、現在の福島中通り・浜通りに住んでおられる場合には、
この程度の骨髄機能への影響によっても、もともとの病気やハンディが、さらに悪化する恐れを考慮する必要があります。
さらに、この論文では、低汚染地域を比較の基準としているため、被ばくの影響を少なく見積もっていることになるので、
実際に起きる健康被害はもっと大きくなるだろうと、覚悟をする必要があります。



【3,4の小括】

1. 福島県中通地方は、チェルノブイリの高汚染地区に匹敵する、放射能汚染が続いている。

2. チェルノブイリの疫学調査から、そのような地区に長期間居住する子供たちに、深刻な呼吸機能異常と、骨髄機能異常が見られることが指摘されている。

3. 将来のあるこども達に、起こるおそれのある不可逆的な健康被害を予防するためには、
速やかに、汚染地域から避難する必要があることは明白であり、それこそが、痛苦のチェルノブイリ事故から我々が学び取るべき教訓である。


以上
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