雨上がりの白鷹山に登った。雨に洗われた新緑は、目に沁みるのはもちろんだが、緑に力強さが加わっている。草木の生命の息吹が、その色を通して伝わってくる。その下を歩いて心地よいのは、その生命力を皮膚に受け取るからであろう。白鷹山は標高994mに過ぎず里山と思われがちだが、北東に開けた4㌔に及ぶ爆裂火口を持つれっきとした火山である。火口底の凹部にできたのが、大沼、荒沼などの湖沼群を持っている。県民の森として、水辺で親しまれてきた由縁でもある。
嶽原登山口から山頂を目指し、帰路は大平口に降りるコースを取った。入山して間もなく杉の美林が見えてくる。これは大正13年に、昭和天皇のご成婚を祈念して植林されたものだが、伐採の時期を迎えても切らずに、記念林として残されたことが看板に書かれていた。心配された雨も上がり、木立の上には青空ものぞいてくる。本日の参加者は10名、内女性4名。山頂まで1時間と少しというコースの気軽さもあって、野鳥の鳴き声に癒され、伸び始めた山菜の探索に余念がない。
山頂の神社に祀られているのは虚空蔵菩薩である。周辺の村落からは養蚕の神様として信仰を集めてきた。また米沢城の鬼門にあたるため、城の守り本尊として上杉鷹山公の信任も篤かったと伝えられている。虚空蔵尊は、宇宙のように広い知恵と慈悲持った菩薩として崇められているが、生まれ年によってこの菩薩を守り本尊とする信仰が広くある。何人もの人から自分の守り本尊は虚空蔵さんだから、年に一度お詣りに白鷹山に登るという話も聞いたことがある。因みに白鷹山は虚空蔵山と呼ばれることもある。
頂上から雨量計まで。日当たりのよい台地状になっている。ここからは、参加者の希望もあって山菜取りタイム。雪解けを待っていたようにワラビやウドが出始めている。西のスキー場へと続く斜面ではハンググライダーを楽しむ一団が。折からの西風を受けて、帆に風を孕んで勢いよく飛び出していく。近くで見ると、風に乗るとグライダーは思いのほかスピードがある。一度はまれば、どんどん引き込まれそうな興味深い競技だ。
山登りのもう一つの楽しみは木の観察にある。所々にヤシオツツジの花を見ながら歩いていたが、ウワミズザクラの気品のある花に出会った。あのピンクのミネザクラとは全く異なった花をつけるが、バラ科のサクラの仲間である。カメラを近づけてよく見ると、房状の花の一つ一つは、桜の花びらのように見える。材は粘質で強く木工や彫刻に使われる。古代の亀甲占いで溝を彫ったことに名前の由来があるとものの本には見える。
降りのコースはブナの林である。所々にブナの古木が、枝を大きく広げて、まるでここは自分の場所であることを宣言しているような姿が見られる。木々の世界にも過酷な生存競争がある。木は環境さえよければ何千年と生き続ける。木が死んでいくのは、生存競争に敗れた結果である。ブナの古木のように自己主張を続けるならば、競争に負けることはない。だが、相手は木だけではない。斜面の木が強風や落雷で裂けたり、根こそぎ倒されているのも見かける。地球はあらゆる生命の運命共同体である。