昨日、岳風会山形地区本部の「新春の集い」があった。国際ホテルのホールで150名ほどの吟友が集まった。年に一度の行事であるが、いささかマンネリの感も消し難い。それでも、10名の独吟と役員吟が披露されるので、年の初めに聞くことを楽しみにしている。今年聞きごたえのあった吟詠は、山形岳風会太田会長が吟じた杉浦重剛「自訟」である。
岳に登りて天下を小とし
自ら誇る意気の豪なるを
其れ山上の山を奈んせん
之を仰げば一層高し
自訟という言葉を漢和辞典で見ると、自分自分の過ちを責めること、とある。杉浦重剛は近江膳所藩の藩士で化学を学ぶために、明治9年に英国に留学した。明治になって10年も経たない内に留学するのは、まさにエリート中のエリートである。天下を下に見、意気軒高であるのも、時代を考えれば理解できる。しかし転句で他に聳える山を見出す、自分に比べればさらに高い。重剛は自らが有頂天になっていたことを自訟する。この心の持ち方が、杉浦重剛の教育者への道を決定づけた。
後に東京英語学校を創設、この門から横山大観、佐々木信綱、大町桂月、吉田茂など多くの人材を輩出した。新年の一吟も、このように人の生き方を、もう一度偲ぶことにより、楽しくなる。