登山の楽しみは三つある。ひとつは登山前の準備とシュミレーション。ふたつは実際の苦しみをの後に見られる山岳景観。そしてみっつめは登山家から帰ってからの回想である。きょう家に帰って初めて千歳山に登ってみたが、5日も経つのに脚の疲労はまだ完全にはとれていないことがわかる。さて、山行5日目である。目前の黒部五郎岳の岩峰に圧倒されながら、カールルートで頂上を目指す。いよいよ最後の大きな山だが、蓄積された脚の疲労もピークに達している。標高2839m
、氷河が削り取ったカール地形と奇岩の対比が面白い。
標高2700mの上は浅い海や湖沼に堆積した礫岩や砂岩でできいる。ものの本によれば、2億年も前の造山運動で、かつての海がこの日本アルプスの頂上部に持ち上げられたいわれる。昼近く、頂上に着く。大勢の人が登頂を喜び合っていた。なかでも若い10人ほどのパーティが、歌のような掛け合いで登頂を喜び、昼食の合図も歌になっていた。聞くと中央大学のパーティということであった。西南の雲の間に、一筋の残雪を湛えた山が見えた。「あれは白山ですか」という声がする。
下山途中の岩場で、石に足をひっかけて転倒する。手をついたとき、擦り傷で出血。カットバンで血を止める。この山行で転倒3回。木道と平坦な道で石を踏んだ時。やはり足の疲労が転倒を招くのか。いずれも大事至らず。
黒部五郎岳から北ノ俣岳に至るルートが見える。広々とした開放的な尾根歩きだ。もうここまでくれば、ほぼ予定のルートは終わったように感じた。ところが、赤木山から北ノ俣岳へのルートは容易に見えてそうはいかない。這い松のなかの道も、上から見たのとは大違いで、石ころがたくさん転がる歩き難い道である。足に蓄積した疲労が余計にそんな感じにさせるのかも知れない。しかし、山間の草原は、いかにもヨーロッパのアルプスを彷彿させる。ハイジと子犬が戯れていそうな雰囲気だ。この一番長いルートが終われば、最初に泊まった太郎平小屋に泊まる。最後に皆でビールで乾杯して、最後の折立へのコースをとる。