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七月のこゑ白雲が蜂起せり 千代田葛彦
大分以前になるが、このブログで獅子文六の短編、『赤井鼻雄』を取り上げたことがある。農地改革で、土地を失った地主の息子が、辛ナンバンを肴にどぶろくを飲み、鼻が赤くなる話だ。獅子のユーモア小説の真髄を見せらた気がした。先日買った戸板康二の『あの人この人』を読んでいると、獅子文六は岩田豊雄であり、小説の書く時は獅子文六をペンネームとし、本業の演劇の演出の方は本名を通していた。獅子文六は、四四、十六をもじったという説があるが、文豪の一つ上の十六だ、ということが書いてある。
戸板が岩田に聞かれた。最近、面白い演劇はないかという質問だが、あれこれ考えて、戸板が推薦したのは、井上ひさしが脚本を書いた「日本人のヘソ」であった。女優が田舎から出てきて、ソープランドの女になるという話であった。二人は恵比寿の出来立ての舞台でこの演劇を見た。演出は早野寿郎で、なかなか良い出来であった。岩田は舞台が気に入ったらしく、終了後に挨拶に来た井上ひさしに「ヤア」と微笑して握手の手を差し伸べた。井上ひさしにあるユーモアのセンスが、岩田豊雄という演出家に通じるものがあったのかも知れない。